病気・ケア

犬の毛が抜ける原因は?換毛期の対策や考えられる病気【獣医師が解説】

執筆者:葛野 莉奈
麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。獣医師 ...プロフィールをもっと見る

わんちゃんの抜け毛がお家の床や洋服に付着して、困っているという飼い主さんは少なくないでしょう。

なかには、わんちゃんを飼うときにあえて抜け毛の少ない犬種を選んでいる方もいるようです。
被毛が抜けにくいわんちゃんもいますが、どんな子でも被毛は定期的に抜け、抜け毛の量で健康状態をチェックもすることも可能です。

抜け毛について正しい知識を身につけ、お家でのケアを見直しましょう。

なぜ犬の毛は抜けるの?

犬の毛が抜ける原因はさまざまです。ほとんどのわんちゃんは毛周期に合わせて毛が抜けますが、なかには病気が原因のケースもあります。考えられる抜け毛の原因について見ていきましょう。

換毛期による抜け毛

換毛期とは、毛が生え替わる時期のことです。基本的には、換毛期は春と秋の年2回訪れます。1ヶ月ほどかけて大量の毛が抜け落ち、新たに毛が生えてくるのが特徴です。

ただし、すべての犬種に換毛期があるわけではありません。犬には2種類の毛質があり、体の表面にある長くて少し硬い毛質の「オーバーコート」と、その下に生えるふわふわとしたやわらかい毛質の「アンダーコート」に分かれます。

これらの毛質のうち、換毛期による毛の生え替わりがあるのがアンダーコートです。

オーバーコートのみをもつシングルコートの犬種と、両方の毛質を兼ね備えたダブルコートの犬種がいるため、ダブルコートの子のみ換毛期が存在します。

・シングルコート:プードル・マルチーズ など
・ダブルコート:柴犬・ダックスフント・ポメラニアン など

毛周期による日々の抜け毛

どんな犬にも、一定のサイクルですべての毛が新しく生え替わる「毛周期」があり、換毛期以外でも日々毛は抜けています。

脱毛が目立たないのは、バランスよくすべての毛が順番に抜けているためです。全身がつるつるになってしまうことはありません。

ただし、毛周期は栄養失調や体調不良などによって乱れやすいため、脱毛が目立つ場合は、何らかの体調不良が起こっている可能性もあります。

病気のサイン

抜け毛が増えるとき、換毛期によるものであれば心配はいりませんが、何らかの病気が隠れているおそれもあります。命にかかわる病気は少ないものの、痒みなどが生じる場合は、わんちゃんにも負担がかかってしまいます。

大量の抜け毛が見られた場合には、わんちゃんの様子をよく観察して、異常があれば動物病院で検査を受けましょう。
ここでは、抜け毛を引き起こす可能性のある病気を紹介します。

感染性・細菌性の皮膚炎

感染が起こると、皮膚炎によって皮膚のコンディションが悪くなり、毛が抜けやすくなります。
また、感染という外部から影響を及ぼすものが体を侵すため、体外へ排出しようとして、さまざまな症状を引き起こします。

たとえば、疥癬というダニの一種や、真菌と呼ばれるカビによる皮膚炎などは、わんちゃん同士で感染を起こし、強い痒みや脱毛を引き起こすのが特徴です。強い赤みが見られたり、フケが増えたりする場合もあります。

疥癬や真菌による皮膚炎は、わんちゃん同士だけではなく、人間の皮膚にも感染して炎症を起こす危険性があるため、注意が必要です。

また外部からの感染ではなく、自身の皮膚表面に常在する細菌が原因で起こる皮膚炎もあります。

皮膚のコンディションが悪化して免疫のバランスが崩れ、常在する細菌が異常繁殖することで皮膚炎を引き起こします。
このような細菌性の皮膚炎の場合も、体が細菌という異物を排除しようとして、毛が抜けます。

甲状腺機能低下症

甲状腺は、代謝や成長などをつかさどるホルモン分泌を行なう部分です。

自らの甲状腺の破壊や、甲状腺の機能不全などが原因で、甲状腺ホルモンの機能が上手にできなくなってしまう病気が、甲状腺機能低下症です。

高齢のわんちゃんに多い病気で、脱毛だけではなく、元気消失・睡眠時間が増える・ぼんやりする時間が増える、肥満などの変化が見られるようになります。
血液検査やホルモン検査を行い、甲状腺機能低下症と診断された場合は、甲状腺ホルモンを補うお薬を飲むことになるでしょう。

死に直結する病気ではありませんが、便秘や嘔吐などの消化器症状につながるおそれがあるため、治療は必要です。

副腎皮質機能亢進症

甲状腺機能低下症と同様、内分泌疾患の一つで、クッシング症候群とも呼ばれる病気です。

腎臓の近くにある副腎と呼ばれる臓器の皮質からは、ステロイドと同様のホルモンが分泌されます。

副腎皮質機能亢進症は、ホルモン分泌の指令の異常や、分泌する細胞の腫瘍化による増殖などが原因で、ホルモンの分泌が亢進してしまい、脱毛をはじめとした数々の症状を引き起こす病気です。

主な症状として、食欲の異常亢進・飲水量や尿量の増加・免疫力の低下・皮膚の菲薄化などが挙げられます。

高齢のわんちゃんに多く、死には直結しにくいですが、感染力が強いのが特徴です。

副腎皮質機能亢進症は、血液検査やホルモン検査などで確定できるでしょう。さらに超音波検査を行い、何の原因でホルモンの異常分泌が起こっているのかを判明させたうえで、適切な治療を行います。
内科学的な治療だけではなく、原因によっては切除などの外科的な処置が必要になる場合があります。

できるだけ早めに検査を受け、早期に治療を行うことで、二次的に併発する皮膚炎の予防につながります。

抜け毛のケアはどうしたらいい?

健康的な抜け毛の量にとどめるために必要なケアについて解説します。
正しい抜け毛ケアを行うことで、わんちゃんも飼い主さんも快適に生活できるようになります。

わんちゃんの皮膚質や被毛に適したケアを心がけましょう。

こまめにブラッシングをする

不要な毛が残っていると、近くの毛を巻き込んで、抜けるはずがなかった被毛まで一緒に抜けてしまう可能性があります。

また摩擦がよく起こる部分だと、被毛がフェルト状になり、動ける範囲が少なくなってしまったり、毛がまとまって大きな毛玉状になってしまったりする場合があります。その場合、被毛を切ったり抜いたりしなければなりません。

おうちのわんちゃんの性格や、よくする運動・動きをしっかりと把握して、ブラッシングがとくに必要な部分を確認しましょう。

たとえば、よくわきの下に毛玉を作るような動きをするわんちゃんの場合は、わきの下を重点的にブラッシングする必要があります。

上手にごはんを食べられないタイプの子は、顎の下の被毛とごはんの汚れが一緒になって毛束になる傾向があるため、顎の下のブラッシングを念入りに行うとよいでしょう。

なお、とくに抜け毛の量が増える換毛期には、体をこすりつけたり、皮膚を気にするようなそぶりをしたりする子もいます。換毛期はブラッシングの頻度を増やすなど、わんちゃんの様子を観察しながらうまく調整してあげてください。

正しいブラッシング方法

ブラッシングの方法も、毛質やその子の性格・行動などに合わせて正しく行う必要があります。
たとえば、スリッカーと呼ばれる細い針金のたくさんついたタイプのくしは、上手に使用すると毛がふんわりする一方で、皮膚を傷つけてしまうおそれがあります。
そのため、短毛の子には使用するのは難しいでしょう。

ゴム製のラバーブラシは、ふんわりとした仕上がりにはなりにくいですが、皮膚を傷つけにくく、不要な被毛やふけを落としてくれるため、日常的なお手入れにはとてもおすすめです。

適切な頻度と方法でシャンプーを行う

皮膚のコンディションを整え、適切な毛周期を保つためには、シャンプーも欠かせません。

よく、シャンプーは月1回程度が望ましいと言われますが、実はその子の皮膚質によって、最適な頻度は異なります。

脂っぽいようであれば、よりこまめにシャンプーをして、皮膚を清潔に保ってあげる必要があります。

おうちのわんちゃんの適切なシャンプー頻度がわからない場合は、トリマーや獣医師に相談しましょう。

また、適切なシャンプー剤を選ぶことや、正しい洗い方で行うことも重要です。
シャンプー剤を選ぶ際には、臭いだけではなく、効能もしっかりと確認しましょう。

洗い方のポイントは、泡だてたシャンプーでかけ流しをすることです。とくに皮膚がデリケートなわんちゃんは、こすらないように注意してください。

シャンプー剤の選び方や洗い方についても、トリマーや獣医師に相談するとさまざまなアドバイスをくれるはずです。

バランスのよい食事を与える

被毛の質や抜け毛の量には、食べ物も大きく影響します。

抜け毛を防ぐだけではなく、新しい被毛が生える際に、より健康な被毛が生えてくることが大切です。

被毛のもととなる良質なたんぱく質や、皮膚を健康に保つ効果のあるビタミンや不飽和脂肪酸・ミネラルなどを、バランスよく与えましょう。

また、食事を与える際には、これらの栄養素ばかりに注意するのではなく、その子がしっかりと消化し、栄養を吸収できるものであることが大切です。その子に合った良質のフードを選んであげてください。
最近では、皮膚や被毛によいとされるフードも開発されているため、試してみてもよいでしょう。

抜け毛が増えてきたときは

これまで抜け毛のケアについてお伝えしてきましたが、あまり頻繁に毛が抜けたり、大量の抜け毛がみられたりすると、飼い主さんは不安になってしまいますよね。

前述の通り、換毛期で増えることもありますが、もしかしたら皮膚トラブルや、ケア方法が間違っているのかもしれません。

抜け毛が増えてきたことに気づいたら、早めにトリミングサロンや病院に相談するのがおすすめです。

トリミングサロンに相談

トリマーさんたちは、皮膚や被毛のプロです。お家ではうまくいかないのに、トリミングサロンでお手入れをしてもらったら毛がふんわりして雰囲気も変わった、という経験をしたことがある飼い主さんも多いのではないでしょうか。

抜け毛の量の変化に気づいたら、まずはトリマーさんに相談してみましょう。

カットが必要なわんちゃんの場合、カットの仕方によって摩擦で毛が抜けやすくなっている可能性があるため、カットの変更を提案されるかもしれません。

また月に一度にシャンプーを行なっているのであれば、シャンプーの頻度を増やすことを提案される場合もあるでしょう。

トリミングサロンでは、より正しい皮膚や被毛の状態をプロにチェックしてもらえるのはもちろん、お家できるケアのアドバイスももらえます。

飼い主さんが自分では気づかなかった抜け毛の量の変化を指摘してもらえ、病気の早期発見につながることもあるでしょう。
トリマーさんとお家の両方で、定期的に皮膚や被毛の健康チェックを行えるとより安心です。

病院に相談

毛が全体的に薄くなってしまった場合、「抜け毛」が原因ではなく、「切れ毛」が原因の可能性があります。

切れ毛は自然と抜けてしまったのではなく、痒みやその部分の違和感が原因で、自分で気になって咬んでいるうちに、被毛を咬み切ってしまっていることが多いです。

切れ毛になる原因としては、皮膚炎による痒み・関節炎による痛みや違和感・精神的な影響による問題行動などが挙げられます。

しかし、抜け毛か切れ毛かの判断は、飼い主さん自身ではなかなか難しいでしょう。「毛が全体的に薄くなってきた」と感じたら、動物病院に相談すると安心です。

まとめ

食欲・排泄など健康のバロメーターとなる項目はいくつかありますが、抜け毛もバロメーターのひとつです。
多くのわんちゃんには、毛の生え替わり期である「換毛期」があり、また毛周期によって日々少しずつ毛は抜けますが、健康なときでも普段の抜け毛の量を把握しておきましょう。
「抜け毛の量が増えたな」「見えている皮膚の部分が増えたな」と感じたら、併せて皮膚や全身状態の変化がないか観察してあげてください。思わぬ病気が隠れているかもしれません。
抜け毛はお掃除の大変さにもつながる強敵ですが、わんちゃんの健康管理のためにも、正しいケアで上手に付き合っていけたらよいですね。

ABOUT ME
葛野 莉奈
麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。
獣医師の電話相談窓口やペットショップの巡回を経て、横浜市に自身の動物病院を開院。
開院後、ASC永田の皮膚科塾を修了。
皮膚科や小児科、産科分野に興味があり、得意分野とさせていただいています。
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