執筆者:平松 育子
獣医師・ペットライター山口大学農学部獣医学科卒業山口県内の複数の動物 ...プロフィールをもっと見る
犬がチョコレート食べると中毒を起こすことは、多くの飼い主さまがご存じだと思います。
では、誤って愛犬がチョコレートを食べてしまったら、どのように対処すればよいのでしょうか。
本記事では、犬がチョコレートを食べたときの主な症状と危険な量、対応方法について解説します。
犬がチョコレートを食べたときの症状
犬がチョコレートを食べた直後に変わった様子がなければ、大丈夫だと思ってしまうかもしれません。
しかし、犬のチョコレート中毒の症状は一般的に誤食後6~12時間であらわれます。場合によっては、2~4時間で起こることもあるため注意が必要です。
初期症状
チョコレートを誤食した際の初期症状としては、以下が挙げられます。
- 嘔吐
- 下痢
- 失禁
- 落ち着きがなくなる
深刻な症状
さらに深刻なチョコレート中毒を起こすと、以下のような症状が見られ、命にかかわる危険性もあります。
- 震え
- 頻脈
- けいれん
- 意識消失
上記は一般的なチョコレート中毒の症状ですが、どのような症状が起こるかは犬の体重や体質、食べたチョコレートの種類や量によって異なります。
すぐに症状が見られなくても油断せずに、口にしたことがわかったら必ず動物病院を受診しましょう。
チョコレートで中毒が起こるのはなぜ?
チョコレート中毒が起こる原因は、チョコレートに含まれるテオブロミンやカフェインです。
どちらも人が食べても問題ない成分ですが、犬にとっては危険な成分です。
テオブロミン
テオブロミンとは、カカオ豆に含まれるアルカロイドの一種で、チョコレートやココアの苦み成分です。
人にとってテオブロミンは、血管を拡張させて血流量を高め、体温をあげる効果があり、脳内物質のセロトニンに働きかけてリラックス作用をもたらします。
このように、人にはメリットのある成分ですが、犬にとっては中毒物質です。
人はテオブロミンを分解できますが、犬はテオブロミンを分解、排泄できないため体内に蓄積されてしまい、神経や心臓に悪影響をもたらすおそれがあります。
カフェイン
カフェインは緑茶やコーヒーに含まれていることで有名ですが、チョコレートの材料の一つであるカカオにも含まれています。アルカロイドの一種で、中枢神経を興奮させる作用があります。
摂取する量にもよりますが、多くのケースでは2~4時間後に落ち着きがなくなる、嘔吐下痢、頻脈(脈が速くなる)などの症状が起こります。
中毒が進行していくと高血圧、不整脈、けいれんなどが起こり、最悪の場合死に至る危険性もあるため注意が必要です。
犬が食べると危険なチョコレートの量
ここまで、犬にチョコレートを与えることの危険性について解説してきましたが、どのくらいの量を食べると危険なのでしょうか。
実は、チョコレートの種類によって危険な量は異なります。
テオブロミンの致死量
チョコレート中毒を引き起こすテオブロミンの量は、犬の体重や体格、チョコレートの種類によって異なり、おおよそ「体重1kgあたり100~200mg」といわれています。
また、中毒症状は「体重1kgあたり20mg」から見られるといわれており、「体重1kgあたり60mg」でけいれんが起こる場合があります。
小型犬のほうが体重あたりのテオブロミン摂取量が多く、重症化しやすいため注意が必要です。
チョコレートの種類別のテオブロミン含有量
チョコレート1gあたりに含まれるテオブロミンの量は以下のとおりです。
- 製菓用チョコレート:15mg
- ココアパウダー:5~20mg
- ブラックチョコレート:5mg
- ミルクチョコレート:2mg
- ホワイトチョコレート:0.05mg
たとえば、体重3kgの犬の場合、以下の量のチョコレートを食べると中毒症状が起こる危険性があります。
- 軽度の中毒症状:4g
- 重度の中毒症状:12g
- 致死量:20g
- 軽度の中毒症状:30g(約1/2枚)
- 重度の中毒症状:90g(約2枚)
- 致死量:150g(約3枚)
中毒を起こす量には個人差があり、上記はあくまでも目安です。しかし、製菓用のチョコレートにはテオブロミンが多く含まれており、ほんの少量でも命にかかわる危険性があります。
「含有量が少なければ大丈夫」と考えず、チョコレートは愛犬のそばに置かないように十分注意してください。
チョコレートのカフェイン含有量
チョコレートの原料であるカカオにはカフェインが多く含まれています。
体重1kgあたり20mgで軽度の中毒症状、40mgで重度の中毒症状が起こるといわれています。
ミルクチョコレートに含まれるカフェインの量は、1枚当たり約14mgです。カフェイン濃度の濃いチョコレートは、さらに危険度があがります。
舐めた・少量食べてしまったときは?
舐めてしまった程度では、ほとんどの場合大きな問題はありません。しかし、もっとも怖いのが、愛犬が「甘くておいしい!」という認識を持ってしまうことです。
チョコレートのにおいがすると、犬が探すようになる可能性があります。つい片づけ忘れてしまい、犬の手の届く範囲にチョコレートがあると食べてしまうおそれがあります。
一度おいしさを知ると、危険な目にあわせてしまうかもしれません。今後のことを考えると、「少量食べても問題なかったから大丈夫」という考えは禁物です。
犬がチョコレートを食べてしまったときの処置
実際に犬がチョコレートを食べてしまった場合、または食べた可能性がある場合はどのように対処すればよいのでしょうか。
食べたチョコレートの種類と量を確認して病院へ
まず「何時ごろ」「何を食べたのか」「どのくらい食べた可能性があるのか」を確認しましょう。また、以下の症状をよく確認し、かかりつけの動物病院に電話で連絡してください。
- 嘔吐や下痢の有無
- 意識の有無(話しかけた際に反応があるか)
- 呼吸の状態
- 震えやけいれんの有無
先に連絡して状況を伝えておくことで、検査や処置をスムーズに行えるようになります。一刻も早い対処が必要なため、連絡したらすぐに動物病院へ向かいましょう。
無理に吐かせようとしない
チョコレートを食べているところを見つけても、慌てて吐かせようとしてはいけません。
ネット上には吐かせる方法が紹介されていますが、かえって状態が悪化する場合もあるため危険です。
チョコレート中毒に対する病院での治療方法
チョコレート中毒の原因となるテオブロミンの解毒薬は、残念ながらありません。体に吸収される前に、できるだけ胃の中から排泄させることが一番大切です。
食べたものが胃から吸収され、腸のほうに移動するまでの時間は、約2時間といわれています。時間が経過していて催吐処置が難しい場合や、大量に食べてしまった場合は、胃洗浄が選択されることもあります。
胃の中にない場合は催吐処置や胃洗浄は効果が低く、浣腸や吸着炭を用いることもありますが、時間勝負であることには間違いありません。
食べてしまった、食べた可能性がある場合は、変わった様子がなくても、可能な限り早く動物病院に連絡してください。
これまで、何度かチョコレート中毒の犬の治療をおこなったことがあります。
カカオ濃度の高いチョコレートを食べた、製菓用のチョコレートを食べた、大袋の徳用チョコレートを全部食べたなど、どの犬も危険な状態に陥っていましたが、幸いにも処置が間に合い、命に別状はありませんでした。
どのケースにも共通していたのは、飼い主さまの来院が速かったことです。「今は変わった様子がないけれど」と言いながら愛犬を連れてきてくださりました。
しかし、催吐処置をおこなったところ、想像以上の量のチョコレートを食べており、様子を見ていれば命にかかわったと思える状況だったのです。
少しでも不安なことがあれば、必ず動物病院を受診することが大切だと実感しました。
【まとめ】犬にチョコレートは危険!管理を徹底しよう
今回はチョコレート中毒の危険性について取り上げました。
犬は甘いものが大好き。飼い主さまがおいしそうに食べている姿をじっと見ながら、食べたいなと思っているかもしれません。
しかし、犬は食べて良いものか、悪いものかがわからない場合が多いため、飼い主さんが誤食しないようにしっかりと管理してあげる必要があります。
万が一チョコレートを食べてしまったら、症状が見られなくてもすぐに動物病院に連絡しましょう。
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