執筆者:今井 貴昌
日本獣医生命科学大学卒。地方の動物病院と都内のグループ動物病院で数年 ...プロフィールをもっと見る
みなさんは愛犬の健康診断をおこなっていますか。
犬の寿命は約15年と言われています。
人間に換算すると、犬の1年は約4~5年に相当します。
この記事では、健康診断を始めるべき時期と頻度について、現場の経験をもとにまとめました。
最後まで読めば、きっと健康診断の重要性が分かるはずです。ぜひ参考にしてください。
健康診断の重要性とは
犬の1年は人間の4~5年に相当するため、1年で犬の体内状況は大きく変動します。
われわれ獣医師が健康診断を勧める理由は、犬の病態は1年もあれば十分進行するためです。
動物は基本的に症状を隠す生き物であるため、病院に連れて行ったときには病態がかなり進行してしまっていることもよくあります。
定期的な健康診断は、病気の早期発見と治療を実現し、愛犬の健康寿命を延ばすことにつながるのです。
犬のライフステージ
犬のライフステージは、子犬期・成犬期・シニア期に大きく分かれます。
子犬期は、小型犬では9~12ヶ月齢、大型犬では18~24ヶ月齢と言われています。
またシニア期は、一般的には小型犬では9歳くらい、中・大型犬では7歳くらいです。
健康診断を始めるベストタイミングは
犬には個体差があるため全頭共通ではありませんが、一般的にシニアにさしかかる頃から病気にかかるリスクは上がります。
そのため、健康な犬での健康診断を始める年齢は、小型犬では7歳くらい、中・大型犬では5歳くらいからと言えるでしょう。
ただし、健康な状態での個体情報を定期的に得ることは、その子が病気に罹患した際に非常に有用であるため、早いに越したことはありません。
あくまで私の個人的な意見ですが、5歳頃からきちんと定期的に健康診断を受けている子の方が、長生きすることが多い印象です。
健康診断で行うべき検査とは
健康診断では、犬の状態を網羅的に調べるために、さまざまな検査を行います。 具体的には、血液検査やX線検査・超音波画像検査です。
さらに、尿検査や心電図検査・血圧測定などを必要に応じて追加していきます。 若齢個体であれば血液検査のみで良い可能性が高いですが、「自分の愛犬には何が必要なのか」は、かかりつけの獣医師に判断を仰ぎましょう。
早期発見が重要な病気とは
すべての病気で早期発見は重要です。
ここでは、アニコムホールディングス株式会社の統計(※1)や私自身の経験をもとに、とく健康診断が重要な疾患をご紹介します。
弁膜症
犬の弁膜症でもっとも多いのは、僧帽弁閉鎖不全症です。
初期には無症状ですが、病態の進行に伴い、発咳や運動不耐性といった症状が発現します。
解剖学的に、犬の心臓も人間と同様、4つの部屋(右心房・右心室・左心房・左心室)から構成されています。
全身を巡った血液は、大静脈→右心房→右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房→左心室→大動脈と一方通行で流れます。
以下に全身循環の簡単な模式図として、非常に分かりやすい動画を挙げましたので、参考にしてみてください。
医学映像教育センター│目で見る解剖と生理 第2版 Vol.3 循環系1 心臓
血液の逆流を防ぐための重要な構造物として、僧帽弁・三尖弁・肺動脈弁・大動脈弁がありますが、そのなかでも僧帽弁は左心房と左心室の間に存在します。
この僧帽弁がうまく閉じなくなると、左心室→左心房へと一部の血液が逆流を起こし、最終的には肺水腫という状態となって呼吸困難を引き起こしてしまうのです。
僧帽弁閉鎖不全症は、早期発見と適切な治療により、寿命が延びることが分かっています。
無症状であっても決して軽視せず、獣医師と定期検査の日程を確認するようにしてください。
下痢
下痢を起こす疾患は実に多様です。
詳しくはこちらの記事をご参考ください。
健康診断で重要な疾患としては、子犬であれば寄生虫、成犬以上であれば腫瘍性疾患が挙げられます。なぜならこれらの疾患は、症状が曖昧であるケースが非常に多いためです。
子犬の寄生虫疾患は、糞便検査が必要となりますので、健康診断の際には新鮮便を持参しましょう。
慢性腎臓病
健康診断で偶然見つかる病気でもっとも多いのが、慢性腎臓病です。
一般的には、年齢とともに罹患率が上昇する疾患であり、初期にはほぼ無症状です。
腎臓は血液をろ過し、尿を生成する重要な臓器ですが、慢性腎臓病になってしまうとろ過機能が徐々に落ちてしまいます。
その結果、本来であれば体外に排出されるべき老廃物が体内に貯留し、次第にさまざまな症状を引き起こすようになってしまうのです。
これまで犬の腎臓病は、血液検査にてBUNやCreという項目を評価することで診断されてきました。
しかし、これらは腎臓が75%以上の機能障害を受けないと検知されないという短所を持っています。
近年では、慢性腎臓病の早期発見マーカーとして、血清シスタチンCや血清SDMAが研究され、早期発見の精度も向上しつつあります。
慢性腎臓病も弁膜症と同様に、治すのではなく、進行を緩めてあげるのが治療の目的です。
そのため早期治療により寿命を伸ばすことができるのです。
腫瘍性疾患
「腫瘍」は大きく、悪性と良性に分かれます。
残念ながら、組織生検を行わない限りは、これらを診断することは困難でしょう。
また、腫瘍は初期には特定の症状を示すことがないため、健康診断で偶然見つかることもしばしばです。
一般的に、腫瘍は臨床挙動(時間経過とともにその腫瘍がどのように発達していくのか)を追うことで、早期の治療介入が必要かどうかを判断していきます。
ただし、良性であっても愛犬のQOLを低下させたり、小さいうちに切除することで負担が少ないと判断されたりする場合には、早期に外科介入を行います。
腫瘍が発見された場合には、獣医師とよく相談の上、治療方針を組んでいきましょう。
胆泥症・胆嚢粘液嚢腫・胆石
これらの疾患は、胆嚢内に泥状あるいはゲル状・石状の構造物が充満してしまう病気です。
胆嚢は、肝臓に囲まれるように存在する、消化酵素を含む袋状の構造物です。
原因は不明ですが、胆嚢内部で胆汁(胆嚢内の液体)が変性し、罹患してしまいます。
胆汁は正常であれば、胆管を経て消化管に排出されますが、胆嚢疾患ではまれに胆管を閉塞することで、胆嚢が破裂し、死に至る危険性もある厄介な病気です。
しかし、なかには胆嚢疾患になっていたとしても無症状で一生を終える犬もいるため、治療介入が非常に悩ましい病気の一つと言えます。
健康診断で発見された場合には、獣医師と相談しながら治療方針を立てていきましょう。
尿路結石
尿路結石とは、腎臓や尿管・膀胱内に結石が形成される疾患です。
とくに偶発的に発見されるものとして、腎結石や膀胱結石が多いです。
膀胱結石は、膀胱炎の原因となったり、尿道に詰まることで一気に状態が悪化したりしてしまいます。
結石の種類は、そのほとんどがストラバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)結石とシュウ酸カルシウム結石に大別されます。
前者は食事の変更により溶解しますが、後者は溶解しないため、場合によっては手術が必要です。
その他
上に挙げた疾患以外に、気管虚脱や老齢性の関節炎、内分泌疾患などにもよく遭遇します。
気管虚脱は、X線検査にて発見される呼吸器疾患です。
気管の一部が虚脱し、気管が狭くなり、進行すると呼吸困難で死亡します。
関節炎は老犬の約半数が罹患していると言われています。
基本的には疼痛管理がメインの治療となりますが、体重過多の場合にはダイエットを頑張りましょう。
犬で多い内分泌疾患には副腎皮質機能亢進症と甲状腺機能低下症が挙げられます。
いずれの疾患も非常に曖昧な症状を呈すことがほとんどです。
副腎皮質機能亢進症は多くの症例で、多飲多尿(尿量および飲水量が増えること)が発現します。
一般的には犬の場合、飲水量が一日あたり100ml/kg以上であれば、多飲と診断されますが、昔に比べて異常に飲むようになったのであれば、要注意です。
甲状腺機能低下症は、活動性が低下したり、太りやすくなったり、毛が抜けてきたりといった症状を呈します。
いずれの疾患も普段の様子が非常に重要であるため、健康診断の際には些細なことでも獣医師に相談してみましょう。
注意が必要な症状まとめ
ここまで、健康診断で遭遇しやすい各疾患の病態について述べてきました。では、普段の生活ではどういったことに目を向ければよいのでしょうか。
とくに注意が必要な症状は次の通りです。
・発咳
・多飲多尿
・間欠的な下痢
・易疲労
それぞれ詳しく見ていきましょう。
発咳
発咳の原因は、大きく「循環器疾患」か「呼吸器疾患」かに分かれます。
循環器疾患は、弁膜疾患(僧帽弁閉鎖不全症)により心臓が肥大し、肥大した心臓が気管を刺激することが原因です。
呼吸器疾患は、気管や気管支・肺疾患などが原因となり、咳を誘発してしまいます。
いずれの場合においても、悪化しているのか、咳が1日でどれくらい出るのか、出始めるとどれくらい継続するのかなど観察してあげましょう。
多飲多尿
多飲多尿の原因疾患は多様ですが、代表疾患として、慢性腎臓病や副腎皮質機能亢進症が挙げられます。
先に示したように、飲水量が100ml/kg/日以上である場合には要注意です。
ただし、例えば80ml/kg/日であっても昔と比較して明らかに飲水量が増えているようであれば、一度獣医師に相談しましょう。
間欠的な下痢
悪化と良化を繰り返すような下痢が継続する場合、慢性腸症や腫瘍性疾患などが考えられます。
とくに削痩(やせてしまう)を伴う場合には、積極的な検査にて原因の精査を行いましょう。
易疲労
弁膜疾患や甲状腺機能低下症・関節炎(痛みにより動きたがらない)などが疑われます。
もちろん加齢性にも生じますが、いつもの動きができなくなる、あるいはしたがらなくなるようであれば、注意しなければなりません。
健康診断の適切な頻度とは
とくに獣医師からの指摘もなく、健康な個体であれば、健康診断は1年に1回で良いでしょう。
また、軽度心雑音の僧帽弁閉鎖不全症や単純な胆泥症も、多くの場合、1年ごとの検査で問題ありません。
しかし、腹腔内に腫瘍が認められたり、病態の進行が懸念されたりする場合には、獣医師の判断を仰ぐようにしてください。
進行の早い病気、治療反応を見る必要のある病気の場合には、短い期間で複数回の検査が必要となります。
まとめ
健康診断は、人間と同様で病気の早期発見が大きな目的です。
犬の1年は人間の約4~5年に相当すると言われています。
また、体の不調や変化も飼い主が気付くよりほかありません。
したがって愛犬が健康であっても、シニア期にさしかかってきたり、何らかの異変を感じたりした場合には、一度健康診断を受けてみましょう。
そのうえで、獣医師と今後の健診頻度を相談してみてください。
いかがでしたでしょうか。
この記事を通して、みなさんが愛犬と幸せなペットライフを送れますことを切に祈っております。
参考:
※1 アニコムホールディングス株式会社│この10年で、犬猫の寿命は延びていた!長寿化で気になる診療費も大発表
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