執筆者:葛野 莉奈
麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。獣医師 ...プロフィールをもっと見る
お家にわんちゃんを迎える場合、飼い主さんはわんちゃんの保護者になるため、わんちゃんの健康のために、健康管理をする責任が生じます。
飼い主さんが行うべき健康管理のひとつに予防接種を受けさせることがあります。
中には法律で義務づけられているものもあり、わんちゃんの命を守るためにも正しく理解をし、受けてもらう必要があります。
飼い主さんが気をつけなければいけないこと、なぜ接種の必要があるのかなど、予防接種について最低限知っておきましょう。
予防接種はなぜ必要?
わんちゃんにとって必要な予防接種は、狂犬病予防接種と混合ワクチンの主に2種類になります。
混合ワクチンの予防接種は生後数ヶ月の間は3~4週間ごとに2~3回、その後は1年ごとに行うことが一般的で、狂犬病予防接種は1年に1度行うことが一般的です。
動物病院を受診しなければいけないし、面倒くさいと感じる飼い主さんもいるかもしれません。
予防接種はなぜ必要なのでしょうか。
わんちゃんの健康を守るため
わんちゃんの予防接種の目的は、人間と同じで、病気と出会ったときに体がきちんと病原体に対して戦ってくれるよう、充分な免疫力をつけることになります。
現在は狂犬病に関して日本は清浄国と呼ばれていて、日本国内に狂犬病は存在しないとされていますが、混合ワクチンで予防できる病気は、日常的にわんちゃんが接触する可能性のある病原体のものになります。
お散歩コースやトリミング施設、動物病院でお友達のわんちゃんと会ったり、お家で他のわんちゃんと暮らす場合に、病気をもらってしまって、程度によっては命を落とす可能性もあります。
愛するわんちゃんの健康を守るために、予防接種は大切です。
他のわんちゃんの健康を守るため
逆にご自身のわんちゃんが他のわんちゃんに病気をうつしてしまう可能性もあります。
ご自身のわんちゃんが大丈夫であれば、必要ないのでは?と思う飼い主さんもいるかもしれませんが、他のわんちゃんにも愛してくれる飼い主さんがいて、大切に思う気持ちは同じです。
ご自身のわんちゃんが他のわんちゃんの命を奪うきっかけになってしまわぬよう、きちんと予防をしましょう。
トリミングサロンやペットホテル、ドッグランなど他のわんちゃんと接触する機会のある場を利用する際には、予防接種の接種証明書の提出が求められる場合もあります。
いつでも明示できるよう、毎回接種証明書は飼い主さんが保管する必要があります。
飼い主さんの健康を守るため
狂犬病という病気や混合ワクチンの中に含まれる一部の病気は人獣共通感染症と言って、飼い主さんにも感染する可能性のある病気です。
日本に狂犬病は現在はないというお話をさせて頂きましたが、以前は国内にも存在し、飼い主さんたちの命をも脅かす病気でした。
狂犬病予防接種に関しては、法律で飼い主さんは一年に一回の接種が義務づけられています。
日本が狂犬病の存在しない清浄国になったのは、きちんと飼い主さんたちが狂犬病予防接種の義務を守ってきたからだと言えるでしょう。
まだ海外には存在する狂犬病ですが、再び国内で感染の脅威に曝されることのないよう、法律にもある接種の義務を守るようにしましょう。
また、万が一わんちゃんが他の人や犬を噛んでしまった場合、噛み傷から感染が広がると言われている狂犬病は、きちんと予防接種をしていることをケガを負わせてしまった相手や保健所に明示する必要があります。
予防接種の証明書や、狂犬病をして自治体に登録した際に配布される鑑札などは、いつでも明示できるよう、紛失しないよう気をつけましょう。
予防接種の種類について
予防接種もただ接種するだけでなく、飼い主さんが選ぶ必要がある場合もあります。
どのような違いがあるのか、そしてお家のわんちゃんに必要で適しているのはどんなものなのか、飼い主さんも理解した上で選ばなければなりません。
予防接種が無意味なものにならないよう、どんな違いが種類によってあるのか、しっかり学習しましょう。
狂犬病予防接種
狂犬病という病気を予防するためのワクチンになります。
年に一度接種をすることが義務づけられています。
狂犬病予防接種は不活化ワクチンと呼ばれるワクチンになり、病原体の能力を失わせたものになります。
混合ワクチンとは異なるため、それぞれ1回ずつ、計2回ワクチンを接種することになります。
国内で過ごし、法律に従う場合であれば、年に1回の接種で問題ありませんが、わんちゃんを連れて海外に渡航する場合、年に一度ではなく、渡航先から予防接種の指定がある場合もあるため、必要な際は確認が必要です。
また、混合ワクチンと異なり、狂犬病の予防接種はいろいろな種類があるわけではないため、選択は必要ないですが、高齢になって全身状態によっては接種をするか否かということを選択しなければなりません。
その場合、接種の義務があるため、かかりつけの動物病院の先生と相談した上で、接種しない旨を文書にしてもらう猶予証明というものを自治体に提出する必要がある可能性が高いです。
何か持病が見つかった場合や全身状態が悪い場合はかかりつけの先生と相談をし、接種するかどうかを慎重に考えてみて下さい。
混合ワクチン
狂犬病と異なり、日常生活の中で接する可能性のある病原体の予防をするのが混合ワクチンになります。
死の可能性につながり得る病気から、下痢などの症状で体に負担をかける病気など、予防できる病気は様々で、特に重要な病気が組み合わせられて、予防できる病気の種数がワクチンによって異なります。
病気によって、病原体を不活化している不活化ワクチンと、弱毒化と言って害がないように変化させた生ワクチンを組み合わせているワクチンが一般的です。
混合ワクチンで含まれる病原体は以下の種類が挙げられます。
犬ジステンパー
ウイルスによる感染症で、感染力が強く感染すると死に至る可能性の高い怖い病気です。
発熱し、嘔吐下痢などの消化器症状や、鼻汁・目やになどを伴い結膜炎や咳・くしゃみを呈し、進行すると脳にまで感染が及び、痙攣などの神経症状が現れて死に至る場合があります。
免疫力の弱い若齢や高齢のわんちゃんの場合、致死率も高まり非常に危険です。
犬パルボウイルス感染症
ウイルスによる感染症で出血を伴う激しい下痢や嘔吐を引き起こす病気です。
感染力が強く、免疫力の弱い若齢や高齢のわんちゃんが感染すると重篤化しやすいため、全身状態が悪化して死に至る可能性が高まります。
また、環境中に数ヶ月存在することが出来る性質をもつ強いウイルスであるため、感染したわんちゃんが近くにいる場合、他のわんちゃんの感染対策として消毒や隔離など、飼い主さんの配慮が必要です。
犬伝染性肝炎
ウイルスによる感染症で、肝臓に影響を与えます。
特に抵抗力の弱い若齢のわんちゃんは重症化しやすく、消化器症状や、肝臓の肥大などだけでなく発熱や皮膚の点状出血などが起こる場合もあります。
犬アデノウイルス感染症
前述の伝染性肝炎もアデノウイルスの感染が原因ですが、同じアデノウイルスでも型が異なると違う症状を示します。
こちらの場合、気管支炎を起こし、呼吸器症状を呈します。
ケンネルコフという若齢のわんちゃん特有の風邪として有名です。
致命的にはなりにくいですが、そのまま放置したり、いくつかの感染症が重なると重篤化をして全身状態が悪くなるので死につながる可能性もあります。
犬パラインフルエンザウイルス感染症
犬アデノウイルス感染症と同様、呼吸器症状を呈しケンネルコフという風邪の原因の一つと言われている感染症です。
単独で重篤化する可能性は低いですが、感染力が強く、抵抗力の弱い若いわんちゃんたちが多くいる場所では、蔓延しやすい傾向があります。
犬コロナウイルス感染症
下痢嘔吐などの消化器症状を呈するウイルス性の感染症です。
若齢のわんちゃんの場合、激しい胃腸炎につながりやすく、重篤化する可能性が高いため、注意が必要です。
コロナウイルスの感染は、前述のパルボウイルスと混合感染する可能性があり、その場合重篤化する可能性が高く、死に至る場合があります。
レプトスピラ症
感染したねずみの尿やその尿に汚染された水・土壌などに接触することで感染する病気です。
細菌が原因となり、腎不全や肝不全、発熱などの症状を呈し、飼い主さんにも感染する可能性のある人獣共通感染症です。
型が複数あり、特にわんちゃんの感染に関係のある、4種までの型を予防できるワクチンが存在します。
これらの病気を組み合わせて、1種類から10種類まで病気を予防できるワクチンが、様々なメーカーから開発されています。
かかりつけの先生がどのワクチンを使っているかということにもよりますが、これらの病気の特にどの病気に重点を置くかと言うことを考えて、何種のワクチンを接種するか選択する必要があります。
例えば、犬ジステンパーやパルボウイルス感染症は致死率も高く、感染力の強い疾病であるため、最低限でも予防する必要があります。
他にはレプトスピラ感染症はネズミが媒介する病気であるため、ネズミがいるような環境であるかどうかを考えたうえで、含まれるワクチンを選ぶことも飼い主さんの役割です。
後述しますが、ワクチンを接種することでアレルギー症状を呈してしまう体質の子もいます。
接種で大きな負担がかかってしまうようであれば、接種を検討しなければなりません。
接種が難しいようであれば、抗体検査と呼ばれる免疫力を測定する検査もあります。
負担をかけずにわんちゃんの健康を守る方法をかかりつけの先生と相談しながら、飼い主さんが選んであげることが大切です。
予防接種のタイミング
予防接種は病原体に対する免疫をより強固なものにするために行うものです。
1年に1回、もしくは抗体検査にて不充分な抗体価になった際に接種をするとされていますが、若齢のわんちゃんの場合、お腹の中から生まれ出て、お母さんから免疫力をもらっていますが、消失するタイミングがあります。
消失するタイミングに合わせて、自分自身の免疫力として作り出せるように、頻度を上げて接種してあげる必要があります。
世界小動物獣医師会(WSAVA)が出しているワクチネーションガイドラインでは以下のように提示されていますが、接種時の体調などによって接種の可否も決まるため、全てこのガイドラインに則って行われなければならないわけではありません。
混合ワクチン
- 6~8週齢で最初に接種をする
- 2~4週齢ごとに16週齢以降まで行う
狂犬病予防接種
- 12週齢で1回接種
- 12週齢未満で初回接種した場合、12週齢で再接種を行う
- 高リスク地域では初回接種の後に2~4週後に2回目の接種を行っても良い
混合ワクチンの場合、このガイドラインに基づいて、生後3ヶ月をめやすに2~3回の接種を行うことが多いです。
狂犬病予防接種は法律では90日齢以降での接種および届け出が義務づけられているため、これらのガイドラインと法律に合わせて、若齢期のワクチンが完了してから、もしくは最終予防接種完了前に接種および届け出をすることが多いです。
予防接種を受ける際に気をつけたいこと
予防接種を受ける際、他にも飼い主さんが気をつけてあげなければならないことがあります。
ワクチンは病原体そのものよりも弱毒化していたり不活化をして、害がないようにしてありますが、免疫力をつけてもらうために、そとから自分以外のものを入れるため、わんちゃんの体は反応します。
全くの負担がないわけではありません。
以下のことも心がけられると安心です。
予防接種を受ける際は病院内の滞在時間も含めて余裕のあるスケジュールを組む
予防接種の際に一番気をつけなければいけないのが、接種によるアナフィラキシーショックです。
重篤な場合は死につながる可能性があり、症状が出た場合はすぐに対処する必要があります。
アナフィラキシーショックは接種後30分以内に起こる可能性が高いと言われているため、できれば30分程度院内に滞在して様子を見られると安心でしょう。
現在はコロナ渦により、院内での滞在を制限している動物病院もあると思うので、その場合駐車場の車内で待機しておくことは可能かなど、事前に予約する際に病院側に確認しておくと安心です。
予防接種を受ける日は、受診後に飼い主さんも一緒にいてあげられる日に
アナフィラキシーショックが起こらなかったとしても、前述の通り、予防接種はわんちゃんの体に負担をかけることも多いため、下痢や発熱など、体調に変化が出る可能性があります。
いつもと違う体調に、わんちゃんも不安になる可能性もあります。
できれば飼い主さんも一緒にいられる日にちに接種するようにすると、わんちゃんも安心できるでしょう。
予防接種を受ける時間帯は午前中などの早めの時間に
アナフィラキシーショック以外にも、死にはつながりにくいですが、副作用が出る可能性があります。
よく知られているのが顔が腫れるという症状です。
接種後12時間程度は様子を見ることが出来ると安心です。
副作用が出る場合、わんちゃんも違和感を感じるため、負担になりやすく、すぐに処置をしてあげる必要があります。
万が一副作用が出ても、診察時間内で済むかもしくは救急対応してもらえる病院を確認しておくと安心です。
まとめ
わんちゃんの健康を守るために大切な予防接種ですが、軽視して怠ったり間違って理解すると、ご自身のわんちゃんや周りのわんちゃん、場合によっては飼い主さん自身の健康にも害を与えたりしてしまうこともあります。
予防接種とはどんなものなのか、心配点や理解できない部分はかかりつけの動物病院の先生にしっかり相談したり確認をしながら、ご自身のわんちゃんに適する方法や種類を選び、健康を守ってあげられると良いですね。
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