病気・ケア

お家に潜む危険……わんちゃんが食べてはいけない植物とは?

執筆者:葛野 莉奈
麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。獣医師 ...プロフィールをもっと見る

愛犬と一緒に過ごすなかで、気をつけなければならないことはたくさんあります。
お散歩中の交通事故や病気、そして家の中での誤食もその一つです。
プラスチックなど本来口にしてはいけないものは、わんちゃんの近くに置かないなど、日常的に気をつけている飼い主さんも多いでしょう。

では、お部屋や庭・お散歩中によく見かける植物にも、犬にとって有害なものがあることをご存知でしょうか?
身近にある危険な植物について、そして万が一食べてしまったときにどのように対処すべきかを把握しておくと、慌てず冷静に行動できるはずです。

食べてはいけない植物

じつは私たちの身近には、犬に何らかの害を及ぼす植物が意外と多く存在します。
ここで挙げるのはほんの一部ですが、もし危険かどうかわからない場合は、わんちゃんの届かない場所へ置くなどの工夫をしたほうが良いでしょう。

下痢や嘔吐を引き起こす植物

  • アイビー
  • 朝顔(種)
  • シクラメン
  • あじさい→嘔吐やめまい、意識障害

アイビーやシクラメン・朝顔などは、お庭や室内で育てているご家庭も多いのではないでしょうか。
アイビーの葉や茎には中毒物質が含まれているため、わんちゃんが食べると下痢や嘔吐などの消化器症状を引き起こします。

シクラメンも、毒性は弱いものの、摂取すると下痢や嘔吐などの消化器症状を示すことがあります。

また、朝顔は種に中毒物質が含まれており、激しい嘔吐や下痢につながります。
さらに、他の中毒物質の向精神作用により、幻覚症状を伴う場合もあるため、注意が必要です。
あじさいの葉には、嘔吐などの消化器症状やめまい・意識障害などを起こす物質が含まれています。
お散歩コースにあじさいがたくさん生えている場合は、間違って口にしないように注意して行動しましょう。

下痢や嘔吐は、わんちゃんにとって体力消耗の原因にもなり、体に負担をかけてしまいます。摂取してしまったことがわかったら、できるだけ早めに動物病院を受診しましょう。

神経に害が及ぶ植物

  • スイセン
  • ヒガンバナ
  • アセビ

スイセンやヒガンバナの仲間は、大量に摂取すると中枢神経の麻痺を起こし、死に至る危険性があります。
スイセンなどはお庭に咲いているご家庭もあるのではないでしょうか。
ヒガンバナもお散歩コースにたくさん咲いているケースが多いです。
誤って口にしてしまわぬよう注意が必要です。

アセビは、あまり馴染みのない飼い主さんも多いかもしれませんが、神経麻痺などを起こすこわい植物です。
呼吸困難を伴い、死に至る危険性もあります。
お庭に咲いているご家庭は、わんちゃんが絶対に口にしないよう、気をつけてあげてください。

皮膚炎や口内炎を起こす植物

  • モンステラ
  • ポトス

観葉植物として人気のモンステラやポトスには、シュウ酸カルシウムと呼ばれる物質が多く含まれ、噛むことで口内や口唇・口周りの皮膚が炎症を起こすことがあります。

室内に飾る植物は、わんちゃんの目につきやすく、いたずらの対象となることも多いです。
わんちゃんをお迎えする前から飾っているご家庭は、触れない場所に移動させるなど、配慮してあげましょう。

心臓への毒性を持つ植物

  • ジギタリス

ジギタリスは強心作用(心臓の働きを強くする)がある植物として有名です。
少量であれば薬剤と同様に強心作用を得られますが、大量に摂取すると、下痢や嘔吐のほか、心臓へ害を与えて死に至らす危険性のある怖い植物です。
きれいな花をつける植物のため、育てているご家庭もあるかもしれませんが、絶対に口にさせないよう注意しましょう。

ここで挙げた植物はほんの一部で、わんちゃんにとって毒性のある植物はほかにもたくさんあります。
また毒性がなくても、普段食べ慣れないものであるため、口にしてしまうとお腹がびっくりして下痢や嘔吐を起こす危険性もあります。

お散歩などで草を食べる傾向がある場合には、わんちゃんが食べても大丈夫なペット用の植物を室内に置くのも対策の一つです。

もし食べているのを見つけたら?

お家のわんちゃんが植物を口にしているのを見つけたら、食べて良いものか、悪いものなのかを判断する前に、パニックに陥ってしまう飼い主さんは多いです。
口から取り出せればベストですが、万が一飲み込んでしまった場合も、動物病院で正確な情報を伝えることが命を助ける近道となるでしょう。

声をかけて注意をそらし、食べるのをやめさせて口から出す

まずは食べるのをやめさせて、口から取り出さなければなりません。
このときに、飼い主さんも驚いてしまい、大きな声を出してびっくりさせてしまったり、渡さないようにと焦ったりすると、飲み込んでしまう可能性があります。

飼い主さんは落ち着いて、いつもと同じように声をかけ、おもちゃやおやつなどを使って、口にした植物からわんちゃんの注意をそらしましょう。
口から離した瞬間に、すばやく取り去ることも忘れてはいけません。

食べた時間や量・植物の種類を把握する

食べるのをやめさせて口から取り出した後は、受診が必要となりますが、このときにより正確な情報を伝えることが重要です。
いつ、どんな植物を、どのくらいの量食べてしまったのかを確認しましょう。
なかには、目を離した隙に散らかして遊んでいただけで、実際には飲み込んでいないこともあります。
近くにある残骸も併せて確認し、確実に食べているのか、それとも実際に食べたかどうかわからないのかなどを動物病院で伝えられると、診察や検査がスムーズに進むでしょう。

できるだけ早く動物病院へ連絡する

吐かせる処置をする場合には、腸に内容物が移動する前でなければなりません。
そのため、できるだけ早く動物病院へ連絡し、判断を仰ぎましょう。
とくに毒性の高い植物の場合、より速やかな対応が求められます。

かかりつけの動物病院が診療を行っている時間帯であれば問題ありませんが、夜間や休診日の場合は、どうしたらよいかわからず焦ってしまうかもしれません。
そうならないよう、かかりつけの動物病院に、緊急時の連絡先やほかの受け入れ先を確認しておきましょう。
ほかの病院であれば、どこが近くてどの時間帯に診察を行っているのかも、あらかじめメモしておくと安心です。

動物病院で行う処置

毒性のある植物を食べてしまった場合、体に起こりうる中毒症状を防ぐため、または現在起こっている症状を軽減するために、状態に応じて処置が必要となります。
ご家庭ですべきことは、できるだけ早く受診をすることですが、動物病院ではどのような処置を受けるのかを具体的に把握しておくと、より冷静に行動できるはずです。

催吐

食べてしまったものが腸まで移動する前であれば、わざと吐かせる「催吐」という処置が可能です。
多くの場合、オキシドールの経口投与や、催吐効果のあるお薬を注射して吐き気を促します。
家庭でオキシドールを飲ませたり、食塩を食べさせたりすることで吐き気を促せるという説もありますが、誤嚥の危険性や、過剰な食塩の投与による食塩中毒につながることもあるため、おすすめできません。
家庭で処置を試みることはやめましょう。

解毒および中和

吐かせることが難しい場合、体内の中毒物質を速やかに体外へ出す処置や、体内の濃度を薄める処置を行います。
解毒剤は中毒となる物質によっても異なりますが、解毒剤の投与や濃度を薄めるための処置として点滴を行うことが多いです。
この点滴処置を行うために、一時的に入院が必要となる場合もあります。

胃洗浄

わんちゃんの大きさや、食べてしまったものによっては胃洗浄を行う場合もあります。
ただし、胃にカテーテルを入れて洗浄を行うために、鎮静や麻酔をかける必要が生じる可能性が高いでしょう。
全身状態によっては、鎮静や麻酔の処置が体にさらに負担をかけてしまうリスクがあるため、胃洗浄の処置自体が難しいケースもあります。

中毒物質による症状への対処

下痢や嘔吐など、植物の毒性によって起こりうる中毒症状はさまざまです。
その症状が続くことで、わんちゃんの体への負担がかかってしまうでしょう。
そのため、中毒物質を除去する処置と同時進行で、中毒物質による症状への対処も行わなければなりません。
受診時には、みられる症状について正確に説明しましょう。
受診までの短い時間でも、嘔吐の有無、便の状態、排尿の有無や尿の状態、元気の有無、食欲の有無など少しでも情報量が多ければ、わんちゃんの状態を獣医さんが把握でき、負担を軽減してあげられます。
飼い主さん自身も慌てずに、わんちゃんを落ち着かせながら、様子をしっかり観察してあげてください。

お家の中でのトラブル回避対策

万が一トラブルが起こってしまったときに、冷静に対処することも大切ですが、トラブルが起こらないよう対策を行うことが一番大切です。
好奇心旺盛で、いたずらが大好きなわんちゃん達にとって、お家の中やお散歩中に存在する植物は気になる存在と言えるでしょう。
このようなトラブルを回避するために、飼い主さんはどんなことができるのでしょうか。

わんちゃんに届かないよう模様替えをする

まずは、植物を物理的に触れない場所に置くことが非常に大切です。
目につかない場所や、触れない場所であれば、わんちゃんがいたずらの対象として認識して、誤って食べてしまうこともないでしょう。
ケージなどから少し距離をとっただけでは、手を伸ばしたり、体当たりしてケージを動かしたりすれば、簡単に届いてしまいます。
わんちゃんの身体能力なども加味して工夫する必要があります。

お留守番時にケージの中にいてもらう

お留守番中は、植物のいたずらだけではなく、コードに感電してしまうことや、おもちゃを誤って食べてしまうなどのトラブルも考えられます。
飼い主さんがいない間の、お家の中を自由にできる時間は、わんちゃん達にとってパラダイスです。
好奇心の旺盛な子はもちろんですが、飼い主さんの前ではあまりいたずらをしない子でも、人の目がなくなると何をするかわかりません。
行動範囲を限定できるように、安全のためにもお留守番時はケージの中にいてもらうように習慣づけましょう。

口に手を入れて取り出せるように普段からしつけておく

植物を口にしていることに気付いても、取り出せなければ意味がありません。
普段から口を触られることを嫌がる子の場合、咄嗟に口に手を入れられると、余計にパニックになって飲み込んでしまうこともあるでしょう。
そのため、普段から口を触られることに慣らしておくと、万が一のときに落ち着いて取り出せる可能性が高いです。
幼若なうちからスキンシップの一環として、口周りを一通り触れるようにしておきましょう。

まとめ

身近に危険な植物が意外と多いことに、驚かれた方もいるのではないでしょうか。
なかには、名前だけ聞いてもどんな植物かピンとこないものもあるかもしれません。
室内やお庭で育てていなくても、散歩コースに生えている植物も多くあります。
「散歩中に植物を食べるのが習慣化していて、楽しみにしているためなかなかやめさせられない」という飼い主さんからのお話を聞くことがあります。
また、散歩中にお散歩仲間との話に夢中になってしまい、何か植物を食べていることに気付かなかったケースもみられます。
しかし、どのような植物であっても、植物を食べる習慣はつけないことが望ましいです。口にしようとしていたらやめさせるように、しっかりとしつけを行っていきましょう。うことが大切です。
そして、万が一口にしてしまったら、できるだけ早く受診をしてください。

ABOUT ME
葛野 莉奈
麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。
獣医師の電話相談窓口やペットショップの巡回を経て、横浜市に自身の動物病院を開院。
開院後、ASC永田の皮膚科塾を修了。
皮膚科や小児科、産科分野に興味があり、得意分野とさせていただいています。
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