病気・ケア

狂犬病に関して、飼い主がやらなければいけないこと

執筆者:葛野 莉奈
麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。獣医師 ...プロフィールをもっと見る

お家にわんちゃんを迎えたら、飼い主さんの責任として、狂犬病ワクチンの接種と自治体への登録が必要です。

狂犬病予防法という法律で義務付けられており、違反した場合は罰金に処されます。
他の病気では義務付けられていないのに、法律として予防接種が義務付けられている狂犬病とはどんな病気なのでしょうか。

また、接種したワクチンの証明書や交付された鑑札などは、どのような場面で必要となるのでしょうか。

今回は、狂犬病の症状やワクチンの重要性・証明書が必要となる場面などについて解説していきます。
「なぜ狂犬病の予防が大切か」「どんなに恐ろしい病気であるのか」への正しい理解が、毎年忘れずにワクチン接種を行い、愛犬を守ることにつながるはずです。

狂犬病ってどんな病気?

法律として予防が義務化されているほどであれば、重大な病気であることは理解できるでしょう。

狂犬病は、発症すると犬・人ともに、ほぼ確実に死亡する恐ろしい病気です。

ウイルスによる感染症

狂犬病は、狂犬病ウイルスの感染によって起こる感染症です。
ウイルスを保有する犬を含む、コウモリやキツネなどの野生動物に噛まれたり引っ掛かれたりすることで、唾液や分泌液を介して感染が広がります。

発症すると、主に痙攣や感覚障害といった神経系の症状がみられますが、インフルエンザ様の痛みや発熱などの症状もあらわれるとされています。
治療法はなく、発症すると数日で死亡することの多い怖い病気です。

わんちゃんだけでなく人にも感染する人獣共通感染症

わんちゃんが感染すると数日で死亡することが多いとお伝えしましたが、実は狂犬病は人も感染しうる病気です。
海外では、狂犬病に感染している野犬を含む野生の動物に咬まれたり、引っ掛かれたりして、ウイルスに感染してしまうケースも多いです。

人間もわんちゃんと同様に、痙攣や感覚障害などの神経症状が現れ、ほぼ100%の確率で死に至ります。

なお、非常にまれなケースですが、人から人への感染例も報告されています。
人間への治療法もいまだ確立されていませんが、万が一狂犬病と疑われる動物に接触した場合には、発症する前にワクチンを接種して発症を抑える「暴露後免疫」と呼ばれるワクチン接種の方法があります。

現在日本には存在しない

海外では多くの国に存在する狂犬病ですが、日本国内は狂犬病の存在しない清浄国と呼ばれています。
海外から日本への入国後に発症が認められた例は報告されていますが、感染が広がっていないのはなぜでしょうか。
それは、日本では狂犬病予防法によって、狂犬病の予防が徹底されているためです。

また狂犬病の感染を広げないために、予防接種や検査を行い、一定の条件をクリアした子たちのみ出入国が可能となっている厳しい検疫の仕組みも理由の一つです。

もし海外にわんちゃんを一緒に連れて行く場合は、渡航する国によって検査や予防すべき病気の種類・ワクチンを打つべき期間などが異なるため、事前に確認・準備をする必要があります。

1800年代や1900年代中ごろくらいまでは、まだ日本にも狂犬病が存在し、多くのわんちゃんたちが感染していました。
検疫での徹底した狂犬病侵入の予防や、飼い主さんへの予防接種の義務化が行なわれた成果として、狂犬病洗浄国と呼ばれる現在の日本があるといっても過言ではないでしょう。

狂犬病予防法とは?

狂犬病予防法は、『狂犬病の発生を予防し、そのまん延を防止し、及びこれを撲滅することにより、公衆衛生の向上及び公共の福祉の増進を図ること(第1条)』を目的として定められました。

わんちゃんや猫ちゃんを含む、狂犬病に感染して媒介しうる動物が対象となっており、とくにわんちゃんを飼っている飼い主さんに対しては、以下が義務付けられています。

・生後91日以降の場合、年に1回狂犬病予防注射を接種すること
・住んでいる市区町村に登録すること(生涯1回)
・鑑札と済票を飼い犬に装着すること

年に1回のワクチン接種に関して、どの時期に受けるべきかという決まりはありませんが、多くの自治体では3月から4月ごろに狂犬病予防注射を呼びかけるお知らせが郵送されます。

夏ごろまで接種しない場合、督促する通知が届く場合もあるでしょう。 また登録申請は、犬を取得した日から30日以内(子犬は、生後90日を経過した日から30日以内)に管轄の保健所で行う必要があります。

狂犬病の予防とは関係ないように見えますが、この登録にもきちんと意味があります。
国内で狂犬病が発生したときに、「どこにどんなわんちゃんが存在しているか」「飼い主さんは誰か」の情報を把握できているかどうかが、素早い対応につながるためです。

登録申請は一生涯に1回のみとされていますが、もし引っ越しをする場合は、飼い主さんが住民票を移すのと同じように、わんちゃんも引っ越し先に登録を変更する必要があります。

初めて登録申請を行った際には、鑑札が発行されます。鑑札は一生涯有効な登録済の証明書です。済票は、毎年狂犬病のワクチン接種を行い、交付を受けましょう。

鑑札と済票は、万が一飼い犬が迷子になってしまったときに、速やかに飼い主のもとへ返還できるよう、装着が義務付けられています。

違反したらどうなるの?

登録申請と年に1回の狂犬病予防注射・鑑札と済票の装着は、飼い主さんの義務です。

もし違反した場合は、20万円以下の罰金が科せられます。
法律を守るのは当然ですが、「狂犬病の予防は人の命をも守る」ことをよく理解して、きちんと狂犬病予防法を守りましょう。

狂犬病のワクチンはなぜ必要?

ここまで、狂犬病のワクチン接種は、飼い主さんの義務として法律で課されていることをお伝えしました。

ではなぜ、狂犬病のワクチンだけ必要なのでしょうか。

それは、狂犬病はおうちのわんちゃんたちだけでなく、飼い主さんなど人間の命をも脅かす怖い病気だからです。
狂犬病にかかっているわんちゃんや動物たちが増えれば、その子たちに接触する機会のある人間たちも感染する確率が高まってしまいます。

狂犬病は感染して発症すると、犬も人もほぼ100%死に至ると言われています。
現代の日本は狂犬病が存在しない国とされていますが、かつては日本でも多くの人が命を落としてきました。
海外のほとんどの国では依然として狂犬病が存在し、多くの人が亡くなっています。

国内で再び感染が広がることを防ぎ、私たち人間が健やかな生活を送るためにも、飼い主さんの責任として狂犬病の予防は大切です。

引用: 厚生労働省│狂犬病

狂犬病ワクチンの接種証明が必要な場面

狂犬病ワクチンの接種証明は、さまざまな場面で提示が必要となります。
提示するときに見つからず焦ることのないよう、どんなときに必要なのかを把握し、保管しておきましょう。

たくさんのわんちゃんが集まる施設

多くのわんちゃんたちが集まるトリミング施設やドッグランなどを利用する際は、感染症の予防として、また法的に義務付けられているワクチン接種をきちんと行っているかを確認するために、接種証明の提示を求められる場合があります。

日本の国内には存在しない狂犬病とはいえ、感染症であるため、予防接種を行うことは飼い主さんのマナーとしても大切です。
おうちの子を守るだけでなく、他の子に感染させてしまうきっかけを作らないためも、各種病気の予防を心がけましょう。

人を噛んでしまった場合

お散歩中やドッグランで、誤って他のわんちゃんや飼い主さん・まわりの人などを咬んでしまうトラブルはよく聞きます。

どんなにお利口さんであっても、偶然歯が当たったり、甘噛みしたりすると「咬んでしまった」ととらえられてしまうことがあるため、飼い主さんはきちんと対処をしなければなりません。

おうちのわんちゃんが他の人を傷つけてしまった場合、まず飼い主さんは保健所に届け出をする必要があります。

その際に、自治体によって流れは若干異なりますが、狂犬病ではないかどうかの鑑定や診断と併せて、狂犬病ワクチンの接種証明書を提示するのが一般的です。
まずは届け出を出して、保健所の指示に従いましょう。
トラブルがないことが一番ですが、どんな子でもこのようなトラブルに巻き込まれる可能性はあります。
必要なときにすぐに接種証明を提示できるよう、大切に保管しておきましょう。

こんなときはワクチン接種をやめるべき?

毎年1回打たなければならない狂犬病のワクチンですが、体調不良や発情期など、ワクチン接種を避けたほうがよい時期も存在します。
そのようなときは、どう対処したらよいのでしょうか。

体調不良

狂犬病のワクチン接種を決めたら、まずは当日の体調がいつもと同じかどうかを確認する必要があります。

ワクチンは病原体そのものではなく、弱毒化するなど体に害が及ばない程度まで変化させたものを接種することが一般的ですが、接種により体内の免疫反応が起こるため、やはり負荷はかかります。

なかには接種をした当日から翌日くらいまでは、「摂取部位に疼痛を感じる」「全身に倦怠感がでる」「発熱する」といった副作用があらわれる場合もあります。
当日、聴診や触診・視診などで獣医師の先生も確認をしますが、お家での様子は飼い主さんしかわかりません。

普段と様子が違ったり、明らかな食欲不振・下痢・嘔吐などが見られたりする場合は、接種前に相談しましょう。
もし体調が悪いようであれば、日にちを改めて、体調が万全である日に行うことがおすすめです。

発情期・妊娠中・授乳中

病気ではないものの、いつもの全身状態とは違う状態になっているのが女の子の発情・妊娠・授乳中のときです。

ワクチン接種は体に負担がかかりやすいとお伝えしましたが、発情中は女の子の体調も変化しやすく、元気であっても下痢気味になったり、普段と状態の違う自分の体に不安を感じたり、神経質になったりする可能性もあり、体への負荷を考えるとおすすめできません。

また、妊娠中や授乳中も体力が消耗している時期です。
体調の変化が起こる可能性が高いため、発情・妊娠・授乳中のワクチン接種は避けましょう。

持病を持っていてワクチン接種によって状態の悪化が懸念される場合

すでに持病があり、状態があまり良くない場合、ワクチン接種による体への負荷によって全身状態がさらに悪化するおそれがあります。

法律で定められているとはいえ、接種をすることでおうちのわんちゃんが命を落としてしまっては後悔しきれません。

死に至る危険性がある場合、猶予証明という「病気によって狂犬病予防接種を打つことが全身状態悪化のリスクもあるため、接種をすることは難しいです」と書かれた証明書を、かかりつけの先生に発行してもらうことが可能です。

しかし猶予証明は、どんな子でも発行できるわけではなく、やむを得ない疾患を持つ場合に限られるため、飼い主さんは判断できません。
かかりつけの先生と相談をして接種を決めるようにしましょう。

まとめ

清浄国である日本に住む私たちは、狂犬病とはあまりなじみがなく、つい接種を忘れそうになったり、あまり理解をしていなかったりする方も多いかもしれません。

しかし、狂犬病は私たち人間の健康にも害を及ぼす怖い病気です。
「自分には関係ない」ではなく、おうちのわんちゃんや飼い主さんが狂犬病に脅かされることのないよう、そして狂犬病が再び国内で広まってしまわないように、一人ひとりがワクチン接種の重要性をきちんと理解して、予防を心がけるべきです。

ワクチンの可否や登録についての相談窓口がわからないようであれば、まずはかかりつけの動物病院の先生に相談してアドバイスをもらってください。

参考:
厚生労働省│狂犬病 
厚生労働省│犬の鑑札、注射済票について
動物検疫所│犬、猫を輸入するには 
  

ABOUT ME
葛野 莉奈
麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。
獣医師の電話相談窓口やペットショップの巡回を経て、横浜市に自身の動物病院を開院。
開院後、ASC永田の皮膚科塾を修了。
皮膚科や小児科、産科分野に興味があり、得意分野とさせていただいています。
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