執筆者:大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経 ...プロフィールをもっと見る
犬は、満腹中枢がないと言われるくらい(実際はありますが)、食欲旺盛なイメージがある動物です。
しかし、犬も食欲がなくなることはあります。
食欲不振の原因はさまざまですが、まずは愛犬が「食べられないのか」または「食べたくないのか」を見極めなければなりません。
この記事では、犬が食欲不振になる原因とその対処法についてまとめました。
食欲がなくなる原因は?
食欲がなくなる原因は、大きく分けて2つのパターンが考えられます。
①食べ物をくわえるが、食べようとしてもうまく噛めない場合、飲み込めない
→ 食べ物に興味があり、お腹も空いている=「食べられない」
②食べ物に興味を示さない、もしくは食べようとして近づくが顔を背けて食べない
→ 「食べたくない」
①のお腹がすいているのに「食べられない」場合は、何らかの病気を患っている可能性が高いです。
②の「食べたくない」場合には、病気が原因のケースと、食事が気に入らない、環境の変化によるストレスなど病気が原因ではないケースの2つが考えられます。
犬が「食べられない」原因とは?
犬が食べようとしているのに、食べ物をいったん口に入れても落としてしまう、もしくはうまく噛めない場合は、口や咽頭の疾患が考えられます。
口の中の問題で考えられるのは炎症や潰瘍、異物、歯科疾患、腫瘍です。
まれに、咀嚼筋(そしゃくきん:噛む時に使う筋肉)の炎症や神経のマヒなどが原因で、うまく噛めない・物をくわえられないこともあります。
さらに、嚥下障害(うまく飲み込めない)も考えられるでしょう。嚥下障害は、舌や咽頭の炎症や異物、外傷、腫瘍の他、口蓋の異常や迷走神経や舌下神経など神経系の異常によって起こります。
このように、「食べられない」ときは口の中や喉、神経などに何らかのトラブルが生じていると考えられるため、すぐに動物病院を受診する必要があります。
ただし、子犬によく見られますが、一粒ずつくわえて遊びながら食べる癖のある犬もいるため、「食べられない」のかを判断できないときもあるかもしれません。
「これは病気なのかな」と不安に思ったら、食事の様子を動画撮影しておき、受診の際にかかりつけの先生に確認してもらいましょう。
犬が「食べたくない」原因とは?
犬が食事を食べたくない場合は、病気とそれ以外の、2つの原因が考えられます。
病気による食欲不振
以下のような行動や症状が見られる場合には、病気による食欲不振が考えられます。
- 食べ物にまったく興味を示さない
- 食べ物の匂いをかぐと吐きそうな仕草を見せる
- 食欲不振以外に嘔吐や下痢、元気消失など他の症状がある
食欲不振になる病気は、肝疾患や腎不全、腫瘍や感染症、内分泌異常、電解質のバランスの異常、中毒など多数存在するため、聴診や触診などの身体検査のほか、血液検査、レントゲン検査、エコー検査などの検査を行い、原因を調べる必要があります。
また、胃捻転や急性膵炎など命に関わるケースもあるため、食欲不振以外に元気消失、嘔吐や下痢、腹部を痛がるなどの症状が見られたら、なるべく早く動物病院を受診しましょう。
病気以外の原因による食欲不振
食べないこと以外には異常が見られず、排便や排尿にも問題がない場合は、以下の3つの原因が考えられます。
- 食事が気に入らない
今まで食べ慣れていたドッグフードから違うメーカーのフードにした、ウエットフードをメインにしていたのにドライフードに変えた、など食事の内容や形状の変化によって、食べなくなる場合があります。
食の細い小型犬や警戒心の強い犬はとくにその傾向が強く、どんな食事にしたらよいのか悩まれる飼い主様も少なくありません。
- ストレス
犬も人間と同じように、引っ越しや家族が増えた、または飼い主が変わったなどの環境の変化によるストレスを感じ、一時的に食べなくなることがあります。
また、環境の変化そのものだけではなく、環境の変化によって飼い主様自身が精神的に落ち着かなかったり、疲れていたりする状態に対して、犬が敏感に反応している場合も考えられます。
わたし自身の経験も含め、診察をしていて「ペットは飼い主様から色々な影響を受けているな」と感じることは珍しくありません。
このような意味でも、ペットは家族の一員だと日々感じています。
- 加齢による変化
年齢を重ねると、犬の身体も変化します。
噛む力が弱くなり、筋力も低下するため、食事の際に同じ姿勢を保つのが困難になります。
また、味覚や嗅覚が衰え、加齢により代謝が下がり消費カロリーが減るため、食事に対して以前ほどの関心がなくなってしまうケースもあるでしょう。
なお、犬種にもよりますが、身体の変化が出始めるのは平均で7歳前後と言われています。
食欲がなくなった時の対処法は?
病気が原因の場合
「食べられない」場合も「食べたくない」場合も、病気が原因の食欲不振はすぐに動物病院を受診し治療をする必要があります。
病気が原因の可能性が高い症状をまとめると
- 食べ物をくわえるが、食べようとしてもうまく噛めない、または飲み込めない
- 食べ物の匂いを嗅ぐと吐きそうになる
- 食欲不振以外に嘔吐、下痢、腹部疼痛など他の症状がある
- ぐったりして寝てばかりいる
- 飲水量が多くなる
- 身体を丸めて震えている
などです。
このような症状がある場合は、すぐに動物病院に連れていきましょう。
食事が気に入らない場合
ライフステージの変化や治療目的などで、新しく変えたフードを食べない場合は、可能であればもとの食事にいったん戻します。
新しいフードに変える際は一気に変えるのではなく、今までのものと少しずつ配分を変えて混ぜつつ、1週間くらい時間をかけて変更していく方法がおすすめです。
また、食事を与えて、ある程度の時間になったら食べなくても片づけるようにするしつけも必要ですが、気に入らないと胃液を吐いても頑として食べない犬もいます。
その場合は、ゆでたササミをトッピングしたり、フード自体を温めたりふやかしたりするなど少し工夫をしてみましょう。
ただし、食べないからとあれこれ色々なものを与えると、犬は「ごはんを食べなければもっと美味しいものがもらえる」と学習してしまうため、人間の食べ物やおやつは与えないように注意してください。
わたしの勤務先にも「まったく食事を食べない」という主訴で飼い主様とワンちゃんが来院して、体重を量ると減るどころか増えている場合があります。
よくよく伺うと、「おやつに歯磨きガムを2本朝晩あげています」「ボーロを10個くらい与えています」というお話が出て驚くことがあります。
小型犬の飼育頭数が多い日本では、人間の体重の10分の1から、多くても3分の1くらいの体重の犬が多いです。人間の感覚ではほんの少しのおやつやごほうびのつもりでも、犬にとってはかなりの量になるため注意が必要です。
ストレスが原因の場合
まずは、愛犬が安心できる環境作りを心がけましょう。
具体的には、愛犬が使っていたベッドやクッションを引っ越しだからと全部新品にする、いきなり長時間の留守番生活をさせる、など極端なことはなるべく避けるべきです。
また、犬とたくさんアイコンタクトをすることで、犬も飼い主も「幸せホルモン」と言われるオキシトシンの分泌が増えるというデータがあります。
ご自身と愛犬のストレスを解消するためにも、お散歩やおもちゃで一緒に遊ぶ時間を増やす、のんびりとお家の中で一緒に過ごすなど、積極的にコミュニケーションをとりましょう。
食事を食べないこと以外に、物を壊す、攻撃的になるなどのストレス行動が深刻な場合は、ストレスを緩和するサプリメントや内服薬もあるので、かかりつけの動物病院に相談してください。
また、問題行動が多くてお困りの際は、行動診療専門の獣医師に相談してみるのも一つの方法です。
加齢による変化の場合
加齢による犬のエネルギー要求量は、若い頃に比べると20%〜30%低下します。
また、噛む力も衰えて食べ物を飲み込む力も弱くなるため、ある程度の年齢になったら食べやすくて飲み込みやすい食事に変更しましょう。
具体的には、食事をふやかす、飲み込みやすいように小さくお団子状にする、ミキサーでペースト状にするなどです。シニアになってもまったく食欲の落ちない犬もいるため、愛犬の好みに合わせて色々試してみましょう。
また、犬が楽な姿勢で食事ができるように、食器を少し高い位置に置くのもおすすめです。
食事を温める、ドライフードの保存の際に出汁のパックと一緒に保存して風味をつけるなど、
嗅覚を刺激して食欲を上げる工夫もよいでしょう。
消化能力も落ちるため、今まで与えていた量より少なくてもしっかりと栄養がとれるフードに変更し、動物病院の処方食や経腸用のミルクなどを活用するのもシニア犬には効果的です。
手作り食も有効と言われますが、「体によさそうなものを色々混ぜる」というレシピでは、栄養のバランスが悪くなる、ミネラル分が不足する傾向があるため、動物栄養学の基本を学んでからチャレンジすることをおすすめします。
食欲がない……いつ病院に行くべきか知りたい!
超小型犬や子犬、糖尿病の犬を除いて、犬は丸一日くらいの絶食は耐えられます。しかし、翌日もまったく食べない場合は動物病院を受診しましょう。
犬の一日は人間の4日~7日と言われます。
つまり、2日間まったく食べない=約1週間食べないことと同じです。
自己判断で愛犬が辛い思いをすることがないように、早めの受診を心がけましょう。
また、愛犬の体調不良に早く気づくためには、普段からよく観察をすることが大切です。
食欲や元気があるかどうかはもちろん、便や尿の状態や色、可視粘膜の色や口の中の臭いの変化、身体全体をまめに触って異常な腫れがないかなどもチェックしましょう。普段一緒に過ごしている飼い主様だからこそ気づけることがたくさんあります。
ぜひ、愛犬をよく観察して触れてあげてください。この記事が少しでも参考になれば幸いです。
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