執筆者:葛野 莉奈
麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。獣医師 ...プロフィールをもっと見る
おうちのわんちゃんのおしっこやうんちの状態を観察する癖がついている飼い主さんは多いのではないでしょうか。
排泄物のチェックは、わんちゃんの健康状態を把握するうえで欠かせないケアの一つです。色やにおい・量などを常に確認して、異常があったときは適切に対処しなければなりません。
なかでも注意したいのが「血便」です。うんちを取ろうとしたら血が混じっていたり、いつもと違って赤い色をしていたりすると、飼い主さんはびっくりしてしまうでしょう。
血便の原因や対処法を知っておくと、いざというときに焦ることなく、冷静に対処できます。
血便の原因は?
血便は、血の混じり具合によっても原因が異なります。
まずはどの程度の血がどのように混じっているのかを観察しましょう。
場合によっては、わんちゃんの体もチェックする必要があります。
肛門の傷
病気ではなく、人間でもあるように、肛門が傷ついてしまうことで血便が起こります。
うんちの表面や、ごく一部に血が付着している場合は、傷による出血の可能性が高いです。
肛門や周囲に傷が確認できるケースが多いため、疑わしい場合は、お尻に傷がないか確認してみましょう。
便がかたい場合に傷つくこともありますが、誤って食べてしまった異物がうんちと一緒に出てくる際に肛門や皮膚を傷つけてしまった可能性も考えられます。
とがったプラスチックや髪の毛のような糸状のものでも肛門が切れてしまう場合があるため注意が必要です。
腸炎
血便の原因としてもっとも可能性が高い病気が腸炎です。
わんちゃんは、疲れや精神的なストレス・周囲の環境の変化・体調の変化などが消化器症状につながりやすいと言われています。また、感染性の腸炎もあり得ます。
軽度の腸炎の場合、自然に治癒することもありますが、受診や検査の上で、適切な処置や投薬が必要になる可能性が高いです。
血便が見られて、傷がない場合は、原因をはっきりさせるためにも受診をおすすめします。
また血便と一口に言っても、ドロッとした血液のような軟便、イチゴジャムのようなゼリー状の物質が便に混じっている、一筋の血液のような物質が便の表面に付着しているなど、状態はさまざまです。
受診の際に少量の便を持っていくことはもちろん有意義ですが、便の排出直後の状態がどのような状態かを写真におさめておくと、受診時にスムーズでしょう。
腸炎が起こる原因
血便の多くが腸炎によるものとお伝えしました。
なかでもわんちゃんがよく起こすのは、「大腸炎」と呼ばれる腸炎です。
名称のとおり、肛門近くの大腸の一部が炎症を起こします。
大腸は消化吸収を担う消化器の部分でも、水分やミネラルの吸収を行い、便を作り出す役割をしています。
大腸が炎症を起こすと、水分吸収の調節が上手く行なわれず、軟便になったり、炎症により出血が起こり血便になったりします。
では、なぜ腸炎は起こるのでしょうか?
疲れなどによる腸内環境の悪化
疲れや体調不良・精神的な負荷などが原因で、もともと存在する腸内の細菌バランスが崩れてしまい腸炎を起こすことがあります。
球菌や桿菌・らせん菌などが増え、腸内環境が乱れてしまうのです。
お腹を休めたり、安静にしたりすると自然に治るケースもありますが、長引く場合は投薬などの治療が必要となります。
腸内環境の悪化が原因の場合、お腹を休めるために、消化吸収のよいごはんを負担にならない程度与える必要があるでしょう。
以前までは絶食が有効とされていましたが、最近では腸運動の改善や治癒のためにも消化に良いごはんを少量与えることが必要と言われています。
食欲の減退も見られる場合があり、ついつい喜んでくれるおやつを与えてしまいがちですが、おやつは消化があまりよくないため、腸炎を起こしている時のごはんとしては不向きです。
消化にやさしいおいしい缶詰ごはんや、病院で処方してもらえる消化器疾患の療法食などを、風味を増すために温めるなどして食欲を増進させることをおすすめします。
また、軽度の腸炎であれば自然に治ることもありますが、程度が悪化したり、慢性的なものになったりすると、脱水や栄養失調などを起こして死につながる危険性もあります。
症状が続く・程度が悪化する場合は、受診をするようにしてください。
寄生虫などの感染
他の犬や環境から寄生虫・ウイルスなどに感染してしまい、腸炎を起こすこともあります。
とくに抵抗力の低下している若齢や高齢のわんちゃんは要注意です。
お母さんが感染していて、お腹の中にいる頃から感染してしまうような寄生虫もいれば、ペットショップやブリーダーさんのところなど、たくさんのわんちゃんが集まる場所で寄生虫やウイルスに感染してしまう場合もあります。
お家に迎える際に、感染がないかどうかの健康チェックを忘れず、感染していた場合は駆虫を行ないましょう。
お家に先住犬がいる場合に、万が一お迎えした子犬ちゃんが感染していると、先住犬にも感染が広がってしまうおそれがあります。
感染を広めて負担をかけてしまうことのないよう、感染対策をしてあげてください。
また、定期的なフィラリアやノミダニの予防を行う必要があることをご存知の飼い主さんも多いと思いますが、実は予防薬の中には、腸炎を起こす寄生虫も一緒に予防できるタイプもあります。
お散歩で他のわんちゃんと接触する可能性のあるわんちゃんや、トリミング施設などの共有スペースを使用するわんちゃんは、自分が感染しないことはもちろん、他のわんちゃんへの感染源になってしまうことのないよう気を付けましょう。
もし感染がわかったら、しっかりと治療をしてあげてください。
治療が終わるまでは、他のわんちゃんへの接触は控えたり、お家の中でも隔離したりするなどの配慮が必要です。
アレルギー
アレルギーというと皮膚炎を連想しがちですが、食物アレルギーで腸炎を起こす場合もあります。
アレルギー反応から起こる腸炎の場合、慢性的なものになり下痢が続く場合が多いでしょう。
アレルギー反応であると確定するためには、アレルギー検査を行い、今の生活を見直す必要があります。
摂取しているごはんの原料にアレルゲンが含まれていないかをチェックし、含まれている場合は除去します。
かかりつけの先生から、療法食と呼ばれるアレルゲンが含まれていないごはんをすすめられることが多く、治療方法としておすすめです。
手作り食も選択肢の一つですが、栄養バランスを考えた食材をそろえることはなかなか難しいでしょう。総合栄養食である療法食を与えることが、体重管理や栄養バランスの調整にはもっとも手軽と言えます。
慢性的な腸炎は、たかが下痢と考えがちですが、長期にわたる炎症により、栄養吸収が行われず致命的な問題につながる危険性があります。
原因究明のためにも受診は必要です。
血便が確認されたらどうする?
血便が確認されると、つい慌ててしまいますが、どのような状態かをきちんとチェックして、冷静に判断することが大切です。ここでは、どのように便を確認し、受診までに何の準備をしたらよいのかをお伝えします。
便の頻度や状態を確認
まず、便の状態や回数などを確認します。
まだ腸でしっかりと便を溜めて排出する機能が未熟な子犬ちゃんは、1日の排便回数も多いでしょう。
大人になると1日2~3回くらいである子が多いです。
普段2~3回程度の排便の子が、4~5回以上の頻回の排便をする場合、消化吸収機能の異常が起きている可能性が高いです。
また、便の状態がコロコロで、ティッシュでつかんだ際に付着しない程度の硬さが健康的と言えます。シーツに付着したり、つかみにくかったりする場合は少し柔らかい、いわゆる軟便と言えるでしょう。
血便と同時にこれらの異常がないかを確認します。
排泄の情報は受診時にとても重要なため、メモを取って家族で情報を共有しておくとよいでしょう。
便を採取する
血便や軟便の場合、血液検査でわんちゃんの全身状態を把握することはもちろん大切ですが、便検査で便の状態をチェックすることも重要です。
肛門から直接採取も可能なため、自宅で採取できなかった場合は、病院で採取してもらって検査しましょう。
しかし、肛門から採取する場合、検査に十分な量が採取できない場合があります。
より確実に検査をするためには、受診前の直近の便を採取することをおすすめします。
便検査に必要な便の量はごく少量なので、シーツにしたものを全部持っていく必要はありません。
ただし、便の形状などを説明するのが難しい場合や判断が難しい場合は、写真に撮影したり、そのままシーツごと持っていったりするとよいでしょう。
病院へ行く
受診が必要であれば、わんちゃんを連れて行きましょう。
このとき注意しなければならないのが、感染性の疾患が疑わしい場合です。
ウイルス性の疾患や、すでに虫が便中に出ていた場合、他のわんちゃんへ感染させてしまう危険性があります。
受診前に必ず電話をして、便の状態や症状などを相談してください。
感染が疑わしい場合、受診時間や受診場所などの指示がある可能性があります。
また、夜間に下痢が起こると、受診に困るケースもあります。
その場合に備えて、
・どの連絡先であればつながるのか
・診察は可能なのか
・提携する時間外の診療施設はあるのか
など、時間外の対処法をあらかじめ確認しておくことが必要です。
もし診察してもらえなかったり、連絡がつかなかったりする時間帯がある場合は、近くで対応可能な病院を探しておきましょう。
お家でできるケアは?
血便の原因がわかったら、病院での治療に加えて、お家でも適切なケアを心がけましょう。
原因に適したお薬の投薬も不可欠ですが、実は大切なのはそれだけではありません。
わんちゃんのためにできるお家でのケアについて解説します。
ごはんのケア
とくに腸炎の場合に必要です。
負担を少しでも軽減させて、お腹を休めてあげることが大切です。
消化しやすいよう普段のドライフードをふやかしたり、お腹を休めるために少量にとどめたりするとよいでしょう。
動物病院で、低脂肪や食物繊維を多く含んだお腹にやさしい療法食を処方してもらえる場合もあります。
また、食欲があまりない場合は、おいしい風味の缶詰ごはんを少し加えることも一つの手です。また、そのまま与えるよりもレンジで人肌に温めると、風味が際立ち、食欲増進につながる可能性があります。
好きなおやつを与えれば食べてくれるかもしれませんが、消化には良くないため、症状の改善が見られないおそれがあります。
「どのようなものであれば問題ないか」も含め、受診時にごはんのケアについて相談することをおすすめします。
安静にできる環境づくり
人間も体調が悪い時はしっかりと体を休め、睡眠をとることが大切です。
わんちゃんも同様に、しっかりと体を休めて安静にする必要があるため、飼い主さんはその環境づくりに協力してあげましょう。
とくに次のポイントを意識してください。
・快適な温度・湿度になっているか
・騒音や物音に気にせず睡眠がとれる環境かどうか
・睡眠時にわんちゃんが自分だけで落ちつけているか
睡眠時は、声をかけて反応がないと不安になりますが、ぐっすりと深く眠れている証拠です。
寝ている間はしっかりと寝かせてあげることが体力の回復につながるため、声をかけて起こすことのないよう注意しましょう。
睡眠時間が長い・食欲不振が続くなどの場合は、体調不良が継続していると考えられるため、受診をしてかかりつけの先生に相談してください。
投薬を忘れずにおこなう
お薬を処方された場合は、医師の指示通りに投薬をするのも飼い主さんの重要な責任です。
腸炎などの内臓疾患であれば経口での投薬を、傷口があるようであれば消毒や塗り薬を塗布する指示が出るでしょう。
毎日の投薬や処置は、少しでも早く症状を改善させるために不可欠です。
わんちゃんが嫌がったり、攻撃したりして投薬が不可能な場合は、家での治療ではなく他の手段を考えなければなりません。
通院頻度を増やすか、入院での処置をおこなうなど、代替案が提示される可能性が高いです。
難しそうであれば、かかりつけの先生に相談して方法を考えましょう。
まとめ
わんちゃんではよく見られる血便ですが、たかが便トラブルと油断はできません。
痛みや違和感はわんちゃんの体に負担をかけ、長期化することで脱水や栄養失調などを招き、最終的には命の危険にもつながります。
少しでも早く改善できるよう、血便の原因と治療法・お家でのケアについて、正しい知識を身に付けておきましょう。
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