病気・ケア

いつもと様子が違う?犬の発情期と落ち着かせる方法

執筆者:葛野 莉奈
麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。獣医師 ...プロフィールをもっと見る

お家にわんちゃんを迎えて、飼い主さんにとってはいつまでも赤ちゃんのように見えるかもしれませんが、体の発達に伴い性成熟も起こり、行動の変化が見られるようになります。
初めて見る我が子の発情期や、女の子への反応に戸惑う飼い主さんのお話もよく聞きます。

発情期はどのようなもので、お家のわんちゃんに何が起こっているのでしょうか。
そして、起こっている変化に対して、飼い主さんは何ができるのでしょうか。

今はまだ若いわんちゃんも、いずれは性成熟の時期を迎えます。
そのときのために、発情期に起こり得ることと対処法を知っておきましょう。

発情期って何?

「発情期」という言葉は知っていても、具体的にどのような時期なのか・何が起こるのかを知らない飼い主さんも多いでしょう。

発情期とは、女の子が子孫を繁殖するために男の子を受け入れ、排卵をし、妊娠をするための期間です。

犬の発情期は大体10日~1ヶ月くらいと個体差があり、排卵が起こる前後で出血が見られます。
人間の月経とはシステムが異なり、陰部から見られる出血は発情出血と呼ばれます。

外見の変化として、出血以外に乳腺の発達や外陰部の腫大などが見られるのが特徴です。

周期は個体差がありますが、大体7~8ヶ月ごとに発情が起こります。
発情期は男の子への反応も普段と異なり、排卵時期に交配をすると、妊娠する可能性が高いと言えます。

発情期は何歳から起こるの?

個体差がありますが、生後7~8ヶ月頃から起こることが多いです。
性成熟に達してから、起こります。

チワワなどの超小型犬は比較的早い傾向があり、早い子では生後6ヶ月頃から起こる場合もあります。
前兆は見受けられないことが多いため、初回発情は見逃してしまう飼い主さんも多いです。

また、人間には閉経がありますが、わんちゃんには閉経がありません。
周期の変化などはありますが、超高齢になっても発情や発情出血は起こります。

発情期は男の子にもあるの?

男の子には、女の子のような自主的かつ定期的に起こる発情はありません。
しかし、男の子も発情します。

男の子の場合は、発情した女の子のフェロモンを感知して、自らも発情するメカニズムです。
女の子のフェロモンは、数キロメートルの範囲で男の子は感知できると言われています。

近くに発情期を迎えた女の子がいると、その子から発されるフェロモンを感知し、落ち着きがなくそわそわしたり、近くにいる男の子に対して凶暴になったりするなど、攻撃性が見られることがあります。

また、交尾欲により、発情期の女の子の近くに行こうとするなど、いつもよりも激しく興奮することが多いです。

発情期で起こる体への変化

発情出血が起こる子は発情期がわかりやすいですが、出血量が少なかったり、陰部の違和感により舐めとってしまったりして、飼い主さんが発情に気づけない場合もあります。

そんなときに、発情期に起こり得る体調や行動の変化を知っておくと、発情に気づきやすくなるかもしれません。

食欲不振・消化器症状・頻尿などの体調の変化

発情期を迎えると、男の子を受け入れて、排卵をし、妊娠する準備を体が始めるため、体調の変化が起こることが多いです。
主な症状として、食欲不振や消化器症状・頻尿などがあげられます。

ただし、食欲不振や頻尿などは病気が原因である可能性もあり、これらの変化を安易に発情期と結びつけることは危険です。
発情期は抵抗力も低下するため、膀胱炎などの感染性の疾患を起こすリスクもあることや、性ホルモンのバランス変化などによって起こる子宮蓄膿症も、同様に食欲不振がみられることもあるためです。

「食べやすそうなものを与える」「落ち着ける環境をつくる」「声かけをする」など、飼い主さんからもできる配慮をしてあげましょう。

これらで改善が見られなかったり、程度が悪化したりするようであれば、病気の可能性が高いため、早めの受診をおすすめします。

そわそわするなどの行動の変化

体の変化の一つとして、頻尿になることを挙げました。
頻尿は、男の子のマーキングと同様の行動変化で、自分が発情期を迎えているということを周りの男の子達に知らせるための行動とも言えます。

発情期は男の子を受け入れる期間でもあるため、どんな性格の子であっても周りの男の子を受け入れるために、そわそわして落ち着きがなくなることが多いです。

また、発情出血があるため、繊細な子の場合は陰部が気になってしまい、ずっと舐め続けるなどの落ち着きのなさが見られる場合もあるでしょう。

出血の見られる時期が終わった後にも、生理的偽妊娠と呼ばれる、体が妊娠していると錯覚する状態になりやすい時期が訪れます。
このときに偽妊娠の状態に陥ると、自分がお母さんになったと錯覚をし、ぬいぐるみなどのおもちゃを赤ちゃんに見立てて、攻撃的になったり神経質になったりするなど、行動の変化が見られることもあります。

精神的な不安感など性格面での変化

その子の性格にもよるため、変化の現れ方には個体差があります。
たとえば、陰部の出血や違和感に対して不快感を覚えて、精神的にナーバスになってしまい、少しのことで怒りやすくなったり、神経質になったりしてしまう子もいるでしょう。

また自身の体調変化を感じ取り、不安感が増して「飼い主さんにいつも以上に依存してしまう」「大きな声や甘えた声でずっと鳴く」など、普段のお家のわんちゃんの性格では考えられないような様子に直面することもあります。

まったく変化が現れない子もいますが、一時的に精神的に不安定になってしまう子も少なくありません。
その場合は、わんちゃんにかかる精神的な負担も大きいので、負担を取り除くために、避妊手術などの対策も考えた方がよいでしょう。

落ち着かせるためにどんなことをしたらよい?

普段と違う体調に戸惑うわんちゃんを見ると、心配になってしまうものです。
1回で済むのであればよいかもしれませんが、定期的に起こるとなると、対策を考えなければなりません。
発情期に起こる体や精神への負担を軽減してあげるには、どんなことをしてあげたらよいかをご紹介します。

マナーパンツ

一番手軽な方法がマナーパンツの着用です。
陰部の違和感や出血がストレスになってしまうわんちゃんは、気にして舐めることができなくなるため、負担を軽減できる可能性があります。

また、出血によってお家の床が汚れることがなくなるため、お掃除が楽になり、飼い主さんのストレス軽減にもつながります。

マナーパンツにはさまざまなタイプが市販されています。
「パンツタイプは脱げてしまう」「お家の子がパンツを器用に脱いでしまう」とお困りの飼い主さんは、サスペンダー付きのものや、バッククロスタイプで上半身部分にまで布がつながっている洋服状のものなどが、脱げにくくておすすめです。お家のわんちゃんに適したものを選んであげましょう。

ただし、マナーパンツのデメリットとして、皮膚のデリケートな子はこまめに変えてあげないと皮膚炎につながる危険性があること、自分の体に何かを装着することに強いストレスを感じる子には余計に負荷がかかることが挙げられます。

声をかけるなどのケア

体調変化が強く出ることで、精神的に不安定になっている場合に有効です。
頻繁に声をかけてあげたり、飼い主さんが普段いる場所のそばに居場所を作ってあげたりするなど、わんちゃんが少しでも安心できる方法を考えましょう。

また、不安な様子が見られなくても、この時期は体調変化によって体に負担がかかっている可能性が高いです。そのため、大好きな飼い主さんからの声かけは、わんちゃんにとってとても嬉しいものとなるでしょう。

ただし、このことがきっかけで甘えん坊さんになったり、わがままになり要求が多くなったりする危険性もあります。
ただ甘やかすのではなく、しつけも同時進行で行いながらケアを心がけましょう。

避妊手術

一番の根本的な解決方法です。
卵巣や子宮などの存在によって起こるのが発情期です。
卵巣のみ、または卵巣と子宮両者を除去する避妊手術を行うことで、発情は起こらなくなります。
発情出血による違和感や、発情によって起こる体調の変化、他の男の子からの反応によるストレスも防ぐことができるでしょう。病気の予防にもつながります。

デメリットとして、簡単な手術とはいえ麻酔をかけての処置になること、手術後のホルモンバランスの変化などにより太りやすくなることが挙げられます。また、その後赤ちゃんは望めなくなることも考慮して、慎重に検討するべきです。

お家のわんちゃんとの将来をしっかりと考えたうえで、最適な対策方法を見つけてください。

発情期の子に起こり得るトラブル

発情期の女の子は出血期間が長く、性格面や行動面での変化も起こるため、一緒に住んでいるご家族にとっては大変というイメージが強いかもしれません。

ワンちゃん自身も倦怠感や、いつもと違う体調の変化に戸惑ったり、負担に感じたりして、普段の生活と同じように過ごせないことも多いです。

マイナスなイメージが多い発情期ですが、このほかにも起こり得るトラブルは存在するため、飼い主さんは気をつけなければいけません。

ホルモンの変化からくる体調の変化

前述したように、発情期には消化器症状や食欲不振・頻尿などの体調変化が起こります。
しかし、これ以外の症状が現れる場合もあります。

どんなわんちゃんも、発情の後に生理的偽妊娠と呼ばれる状態になる可能性があります。
これは病的なものではなく、妊娠をしていないのに体が妊娠をしていると誤認識してしまう生理的な反応です。
乳汁が分泌されるようになったり、赤ちゃんがいるように巣作りをする営巣行動を始めたり、ぬいぐるみを赤ちゃんのように扱ったりするなどの行動が見られます。

一時的なもので、時間の経過とともに落ち着くことが多いですが、まれに状態が悪化して乳腺炎になるおそれや、攻撃的な性格になり飼い主さんでも手が付けられなくなってしまうことがあります。
その場合は、ホルモンの数値の変化を検査したほうがよい可能性があるため、動物病院を受診しましょう。

また、発情期の体力の消耗や易感染性、ホルモンバランスの変化による子宮内環境の変化などにより、子宮蓄膿症と呼ばれる、子宮の中に膿がたまってしまう病気になってしまうこともあります。
子宮蓄膿症は、悪化すると死に至る危険性もある怖い病気です。
「食欲不振」「水をよく飲む」「元気消失」などの変化が見られた場合は、速やかに受診するようにしましょう。

発情期に反応した男の子や周囲とのトラブル

女の子は発情期を迎えると、自分が発情期であると言うことを周りに示すために、フェロモンを発します。
男の子は自ら発情期を迎えるのではなく、女の子のフェロモンを感知して、発情し体が繁殖のために交尾をするモードになります。

このときの男の子の変化は大きく、普段では見られないような力強さや攻撃性につながる危険性もあるでしょう。
ドッグランや散歩中に発情中の女の子に未去勢の男の子が出会ってしまった場合、女の子にそんな気はなくても、男の子の交尾欲が現れてしまい、女の子とけんかになったり、周りのわんちゃんを巻き込んでのトラブルを起こしたりするお話もよく聞きます。

ケガやけんかにつながるだけではなく、力強い男の子を制御できず、交尾につながってしまい、望まない妊娠をしてしまうというケースもあり得ます。
その場合に、女の子の体にかかる負担は大きいです。

女の子側の飼い主さんもマナーとして、また自分のお家の子を守るためにも「発情期の際はマナーパンツをはく」「ドッグランの利用は控える」「犬の多く集まる時間帯のお散歩は避ける」などの配慮が必要です。
とくにマナーパンツは、発情期であることを示すためにも、効果的な方法の一つと言えるでしょう。

まとめ

わんちゃんたちが自分の子孫を残すべく、古来、遺伝子のプログラムに組み込まれている「発情」というシステムは、野生の子達には必要不可欠です。しかし、愛玩動物として家族の一員となり、家庭のなかで生活している子達にとっては、必ずしも必要なシステムとは言えません。
女の子の発情期の体に起こる変化や、性格の変化による精神面や体への負担の除去はメリットが多く、本来の繁殖のメカニズムを崩すことになっても考慮すべき事柄でしょう。

また、女の子だけが発情期に負担が大きいかというと、そんなことはありません。
近くに発情期の女の子がいることで起こる男の子の負担ももちろんあります。
本能的に起こる発情期の子に向けての交尾欲が満たされない精神的ストレスも大きいでしょう。

病気の予防としてだけではなく、精神的な負担でお家のわんちゃんが悩まされているようであれば、きちんと向き合って対策をとってあげるのも飼い主さんの責任です。
発情期にはどんなことがお家のわんちゃんに起こっているのかを正しく理解したうえで、ご家庭のライフスタイルやわんちゃんの性格、そして飼い主さん達がどんな家族計画を望むかというライフプランに合った対策を考えられるとよいですね。

ABOUT ME
葛野 莉奈
麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。
獣医師の電話相談窓口やペットショップの巡回を経て、横浜市に自身の動物病院を開院。
開院後、ASC永田の皮膚科塾を修了。
皮膚科や小児科、産科分野に興味があり、得意分野とさせていただいています。
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