執筆者:大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経 ...プロフィールをもっと見る
犬に与えてはいけない野菜として、ネギや玉ネギは比較的知られています。
では、完熟した実は与えても問題ないのに、ヘタや葉・茎、そして未熟な実や花を与えると、中毒症状を引き起こしてしまう危険な野菜があるのをご存じでしょうか?(正解はトマトです!)
このように野菜によっては、食べられない部分があったり、調理方法を工夫しなければならなかったりするため、与える前に必ず確認することが大切です。
今回は、犬が食べてよい野菜と食べてはいけない野菜、誤って食べてしまったときの対処法についてまとめました。
そもそも犬は野菜を食べていいの?
犬は、雑食動物と言われていますが、肉食動物に近い雑食動物です。
犬の消化器の特徴は、獲物を素早く効率的に丸のみするための歯、一度にたくさんの食べ物を受け入れる大きな胃、そして腸の長さは体長比で雑食動物の人が7~10倍なのに対し、犬は5~6倍と短めです。
このように犬の身体は、繊維質の多い野菜などの消化吸収は、あまり得意な構造ではありません。
そのため野菜を与える際には、やわらかく煮る、細かく切る、またはスムージーのようにペースト状にして与えると、身体に負担がかかりにくいでしょう。
犬に野菜を与えるメリットとしては、以下の2つが挙げられます。
・おやつ代わりに間食として与える場合
→余分なカロリーや脂肪の摂取を抑え、食物繊維やミネラル分・ビタミン・水分が摂れる
・食事として与える場合
→肉や魚などのタンパク源に含まれていない食物繊維や有用な栄養素を摂れる
過度な野菜の摂取は、犬の身体には負担です。
しかし、適切な量と与え方に気を付けることで、抗酸化作用・利尿作用・消化吸収を助けるなど、野菜の持つ栄養や特性が、愛犬の健康維持に一役買ってくれるでしょう。
犬が食べてよい野菜は?
犬が食べられる野菜は多く、すべて網羅するのは難しいため、身近で代表的なものをまとめました。
セリ科の野菜
・ニンジン
βカロテンが多く含まれます。栄養が多く含まれるのは細胞壁であるため、栄養素をしっかり摂取する目的の場合は、すりおろす・ペースト状にするなど工夫しましょう。
・セロリ
βカロテン・ビタミンC・ミネラル類を豊富に含む野菜です。葉にも栄養がたくさん含まれますが、苦みがあるため嫌がる犬もいます。
ウリ科の野菜
・キュウリ
水分を多く含み、夏の水分補給のおやつに向いています。
銅を多く含むため、銅蓄積性肝炎が遺伝的に多い「ベドリントンテリア」や「ウエストハイランドホワイトテリア」は避けた方が安心です。
・かぼちゃ
身体を温める効果がある食材で、βカロテン・カリウム・水溶性の食物繊維、そして豊富なビタミンE・ビタミンCが含まれています。
腸内通過時間を緩やかにする働きがあり、下痢の時にも使える野菜です。
キク科の野菜
・ゴボウ
炭水化物と食物繊維が多く、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維が両方含まれているため、整腸作用や便通促進の効果があります。
・春菊
βカロテン・ビタミンB群・ビタミンC・ビタミンE・鉄・カルシウムを多く含み、食物繊維も豊富です。
・レタス
95%以上が水分で食物繊維もあまり多くない野菜ですが、リーフレタスやサニーレタスはβカロテンを多く含みます。
その他の野菜
・アスパラガス
タンパク質・ビタミン・ミネラルをバランスよく含む野菜です。
アミノ酸の一種であるアスパラギン酸を含みます。
・サツマイモ
*サツマイモは「野菜」の分類ではなく、「いも類及び粉類」です。
主成分は炭水化物です。
カリウムと不溶性食物繊維が多く、βカロテン、ビタミンB₁・B₂・C・Eを含みます。
ただしシュウ酸が多いため、シュウ酸カルシウム結晶や尿石がある犬には与えないほうが安心です。
また、シュウ酸は水に溶けやすいため、輪切りにしてゆでるとシュウ酸の含有量を減らせます。必ず加熱して与えましょう。
与えてもよいが注意すべき野菜
調理方法や与える部分・量などに注意しなければならない野菜もあります。
アブラナ科の野菜
アブラナ科の野菜は栄養価が高く、非常に手に入りやすい野菜です。
しかし、ゴイトロゲン(甲状腺腫誘発性物質)が含まれているため、毎日大量に常食しなければ問題はありませんが、甲状腺疾患がある場合は注意が必要です。
また、加熱するとその影響は軽減されると言われています。
・キャベツ
カルシウム・カリウム・ビタミンCが豊富で、食物繊維も多く含まれています。また、胃腸薬にも使用されるビタミンUを含む野菜です。
食事として与える場合は、軽くゆでてみじん切りにすると、胃腸への刺激が軽減されるためおすすめです。
・ブロッコリー
スルフォラファンという物質が、身体の抗酸化力や解毒力を高めます。
また、ビタミンC・βカロテン・ビタミンB群・カルシウム・カリウム・食物繊維が豊富で、
野菜の中ではタンパク質を多く含みます。
・大根
葉はβカロテン・鉄・カルシウム・ビタミンCが豊富ですが、農薬が多くかかる部分のため、よく水洗いして、ゆでてから与えましょう。
根の白い部分は、生で与えるほうがおすすめです。ジアスターゼなどの消化酵素を含み、でんぷんの消化を助ける働きがあります。根の部分は固いため、皮を取り除いて小さくカットするか、すりおろしてから与えましょう。
・小松菜
βカロテン・ビタミンC・カルシウム・鉄が豊富です。
とくにカルシウムは野菜の中で最も多く含まれ、ほうれん草の5倍と言われています。
・白菜
95%が水分で、ビタミンCを多く含みます。食物繊維はキャベツの7割程度です。
適量であれば食事に混ぜると、空腹感の緩和に役に立ちます。
・カリフラワー
ビタミンB₁・B₂・食物繊維が豊富な野菜です。ビタミンCが多く、ゆでても損失量が少ないと言われています。
・チンゲン菜
βカロテン・ビタミンC・鉄・カルシウムが豊富です。整腸作用がありますが、食物繊維はそれほど多くありません。
ナス科の野菜
トマトの葉や花・茎・そして未熟の青い実には「アルカロイド」が多く含まれており、犬が食べると嘔吐や下痢・ふらつきなどの中毒症状が出るおそれがあります。
食べてよいのは完熟した赤い実のみです。
ただし、トマトはスギ花粉と交差反応(異なったアレルゲンでも似ている部分があると抗体が反応し、アレルギー反応を起こすこと)があるため、スギ花粉症やアレルギーがある犬は避けたほうがよいでしょう。
また、完熟したトマトの実も含め、ナス科の野菜に含まれるアルカロイドには、炎症を促進する作用があります。関節炎がある犬には、加熱して与えるか、与えない方が安心です。
・トマト
抗酸化作用があるリコピンが多く含まれ、βカロテンとビタミンCが豊富です。
・ミニトマト
ミニトマトの方がトマトより食物繊維が多く、栄養価が高いと言われています。
水分が多いため、夏の水分補給のおやつとして与えるのもおすすめです。
・ジャガイモ
主成分は炭水化物です。サツマイモより低カロリーですが、栄養素は劣ります。
芽と皮の青い部分には中毒を起こすソラニンという物質が含まれているため、芽と皮はしっかり取り除き、加熱してから与えましょう。
体質にもよりますが、わたしが受講した手作り食の講義で、積極的に摂ったほうがよい野菜として紹介されたのが、「かぼちゃ」と「サツマイモ」です。
栄養価が高くおすすめですが、カロリーが高いため与える量に注意しましょう。
犬が食べてはいけない野菜は?
以下の野菜は、中毒症状を招き、命に危険が及ぶ場合もあるため、与えてはいけません。
ネギ・玉ネギ・ニラ・エシャロット・ニンニク
赤血球を破壊して、貧血や血尿・下痢・嘔吐などの中毒症状を引き起こします。
牛丼の汁などエキスが入ったものを、ほんの少し舐めただけでも症状が強くでてしまう犬もいます。
ニンニクに関しては諸説ありますが、同様の症状が出る可能性があるため、与えないようにしましょう。
アボカド
*分類は「野菜」ではなく「果実」です。
熟していないものや、種類によってはペルシンという中毒性物質を含みます。
種は毒性が強い上に、腸閉塞を引き起こす危険性があります。
犬に野菜を与える際の注意点
犬に野菜を与える際は、最初から一日の許容量ギリギリまで与えるのではなく、必ず少量から始めましょう。
さらに、初めて与える野菜は、下痢や嘔吐などの消化器症状がでないかを確認する必要があります。まずは1種類のみを与えるようにしてください。
犬の好みや身体に合う野菜がわかったら、同じものを毎日与えるのではなく、日替わりや週替わりで色々な野菜をローテーションして与えるのがおすすめです。
それぞれの野菜がもつ栄養を上手に摂ることができる上に、摂りすぎによるトラブル防止につながります。
わたし自身が学んだ動物栄養学と手作り食の勉強会では、「キャベツ→ブロッコリー→小松菜、とローテーションしているつもりで、実は全部アブラナ科の野菜だった、とならないように色々な科の野菜を取り入れましょう」と学びました。
少し大変ですが、各々の野菜の栄養特性を考えて与えるほうが、健康維持に役立ちます。
一日にどれぐらいの量をあたえても大丈夫?
諸説ありますが、手作り食の一環として与える場合は、肉や卵・魚などのタンパク質が8割、
野菜や果物などは2割以内に抑えましょう。
おやつとして与える場合は、一日に摂る食事の重量の10%以内が理想です。
ただし、水分が多い野菜や、シュウ酸が多く含まれている野菜を与える際は注意が必要です。
また、シュウ酸は水に溶けるため、ゆでることで量を減らせますが、体質や症状によっては与えないほうが安心です。
誤って食べてしまった時の対処法
食べてはいけない野菜を誤って食べてしまった場合、催吐処置で吐かせられるのは誤食後約2時間です。
夜中に誤食して翌朝一番に動物病院に行ったとしても、時間の経過とともに食べたものが胃から腸へと移動するため、吐かせることはほぼ不可能です。
また、種などの大きなものは吐かせると危険なため、内視鏡手術や開腹手術が必要になる場合もあります。
もちろん誤食させないように注意することが一番ですが、万が一食べてしまったらすぐに動物病院に連れていき、処置をしてもらうことをおすすめします。
かかりつけの動物病院も含め、夜間救急の対応病院を調べておくと安心です。
この記事が、少しでも参考になれば幸いです。
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