病気・ケア

犬のフィラリア症とは?危険性や予防薬の種類・治療法について解説

執筆者:今井 貴昌
日本獣医生命科学大学卒。地方の動物病院と都内のグループ動物病院で数年 ...プロフィールをもっと見る

ペットショップや動物病院で、「フィラリアの予防薬を飲ませてくださいね。」と言われることがあります。

毎月飲ませる習慣が身についている方は、なぜフィラリアの予防薬を飲ませるべきなのか、あまり深く考えないかもしれません。

しかしフィラリアは、感染してしまうと死につながる危険な寄生虫の一つです。予防薬を飲ませる重要性とともに、万が一感染した際の治療法やリスクについてしっかりと飼い主さんが把握しておくべきです。

この記事では、フィラリア症の基本情報や予防薬の重要性、検査・治療方法などについてまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。

そもそもフィラリアとは?

フィラリアは、蚊が媒介する寄生虫のことです。まずは、犬や蚊と、フィラリアの関係性について学びましょう。

犬に関連する寄生虫の種類

寄生虫は、大きく「外部寄生虫」と「内部寄生虫」の2種類に分類されます。

外部寄生虫は、ノミやマダニのように体外で一生を過ごすタイプの寄生虫で、そのほとんどが節足動物です。

一方で、内部寄生虫は体内に侵入し、成長するタイプです。原虫類、吸虫類、条虫類、線虫類に分類されます。

このなかでもフィラリアは線虫類の一種で、正式名を「糸状虫」と言います。

犬とフィラリアの関係性

寄生虫が寄生する対象を「宿主」と言います。

宿主は、寄生虫が増えることのできる「固有宿主」、増えることのできない「非固有宿主」に大別されます。さらに非固有宿主は、「中間宿主」と「待機宿主」に分類されます。

フィラリアは犬の体内にて発育および増殖するため、犬はフィラリアの固有宿主であると言えます。

蚊とフィラリアの関係性

フィラリアは蚊が媒介する寄生虫です。

少し難しいのですが、フィラリアは蚊の体内でも成長します。そして、蚊の体内で成長したフィラリアが、犬に対しての感染力を持ちます。

非固有宿主の一つである「中間宿主」は、発育の場を提供する宿主のことです。つまり、蚊はフィラリアの中間宿主と言えます。

また、蚊はフィラリアを媒介することから、「ベクター(媒介するもの)」とも呼ばれています。

フィラリアの一生(life cycle)

フィラリアも生き物である以上、成長します。成長過程は、幼虫期と成虫期に分けられます。

産出されたばかりの幼虫が、ミクロフィラリアです。そして、第1期~第4期幼虫を経て、成虫となります。成虫期のフィラリアは、未成熟虫を経て成熟虫となり、増殖が可能となります。

人間に当てはめると、ミクロフィラリアが赤ちゃんで、第1期から順に幼稚園、小学校、中学校、高校生までが幼虫期、その後妊娠すれば未成熟虫から成熟虫へと成長するイメージです。

予防薬について理解するためには、このフィラリアのlife cycleをしっかりと把握しなければなりません。

ミクロフィラリア

ミクロフィラリアは、成熟虫が産生する赤ちゃんです。

成熟虫は犬の体内(肺動脈)にいるため、産生されたミクロフィラリアは血管内で流され、全身を循環することとなります。

犬の血管内を循環するミクロフィラリアを、中間宿主である蚊が吸血することで、ミクロフィラリアは蚊の体内で成長します。

第1期~第3期幼虫

蚊の体内での成長時期です。

犬の吸血時に、蚊の体内に侵入したミクロフィラリアは、脱皮を繰り返すことで第3期幼虫へと成長します。

その後、第3期幼虫は、蚊が犬の吸血の際に作った刺創から、再び犬の体内へと侵入します。

第4期幼虫

犬の体内(皮下組織および筋組織)への侵入に成功した第3期幼虫は、感染後約3~4日で脱皮し、第4期幼虫へと成長します。

第4期幼虫は、犬の体内(皮下組織および筋組織)を移動しながら、感染後約50~70日(約2ヶ月)でさらに脱皮し、未成熟虫となります。

未成熟虫および成熟虫

いずれも成虫期ですが、未成熟虫と成熟虫の大きな違いは、ミクロフィラリアを産生できるかどうかです。

未成熟虫は、皮下組織や筋組織から血管内に侵入し、やがて心臓および肺へと到達しますが、この時点ではまだミクロフィラリアを産生できません。

心臓の血管は主に、大静脈、肺動脈、肺静脈、大動脈、冠動静脈で構成されています。

未成熟虫は、肺動脈にてさらに成長することで成熟虫となり、ミクロフィラリアを産生できるようになります。

犬が第3期幼虫に感染してからミクロフィラリアを産生されるまでは、約6~9ヶ月間であるとされています。

犬フィラリアに感染した場合の症状とは

では、犬がフィラリアに感染してしまったかどうかは、どのように見分ければよいのでしょうか。

初期には症状が出ない

フィラリア症の恐ろしいところは、初期にはまったく症状を示さないことです。

犬の体内に侵入した第3期幼虫は、皮下組織あるいは筋組織内で第4期幼虫へと成長します。この時期には、犬には何の症状もあらわれません。

症状が出るのは、未成熟虫や成熟虫が肺の血管に大量に寄生した状態になってからです。

主な症状

未成熟虫や成虫は、肺動脈に主に寄生します。
さらに、寄生虫は右心房、右心室、後大静脈に移動することで、血管を詰まらせたり、赤血球を破壊したりします。

血管が詰まると、血液の流れが悪くなり、咳や呼吸困難、喀血、腹水貯留を引き起こすリスクがあります。

また、赤血球が破壊されることで、貧血や虚脱、血色素尿を呈してしまいます。

いずれも致死的な症状ですが、とくに虚脱や血色素尿を呈する場合には、死亡率は極めて高いです。

犬フィラリア症の予防薬

予防薬にはさまざまな種類があり、動物病院で扱っている薬剤も異なります。

予防薬は内服薬、外用薬、注射薬に分かれています。

内服薬と外用薬は、1ヶ月おきに使用し、注射薬は約半年~1年間有効です。

予防薬の投与期間

蚊が媒介し、蚊から犬の体内に侵入したミクロフィラリアと、その成長過程の第3期および4期幼虫の駆虫薬が、いわゆる「予防薬」とされています。駆虫効果が1ヵ月間持続するものではありません。

また、フィラリアが成長するにつれ、駆虫効果は減弱していきます。

そのため、一般的な予防薬の投与期間は、蚊が出始めて1ヶ月後から、蚊が出終わって1ヶ月後です。

しかし近年、米国犬糸状虫学会およびFDAは、FDAの承認する予防薬の通年投与を推奨しています。

犬フィラリア症に必要な検査

犬フィラリア症が疑われる場合の検査方法について解説します。

抗原検査およびミクロフィラリア検査

フィラリアに感染しているかどうかの検査は、「抗原検査」と「ミクロフィラリア検査」の2種類です。

いずれも血液検査ですが、前者は専用のキットを用い、後者は顕微鏡で確認します。

抗原検査キットにはいくつか種類があり、その感度が異なるため、必要に応じて獣医師が使い分けます。

米国犬糸状虫学会では、7ヶ月齢以上のすべての犬に対し、年に1回の抗原検査とミクロフィラリア検査の実施を推奨しています。

ただし、多くの動物病院では、抗原検査かミクロフィラリア検査のいずれかで判定されています。

その他の検査

フィラリア感染が判明した場合、あるいは感染が疑われる場合には、以下のような追加検査が行われます。

  • 血液検査:貧血の有無や血液凝固機能・腎機能・肝機能の評価
  • X線検査:心臓や肺・腹水の有無などの評価
  • 超音波画像検査:腹水の有無や腹腔臓器・心臓の状態を確認

フィラリアの多数感染症例では、超音波画像検査にて心臓に寄生する虫体も確認することができます。

またこれらの検査は、麻酔をかけなければならない場合のリスク評価としても用いられます。

犬フィラリア症の治療

犬フィラリア症の治療として、予防薬の投与、成虫駆除剤の投与、手術による虫体の摘出が挙げられます。

予防薬の投与

予防薬は、ミクロフィラリア、第3期幼虫、第4期幼虫に作用する薬剤であり、継続的に使用することで成虫にも効果を発揮すると言われています。

成虫の寿命は約5~6年です。予防薬を投与することで新たな感染を防ぎつつ、虫の寿命を待ちます。日本では一般的な治療法でしょう。

ただし、感染犬に対する予防薬の投与により、死虫によるアナフィラキシーが生じる危険性があるため、ステロイドや抗ヒスタミン薬の併用が推奨されています。

また、フィラリアと共生するボルバキアという菌の存在も示唆されており、そのボルバキアがフィラリア症の病態発生に関与しているという説もあります。

したがって、ボルバキアによる症状を緩和するために、抗生剤の併用も考慮しなければなりません。

成虫駆除剤

米国犬糸状虫学会の推奨する治療プロトコールでは、成虫駆除剤を重症度にかかわらず、3回投与することが示されています。 成虫駆除剤であるメラルソミンは、FDA(米国食品医薬品局)にて承認された唯一の薬剤です。 しかしながら現在、日本では販売が中止されているため使用することはできません。

手術による虫体の摘出

フィラリアの多数寄生により、血管が詰まることで血液がうっ滞し、後大静脈症候群を引き起こします。

かなり切迫した状態であり、早急に血管の詰まりを解除しない場合、2日以内に死亡します。

したがって、手術により外科的に寄生している虫体を摘出することがあります。

しかしながら、ここまで病態が進行している犬の予後は非常に悪く、手術により虫体を摘出しても死亡することが多いのが現状です。

まとめ

フィラリア症は、「予防が最大の治療法」と言われるほど、いかに予防するかが重要な寄生虫疾患です。

今までなんとなく予防薬を与えていた方も、これから与える方も、この記事を通して理解を深め、愛犬の命を守っていただきたいと思います。

これからもみなさんが幸せなペットライフを送れることを切に祈っております。

参考:
寄生虫の代表的な種類のまとめ、寄生虫感染症の原因となる56種類の代表的な寄生虫の種類 | TANTANの雑学と哲学の小部屋
犬にみられる外部寄生虫 – JST 獣医臨床皮膚科
微生物の宿主まとめ(固有宿主・中間宿主・多宿主・人体への寄生部位) – 医学部生の基礎医学
犬における犬糸状虫(Dirofilaria immitis)感染症の予防・診断・治療 最新ガイドライン(2018年改訂)

ABOUT ME
今井 貴昌
日本獣医生命科学大学卒。地方の動物病院と都内のグループ動物病院で数年間の勤務を経て、母校の臨床研修医として研鑽を積む。獣医師として社会に貢献するため日々奮闘中。
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