病気・ケア

犬が水を飲まない原因は?対処法や病院に行くべき症状

執筆者:今井 貴昌
日本獣医生命科学大学卒。地方の動物病院と都内のグループ動物病院で数年 ...プロフィールをもっと見る

みなさんは犬の正常な飲水量をご存知でしょうか。

水が生命活動に必要不可欠なことは言うまでもありませんが、1日に必要な水分量を把握している方は少ないかと思います。

この記事では、愛犬が水を飲まないときに考えられる原因と対処法についてまとめました。

また、脱水が引き起こす病気や、水分補給の際に気をつけるべきことも記載しましたので、「最近用意した水が減らないな……」と不安に感じている方は、ぜひ参考にしてください。

水を飲まない原因とは

まず、飲水量が減る原因として、看過すべきではないものとは何かを考えることが重要です。

飲水量が減ると体内で何が起きてしまうのかを想像し、その原因を特定することで不安は解消されるのではないでしょうか。

実は足りている

ドライフードには5~10%、ウェットフードには70~80%の水分が含まれています。

我々獣医師も、純粋な水だけではなく、食事内容からも自宅での水分摂取量を把握します。

飲水量が減ったタイミングが、食事内容の変更に伴っていないか思い返してみましょう。

ストレス

環境の変化によるストレスで飲水量が減ることがあります。
神経質な小型犬に多い傾向がありますが、基本的には一過性のことがほとんどなため、そこまで心配はいりません。

ただし、脱水に伴い進行してしまう病気もあるため、続くようであれば必ず動物病院に行きましょう。

加齢

人間と同様で加齢に伴い、飲水量が減ることもあります。

これは代謝の低下やのどの渇きに対する鈍化が考えられます。

とくに老犬の場合、脱水により病態が進行するケースが多いため、異変を感じたら動物病院にて検査を受けてください。

病気のサイン

愛犬の飲水量が減ったときにもっとも重要なのは、緊急性があるかどうかです。

もちろん普段の生活のなかで異変を感じれば獣医師に相談すべきですが、放置により生命の危険にさらされるおそれもあるため、病気のサインを見逃さないように注意しましょう。

最たる例としては熱中症が挙げられます。
とくに多いのは、炎天下での散歩やドッグランなどに行った翌日以降から一気に状態が悪化するパターンです。

また、頸部痛(椎間板ヘルニア)や中枢神経障害(脳病変)・体幹部の痛みなどで、水を飲みたくても飲めない状況が隠れていることもあります。

1日の飲水量とは

一般的な犬の飲水量は、一日あたり約30~50mL/kg(サイトによっては50~70mL/kg)とされていますが、活動性や犬種などで個体差があるため、必ずしもそうとは限りません。

米国で言われている一般的な飲水量を記載したサイトを以下に載せましたので、参考にしてください。

How Much Water Should Your Dog Drink Per Day? (wagwalking.com)

このサイトによると、約30kgのゴールデンレトリバーでは約1~2L、約7kgのボストンテリアでは約210~420mL必要であるとされています。

脱水の確認方法

飲水量が減ったときに注意すべきなのは、脱水の有無です。

脱水は病態悪化に大きく関与するため、動物病院できちんと検査を受け、愛犬の脱水の有無を把握しましょう。

私たち臨床獣医師が身体検査にて確認できる脱水の評価方法は、口腔粘膜(歯肉)の乾燥・皮膚つまみ試験(ツルゴール)・眼球の陥没の程度です。

歯肉は正常であれば、ウェットな状態ですが、脱水していると乾燥します。

人間では手の甲ですが、犬のツルゴールは肩甲骨~腰辺りまでの皮膚をつまみ、皮膚が戻るまでの時間で評価します。
正常な反応は、約1~2秒です。

脱水が進行し、中等度~重度の状態になってしまうと、眼球が眼窩内に落ち込んできます(奥まって見えてくる)。

我々獣医師は、入院管理のためにその子に必要な水分量を把握しなくてはなりません。
そのためには現在の脱水の程度と病気およびその病態を念頭に置き、治療プランを立てていきます。

脱水を補正するためには、経口からの摂取量を増やすのがもっとも効果的ですが、叶わない場合には静脈点滴を実施する必要があります。

ここでは詳細は割愛しますが、適切な輸液剤の選択も必要です。

水を飲まない時の対処法

動物病院で検査を受けることも大切ですが、飲水させるために、飼い主さんがお家でできる工夫もあります。
3つの対処方法を紹介しますので、順番に試してみてください。

フードをふやかす

食い気のある子であれば、もっとも効果的な方法です。

ドライフードは水に浸してラップをしてレンジにかけるか、熱湯で浸しラップをかけて冷めるまで放置するのが簡単でしょう。

その際、若干芯が残っても問題ありません。

また、缶フードやパウチなどのウェットフードに切り替えたり、混ぜたりしてあげるのも有効です。

水に味を付ける

普段の水に味をつけてみるのもよい方法です。

たとえば、ウェットフードの液体成分やささみのゆで汁を少し混ぜてみると、飲水量が増える可能性があります。

容器を変えてみる

犬では効果は薄いかもしれませんが、猫の場合は陶器に変更すると飲水量が増えるケースもあります。

また、複数個所に新鮮な水を飲める場所を設置するのも、猫ではよく試される方法です。

脱水が引き起こす病気とは

体内の水分量が減ることで病気にかかったり、あるいは病態が悪化してしまったりすることはあるのでしょうか。

ここでは、脱水が引き起こす病気について解説します。

腎臓病の悪化

腎臓病は、一般的に腎機能の低下が特徴的な病気です。
その病態は、大きく「急性腎不全」と「慢性腎臓病」の2つに分かれます。

そもそも腎臓は血液をろ過することで尿を産生する臓器で、体内の老廃物を血液から尿へと排出するという重要な役割を担っています。

とくに急性腎不全は、ただちに入院下にて各種治療を施さなくてはなりません。

脱水は、循環血液量(体内を巡る血液量)が減ってしまうことで、腎臓に送られるべき血液量も減少させてしまいます。
その結果、尿の産生量が低下し、老廃物がさらに体内に蓄積されてしまうのです。

尿路結石

腎臓にて産生された尿は尿管を経て、膀胱内に貯留されます。
膀胱内にある程度尿が溜まれば、神経伝達機能により尿意を脳に伝達し、さらに排尿を促すように脳から伝達されます。

脱水状態では、産生される尿量も減少するため、通常よりも濃い尿となってしまいます。
イメージとしては、日中の尿よりも朝の尿の方が濃いのと同様です。

尿路結石は、腎臓内にできるタイプ(腎結石)と、膀胱内にできるタイプ(膀胱結石)に分かれます。
結石はミネラル成分の析出物であり、ストラバイト結石とシュウ酸カルシウム結石が犬では代表的な結石として有名です。

小さな腎結石は老犬の健康診断でよく認められますが、すぐに処置が必要なケースは少ないでしょう。
一方、膀胱結石は膀胱内を傷つけてしまうことで膀胱炎を引き起こすため治療が必要です。

また、腎結石は尿管、膀胱結石は尿道を詰まらせてしまうと、病態が一気に悪化してしまいます。

いずれにしても、尿を薄め膀胱内にできるだけ尿をためないようにすることが予防であり、治療の一つとなります。

便秘

便秘は、とくに猫でよく認められます。

消化管は小腸と大腸に大別されますが、大腸は便の貯留と便からの水分吸収を主に行う臓器です。

慢性腎臓病の個体は脱水が生じやすい体内環境となるため、水分を得るために便からの吸収も亢進してしまいます。

大腸内の便は水分を失い、カチカチの硬結便となり、便が出にくくなることで便秘を生じてしまうのです。

意識障害

脱水が重度になると、循環血液量の減少が顕著となり、脳への血流量も減少してしまいます。

脳は体内で最も重要な臓器であるため、脳への血流量を維持するために体はさまざまな指令を一生懸命出します。

しかし、それも間に合わないほど脱水が進行してしまうと、脳血流量は維持できず、意識障害が生じてしまうのです。

ここまで病態が進行してしまうと、治療は非常に難航することが多いため、たかが脱水と侮ってはいけません。

とくに夏の暑い季節は熱中症で重度脱水となってしまい、救急外来されることが多いため、注意が必要です。

熱中症で亡くなる人が毎年いるのと同様に、犬も熱中症で死亡します。

部屋は必ず涼しく保ち、夏の散歩は日中は避けるよう心がけましょう。

水分補給で気を付けること

ここまで、脱水の危険性や対処法などについてお伝えしてきました。水分補給は生命維持に欠かせない一方で、多量の水を飲んだり、一気に飲水したりするとトラブルを引き起こすことがあります。
最後に、水を飲ませる際に気をつけるべきポイントについて解説します。

嘔吐

犬猫は、人間に比べ嘔吐しやすい動物です。

飲水を一気にしてしまうことで、その後すぐに嘔吐することも多々あるため、明らかに異常な飲み方をしている場合は一度お皿を下げましょう。

30分ほど放置したうえで再度与えてください。

水中毒

水中毒はまれな病気ですが、急激に意識レベルが低下してしまいます。

何らかの原因で大量の水をがぶ飲みしてしまうと、血液が希釈されます。

さらに血管内の水分は細胞内へと移動し、細胞浮腫が生じますが、脳細胞も同様に浮腫を起こすことで意識障害が生じるのです。

まだエビデンスはありませんが、一般的に1時間で体重当たり240mLの水を飲んでしまうと発症する危険性があると考えられています。

心臓病の悪化

心臓はいわゆる血液ポンプとして機能しています。

心臓に疾患を抱えている場合、水分を多量に摂取したり多量に点滴をしたりしてしまうことで血液量がふえるため、心臓への負担が大きくなります。

犬でもっとも多い心臓病は、僧帽弁閉鎖不全症という病気です。

いすれの心臓病においても負担をかけすぎることで、心不全(心臓の機能が破綻)となり、死の転帰をたどってしまいます。

とくに僧帽弁閉鎖不全症の場合、呼吸の荒い状態が1日中認められるようであれば、すぐに動物病院へ行きましょう。

まとめ

今回は犬が水を飲まない時の原因や対処法、脱水に伴う病気についてお話しました。
いざ愛犬が水を飲まなくなってしまった際には、慌てず、まずはこの記事の内容を見返しましょう。

脱水は私たちにとっても身近な症状ですが、放置してしまうと取り返しのつかないことにもなりかねません。

異変を感じたり、対処法を試しても効果がなかったりする場合には、かかりつけの動物病院に相談してみてください。

この記事を通して、みなさんが愛犬と幸せなペットライフを送れますことを切に祈っております。

ABOUT ME
今井 貴昌
日本獣医生命科学大学卒。地方の動物病院と都内のグループ動物病院で数年間の勤務を経て、母校の臨床研修医として研鑽を積む。獣医師として社会に貢献するため日々奮闘中。
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