執筆者:葛野 莉奈
麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。獣医師 ...プロフィールをもっと見る
「愛するわんちゃんとずっと一緒にいたい」という願いは、どんな飼い主さんでも持っているものでしょう。
わんちゃんは人間と違って老化するスピードが速いです。
生後1年は、小型犬であれば人間に換算すると約16年分、大型犬であれば約12年分成長し、その後小型犬は1年で約4年分ずつ、大型犬は約7年分ずつ年をとっていきます。
いつまでも可愛い赤ちゃんと思っていても、気付けばシニア犬の仲間入りをしていることはよくあります。
後から後悔しないために、飼い主さんがわんちゃんのためにできることのひとつが「ごはん選び」です。
では、どのような点に注意して選べば良いのでしょうか。
シニアになるとあらわれる体の変化
まず、わんちゃんがシニアになると起こる体の変化について、飼い主さんは知る必要があります。
この変化がわかると、ごはん選びの際に何を補い、どのような点に配慮するべきかがわかるはずです。また、普段の行動の変化にも気付きやすくなるため、ライフスタイルの改善につながり、わんちゃんの負担を軽減できるでしょう。
筋力の低下や関節の変化
見た目でもわかりやすく起こるのが筋力の低下です。
とくに後ろ足やお尻付近の筋肉は、飼い主さんも気づきやすい部分でしょう。
関節は、骨と骨のクッションの役割をする関節液が減少し、骨同士がぶつかり合って変形を起こします。
変形を起こすと、お散歩が前ほど好きではなくなったり、今までできていた行動ができなくなったりします。また関節や骨格の痛みにより、触られるのを嫌がったり、怒りっぽくなったりなど、性格の変化があらわれることもあります。
内臓の機能の変化
内臓の機能も加齢とともに低下します。
色々な体内の臓器が機能低下を起こす場合もあれば、その子にとって弱点と思われるいくつかの臓器が機能低下を起こし、症状が出るまでにいたることもあるでしょう。
明らかな症状がでると、飼い主さんは受診に至るため、機能の低下が原因であることがわかりやすいですが、日常生活の変化だけでは意外と気付かないケースも多いです。
たとえば、水を飲む量の変化、尿量の変化、盗み食いの頻度の増加、便の質の変化、体重の増加や減少の程度の変化などは、内臓の機能や内分泌の機能の低下・変化によって起こっている可能性があります。
これらの変化にいち早く気付けるように、動物病院で定期的な健康診断を受けるようにしましょう。
被毛の変化
被毛の変化も、見た目で気付く飼い主さんは多いでしょう。
栄養吸収や体調、そして内分泌の機能は、被毛の状態や量に関係しています。
これらの変化により、被毛の状態も変化します。
急激に被毛が抜ける場合は、疾患として内分泌系の異常が起こっている可能性が高いため、受診が必要です。
五感の変化
加齢に伴う変化として一番有名なのは五感の変化ではないでしょうか。
視力や聴力の機能が低下するため、近づく際には声をかけるなど、わんちゃんを驚かさないよう工夫されている飼い主さんも多いです。
また、視力や聴力と同様に、嗅覚も低下します。
わんちゃんにとって、フードのにおいは美味しそうかどうかを判断する大切な要素です。
そのため、においが感じ取りにくくなると、食欲の変化が見られることも多いです。
シニア犬用のごはんってどんなごはん?
多くのドッグフードは、ライフステージ別に特徴を変えて作られています。もちろん、シニア犬の体の変化に対応できるよう、シニア犬専用のごはんも存在します。
では、シニア犬用のドッグフードはどのような配慮がされているのでしょうか。
カロリー
運動機能の変化によって、若い頃のようにたくさん体を動かすことがなくなり、代謝機能が衰えると、必要とするカロリーは低下します。
消費するカロリーに見合わない摂取カロリー量だと肥満になりやすく、健康を損ねてしまうおそれがあるため、シニア犬用に見合った熱量になっています。
形状
高齢になると、歯周病になり、歯が抜けたり、あごに違和感を抱いたりするわんちゃんが増えます。
若い頃であれば麻酔をかけての処置も問題なく行えますが、高齢になると全身状態を確認して、機能の著しい低下や疾患が潜んでいないかをチェックしなければならず、皆が行えるわけではありません。
歯周病や歯が抜けた状態で、粒の大きいものや硬いものは食べにくく、食欲の減退につながる場合もあります。
そのため、シニア犬用のドッグフードは粒が小さく、消化液に触れるとすぐに形状が崩れやすくなっている製品が多いです。
性質
犬は加齢により骨格や筋肉・関節が衰える傾向がありますが、骨や筋肉に良いとされる成分が含まれているドッグフードもあります。
また、低下した消化機能に対して、負担をかけないように食物繊維が含まれていたり、低脂肪になっていたりする製品も多いです。
このように、シニア犬用のドッグフードは、シニア犬の体の変化や特徴に沿ったつくりになっています。若い子用のものを食べ続けていると、体質に合わず、肥満になったり、内臓に負担をかけてしまったりする場合もあるため注意してください。
シニア犬用のごはんを選ぶ際のポイント
シニアになったら、シニア犬用のドッグフードを食べることで、体に負担をかけずにより健康でいられるでしょう。
しかし、実際に購入しようとすると、種類が豊富で迷ってしまう飼い主さんも多いと思います。
そこで、以下のようなポイントを重視して選ぶのがおすすめです。
食べやすさ
高齢になると、口腔内やあご・首など口付近の関節のトラブルで、噛む力が弱まり、硬いものや大きいものを避けることがあります。
体力も消耗しやすくなるため、噛む能力に見合わないごはんを食べるだけでも、疲れて消耗してしまう場合もあります。
そのため、できるだけ食べやすいものを選んであげましょう。
粒が小さいものや、軟らかいごはんなどは負担になりにくく、食べられる可能性が高いです。ただし、勢いよく食べる子の場合、粒が小さすぎても誤嚥につながるおそれがあります。
食べるときの癖や好みなども考慮しながら選ぶと良いでしょう。
嗜好性
食欲が落ちて食べる量が減ったり、食べムラが生じたりすると、体力減少に直結してしまいます。
食べてくれるものを選ぶ必要がありますが、高齢になると嗅覚も低下するため、美味しそうな風味のあるもの・好みとするにおいのものを把握した上で選んだ方が良いでしょう。
また、人肌に加熱したり、ウェットフードなどのトッピングをしたりするとにおいが強くなりやすいため、食欲増進につながる可能性があります。
性質
高齢になると持病がある子も増えてきます。
持病によって、療法食と呼ばれる治療の一環となるフードしか食べられなくなる子も多いです。
代表的なものとして、腎臓疾患が挙げられます。
腎臓は、たんぱく質を代謝した際の老廃物を排出し、水分調節をする役割を持つ器官です。しかし、腎臓の機能が低下すると老廃物が上手く排出できず、体に蓄積されてしまいます。この状態が腎不全と呼ばれる状態です。
腎不全になると、嘔吐や食欲不振などの中毒症状を示します。
たんぱく質を多く摂ることで腎臓に負担をかけてしまうため、たんぱく質が制限された療法食を摂取して病状を悪化させないようにしなければなりません。
定期的な健康診断でかかりつけの獣医師から、お薬での治療と併せて、食べるべき療法食が提示される場合もあります。
ごはんは美味しく食べることも大切ですが、高齢になると、低下した機能を補い負担をかけないごはんを選ぶことや、毎日きちんと食べられることが、体力の維持、そして生命維持につながります。
ごはんを食べてくれない……どのようなトラブルが考えられる?
ここまで、ごはんを毎日食べることが、体力の維持につながる、というお話をしてきました。
突然食欲不振の日が訪れ、原因もわからないと焦ってしまうでしょう。
ごはんを食べてくれないときは、以下のような原因が考えられます。
- 口腔内トラブル
- 便秘など排泄の異常
- 内臓の異常
口腔内トラブル
高齢になると、歯周病や首・あごの関節に違和感があらわれることがあります。
歯周病の場合、抜けそうな歯があったり、歯茎からあごの骨にまで炎症が波及してしまったりして、噛むときに痛みを感じているのかもしれません。
関節は変形を起こして、痛みや違和感を伴う変形性関節症と呼ばれる状態になることがあります。
変形性関節症は首などの椎骨でも起こす可能性があり、噛むときの振動が首に伝わって痛いため、食欲不振を起こしているケースもあるでしょう。
ごはんを軟らかくしてあげると口腔内や付近の関節への負担が減り、食欲が戻る可能性もありますが、できるだけ早めに原因を究明して対処することが大切です。
異常が見られる場合は、まずクリニックを受診しましょう。
便秘など排泄の異常
腸の動きが緩慢になる、後肢の筋力低下で排泄時に踏ん張れず排便困難になることが原因で、便秘になるシニア犬も多いです。
便秘になると、胃や腸に食物が残るため、食欲不振につながります。
対策として、腸運動を促進する効果のある食物繊維を多く含むごはんを選ぶと良いでしょう。また、病院で下剤を処方してもらい、排便がない日が続いたら定期的に飲ませることも有効です。
お腹が張って苦しそうであれば、浣腸などで排出をして負担を軽減させてあげる必要があります。その場合は受診を検討して下さい。
内蔵の異常
死の危険に直結する確率がもっとも高いのが、内臓の異常による食欲不振です。
消化器だけでなく、他の臓器の異常によっても食欲不振になることはあり得ます。
循環器や呼吸器が苦しくて食べられないケースや、泌尿器系での中毒症状や排泄の違和感で食べられなくなってしまうケースもあります。
食欲不振に併せて、元気消失や排泄の異常、呼吸の異常など、普段と違う症状が見られる場合はすぐに受診しましょう。
健康で長生きしてもらうためには日々のチェックが大切
このように、ごはんを食べないことが重大な病気のSOSサインとなる場合もありますが、ごはんを食べないだけでは、普段と何が違うのか、見当もつきません。
普段からお家のわんちゃんがどのような状態なのかを知るために、そして何か変化があったときにすぐに気づけるように、日常生活のなかでチェックすべきポイントがあります。
食べ方
食欲の有無だけでなく、食べる時間や仕草なども観察できると良いでしょう。
まったく食べないことで食欲不振ははっきりと気づけますが、実は食べる時間がいつもよりもかかっている場合も、食べづらさがあったり、食欲の減退が始まったりしている可能性があります。
また普段の食べ方や仕草を把握できていると、痛みや違和感などがあって食べづらそうなときに、すぐに気づけるでしょう。
排泄
排泄の有無や便の形状・尿の量なども、内臓の状態を推測するのに大切な情報です。
とくに便秘は食欲不振に直結するリスクが高いため、排便が何日ないのかなどもチェックして、受診時に伝えることで、よりスムーズに診察が進められるでしょう。
また排尿量などは、腎疾患になると尿量が増えることが多く、飼い主さんがお家の様子で気づける場合もあります。
食欲不振を伴う腎不全にまで至ってしまうと、場合によっては入院をして、即処置が必要となります。尿量の異常に気づけると、早期発見および治療につながるでしょう。
水を飲む量
腎疾患や内分泌の異常で水を飲む量が増加する傾向があるため、飼い主さんが気づいて受診をすることで、病気の重症化を防げる可能性が高いです。
また、便秘になった際に、普段の飲水量が把握できていると、対策として水分補給を促す必要があるかどうかなども検討できます。
これらの情報を日々チェックしていると、小さな変化にもすぐに気づけるため、病気のSOSサインを見逃すことがありません。
また、体調不良による食欲不振なのかどうかを判断する際に、これらの項目を併せて確認すると、受診のタイミングを見誤ることが少なくなるでしょう。
まとめ
高齢のわんちゃん達にとって毎日のごはんは、体力を維持し、負担なく健康に過ごすために欠かせないものです。
健康状態を常に把握し、適切なごはんかどうかを冷静に観察する習慣をつけましょう。
高齢になれば、より専門家の意見も大切です。
かかりつけの獣医師は頼りになるアドバイザーと言えるでしょう。
小さな悩みでも相談をして、愛するわんちゃんのために、後悔のないよう最善のケアをしてあげてください。
「愛犬に合うドッグフードがわからない・選べない」と思いませんか?
愛犬の情報を入力するだけで、合う可能性のあるフードを診断します。