執筆者:大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経 ...プロフィールをもっと見る
犬は、人間よりも吐きやすい動物です。
「元気に動き回っていた愛犬が突然吐いてびっくりした」という経験がある方も多いのではないでしょうか。
犬が吐く原因はさまざまで、少し様子をみてよい場合もあれば、すぐに動物病院の受診が必要なケースもあります。
この記事では、犬が吐く原因と対処法、吐き戻しを防ぐための対策などを紹介します。
犬が吐きやすい理由
犬が人よりも吐きやすい理由は、犬の胃の構造にあります。
犬のルーツだと考えられているオオカミは、母親が食べたものを吐いて子どもに与える習性があり、犬もその身体の構造を引き継いでいると考えられています。
また、吐くという行為は、誤飲した毒素から身体を守るための生理的反応です。そのため、犬は発達した嘔吐中枢が備わっているといわれています。
犬の胃の構造
犬の胃は、人の胃と比較すると身体の割に大きいのが特徴です。
成人の胃の平均容量がおよそ1.2L〜1.9Lの大きさであるのに対して、犬の胃の容量は約0.5L〜6Lで、消化管の約60%を占めます。そのため、犬は一度にたくさん食べることが可能です。
また、噴門部(胃の入り口周辺)が広くて胃が大きい割には幽門部(胃の出口周辺)が狭く、胃の容量がいっぱいになっても幽門部はあまり膨らまないという特徴があります。
さらに、胃の構造と4本足の姿勢により、噴門(胃の入り口)と幽門(胃の出口)が人よりも近いため、重力に逆らうことなく容易に吐き戻すことが可能です。
「吐く」という病態は大きく分けて3つ
犬が食べ物を吐き戻す病態には、以下の3つがあります。
- 嘔吐
- 吐出
- 嚥下困難
それぞれの原因や特徴をみていきましょう。
嘔吐
嘔吐とは、胃の内容物を強制的に吐き出させる行為です。嘔吐中枢が働き、腹腔内・咽頭・腹腔内臓器などが同調して起こります。
嘔吐の原因は以下のとおりです。
- 消化管疾患(胃腸炎・慢性腸症・食事反応性・消化管の腫瘍・異物・胃捻転・腸重積など)
- 肝臓・胆道系疾患
- 膵炎
- 神経疾患
- 毒物や薬剤の摂取
- 乗り物酔い
- 心因性(ストレス)
- 中耳炎、尿毒症 など
よだれを垂らす、口をクチャクチャする、落ち着きがなくなるなどの前兆がみられ、食後数分から数時間後に吐くことが多いのが特徴です。
吐出
吐出とは、嘔吐中枢の作用とは関係なく、胃に到達する前に食べたものや液体が食道から逆行して吐き出されることです。
吐出の主な原因は以下のとおりです。
- 異物
- 食道炎
- 食道狭窄
- 巨大食道症
- 腫瘍 など
食道に問題がある場合に多くみられますが、口腔内や咽頭のトラブルが原因で起こるケースもあります。
嘔吐のような前兆はほとんどなく、食後すぐに吐き戻すことが多いのが特徴です。嚥下(えんげ)障害を伴う場合もあります。
嚥下困難
嚥下困難とは、口の中や喉周辺、食道の異常により、食べ物や液体をうまく飲み込めない、または痛みを伴うことです。
食事中に吐き気をもよおしたり、飲みこんでも逆流が起こりやすい状態となります。
嚥下困難の主な原因は以下のとおりです。
- 巨大食道症
- 食道炎
- 口内炎や歯周病
- 異物
- 口の中の外傷
- 神経麻痺
- 咀嚼筋炎
- 脳神経機能障害 など
犬が嘔吐したときの対応
ここでは、吐出や嚥下困難ではなく、もっともよく遭遇する「嘔吐」への対応方法について解説します。
嘔吐には、緊急性があまりない場合と、早急に治療が必要な場合があります。
嘔吐しても緊急性が低いと考えられるケース
犬が嘔吐しても以下のような症状で、嘔吐の頻度が少ない場合(1カ月に2回程度)であれば、緊急性は低いと考えられます。
- 健康な成犬で、吐くこと以外の症状がなく食欲旺盛
- 空腹時に黄色っぽいものを吐くが食欲はあり、食後はまったく吐かない
- 早食いで慌てて食べたあとに未消化のフードを吐く
原因としては、ドライフードを一度にたくさん食べて胃の中で水分を含んで膨張したことや、早食いで空気を飲み込んだことなどが考えられるでしょう。
また、胃酸の分泌が多くなる、胆汁が胃に逆流する(胆汁嘔吐症候群)などが原因で空腹時に吐くこともあります。
- 早食い防止の食器を使用する
- 多頭飼育の場合は、競って食べさせないように心がけ、落ち着いて食べさせる工夫をする
- ドライフードをふやかして与えるか、小粒タイプを使用する
- 空腹時間が長くなりすぎないように食事の回数を増やす
なお、上記のような緊急性が低いと考えられる場合でも、飲み込む力が弱い子犬やシニア犬は、誤嚥などの二次的な問題が発生する危険性があります。
また、成犬であっても毎日吐き続ける、空腹時に吐くことが1カ月3回以上続く、食事をするたびに吐き戻すなど、吐く回数が多い場合は受診してください。
すぐに動物病院に連れていくべきケース
以下の症状がみられたら、何らかの病気が疑われるため、すみやかに動物病院を受診しましょう。
- 一日に何度も吐く
- 吐く頻度が多い
- 吐こうとして何度もえづくが、吐けない
- よだれを大量に垂らす
- 吐いたものに血が混じる
- 吐いたものに便臭がする
- 嘔吐以外の症状(元気消失、食欲不振や下痢、黄疸など)がみられる
一日に何度も吐く場合や吐く頻度が多い、嘔吐以外の症状がみられる場合は、消化器疾患や内分泌疾患、膵炎、中毒、腫瘍、閉塞性疾患などが疑われます。吐くことで脱水するなど、状況が悪化する危険性があるため注意しなければなりません。
吐こうとして何度もえづく、よだれを大量に垂らす症状は、胃捻転や胃拡張など命に関わる緊急疾患が疑われます。処置が早ければ早いほど助かる可能性が高くなるため、すぐに受診することが大切です。
吐いたものに血が混じる場合は上部消化管や口腔内の出血など、吐いたものに便臭がする場合は閉塞性疾患の可能性があります。
すぐに動物病院へ連れていくことがもっとも大切ですが、ご自宅では以下の対応をしてください。
- 無理に水を飲ませたり食べさせたりしない
- 吐いたもの(吐しゃ物)を捨てずに、動物病院に持っていく(難しい場合は写真を撮る)
- いつ、どんなものを、何回吐いたか、嘔吐以外の症状、前後に与えたものについて記録する
正確な診断と治療のためには、問診が非常に大切です。愛犬の体調が悪くて不安なときに、獣医師からの問診を受けると記憶が曖昧になってしまうことがあるため、しっかりと記録しておきましょう。
犬の嘔吐を防ぐための対策
犬が嘔吐する原因はさまざまですが、誤飲を防ぐことで嘔吐のリスクを軽減できます。
飼い主さまのなかには「犬は自分の身体に毒なものは、嗅ぎ分けて食べることはない」と思っている方もいるでしょう。
しかし、実際は何でも口にする犬がほとんどです。誤飲による来院はわたしの勤務している動物病院で非常に多く、救急病院への来院理由でも上位を占めています。
そこで、わたしの臨床経験上、実際に犬が食べて閉塞(異物が原因で食道や腸がふさがる状態)する可能性が高かったものと、中毒を起こす危険性がある食べ物を紹介します。
犬が食べると閉塞する可能性が高いもの
- トウモロコシの芯
- やきとりの串
- 靴下
- 桃の種
- 丸いおもちゃ
とくにトウモロコシの芯は、食べると高い確率で閉塞するため要注意です。
中毒を起こす危険性がある食べ物
犬が中毒症状を起こしやすい食べ物は以下のとおりです。
- ネギ類(玉ネギ・長ネギ・ニラなど):ネギに含まれる物質により赤血球が破壊される。症状は貧血・血尿・下痢嘔吐など
- ココア・チョコレート:カカオに含まれるテオブロミンによる中毒で、消化器症状のほか、震えや神経症状、けいれんなどがみられる
- ブドウ・干しブドウ:腎不全を起こす危険性がある。干しブドウは摂取量が多くなりやすいためとくに注意が必要
- キシリトール:低血糖を起こすことがある
そのほか、観葉植物やユリ科の花など、犬にとって有害な成分が含まれているものは多数あるため注意しましょう。
誤飲の可能性があるものは犬が届かないところに置く
誤飲を防ぎ、嘔吐のリスクを抑えるためには、誤飲する可能性があるものを犬の手が届かないところにしまうことが大切です。
さらに、以下のような対策が効果的です。
- 飲み込める大きさのおもちゃを与えない
- ゴミ箱は蓋つきのものにする
- トウモロコシや焼き鳥をそのまま与えない
- おもちゃは破損部分がないかチェックする
- 不在時にはサークルやケージの中で過ごせるようにしつけをする
誤飲は子犬に多いイメージがあるかもしれません。しかし、成犬でもいろいろなものを口にしてしまう子は多く、誤飲につながるおそれがあります。
犬は何でも口にするということを忘れないようにしましょう。
嘔吐対策におすすめのドッグフード
先述のとおり、嘔吐の原因の一つとして、ドライフードを一気に食べてしまい胃の中で膨張したことが挙げられます。そこで、おすすめしたいのがケーナインナチュラル (K9 Natural)の総合栄養食のドッグフードです。
基本的には、水またはぬるま湯を加えてから与える方法のため、胃の中で水分を含んで一気に膨らむトラブルが起こりにくいメリットがあります。
カロリーが高めなのでダイエットが必要な愛犬以外に与えるとよいでしょう。
【まとめ】犬が吐く原因を把握して、いざというときは適切に対処しよう
犬が「吐き戻す」という状況には、胃の中の物を吐き出す「嘔吐」、食道から逆流して口から吐き出す「吐出」、食べ物や飲み物を上手く飲み込めず口から出てしまう「嚥下困難」の3つがあります。
犬は胃の構造上、吐きやすい特徴があるものの、緊急性の低いケースから、すぐに治療が必要なケースまであり原因は多岐にわたります。
普段から愛犬の様子をよく観察し、吐いたときは適切に対処しましょう。動物病院へ連れていくときは、吐いたものの内容や症状、吐く回数などを詳しく記録しておいてください。
参考文献
・続 ぼくとチョビの体のちがい 佐々木文彦著 (株)学窓社
・小動物臨床における診断推論 馬場健司監訳 (株)緑書房
・月刊CAP 2018年1月号 No343 (株)緑書房
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わたし自身も、お気に入りのゴム製のおもちゃにヒビが入っていたのを取り換えようとして、14歳の愛犬が目の前で半分誤飲し、内視鏡がある病院に駆け込んだ経験があります。