病気・ケア

地震で被災したら犬はどうする?避難方法と日頃の対策【専門家執筆】

執筆者:原 京子
動物看護士、ペットショップでの生態管理、動物園飼育スタッフなどを経験 ...プロフィールをもっと見る

地震が起こったら、自分の身の安全を確保することはもちろん大切ですが、ペットの命も守る必要があります。

では飼い主さんは、犬とどのように避難したらよいのでしょうか。また、万が一被災したときのために、日頃からどのような備えをしておくべきなのでしょうか。

この記事では、被災した際の犬との避難方法や注意点・日頃の防災対策について詳しくまとめました。

東日本大震災での教訓

2011年に起きた東日本大震災では、取り残されたり迷子になったりした多くのペットが衰弱・死亡するほか、避難所での鳴き声や糞尿をめぐるトラブルが問題となりました。

その後環境省は、動物愛護の観点以外にも、住民や公衆衛生の安全のために「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を作成しました。このガイドラインによると、災害時は飼い主がペットと同行避難することを原則としています。

同行避難とは、ペットと一緒に避難行動をとることです。自治体や避難所によってペットの扱い方が異なるため、事前に確認しておくと安心です。

災害時に準備するもの

災害が起きて避難をする場合、すべての備蓄品を持ち出せるとは限りません。
まず優先すべきものは、命にかかわるものです。次いで、飼い主やペットの情報・生活用品の順番で避難グッズを持ち出します。
ここでは環境省が推奨する、ペットの持ち物で優先すべき順番と内容について解説します。

優先順位1:命にかかわるもの

ペットの命にかかわるものとは、主に以下のアイテムです。

  • ペットフード、水(最低5日分)
  • 常備薬
  • キャリーケース
  • 予備の首輪やリード(伸びないもの)
  • 食器
  • ガムテープ(ケージの補修など多用途に使用)

ペットフードと水は、最低でも5日分用意します。ペットフードは一食分を小分けにしておくと、分量を計る手間が省けるためおすすめです。水はミネラルウォーターではなく、なるべく水道水かペット用の水を用意してください。

服薬がある場合には、忘れずに持っていきます。また、食器は紙製のものだと、軽くて衛生的です。ガムテープは、多目的で使えるため、用意しておくと役立つでしょう。

【優先順位2:飼い主やペットの情報】

次に大切なのが、飼い主さんやペットについての情報です。万が一飼い主さんと離ればなれになった際にも、早期発見につながります。
用意するものは、以下の通りです。

  • 飼い主の連絡先
  • ペットの写真
  • ワクチン接種状況
  • 健康状態
  • かかりつけの動物病院

東日本大震災では、多くのペットが飼い主さんと離ればなれになってしまいました。飼い主さんの連絡先が書かれた迷子札や、狂犬病予防注射済票など、飼い犬であることや連絡先が分かるように残しておきましょう。

【優先順位3:ペットの生活用品】

いつまで続くか分からない避難所生活のために、生活用品を用意します。
支援物資は人間が優先されるため、ペット用品はなるべく自力で確保しておくことが望まれます。
用意したい生活用品は、以下の通りです。

  • ペットシーツ
  • 排せつ物の処理用具
  • タオル
  • ブラシ
  • おもちゃ

避難所では犬を飼っていない方も大勢います。場所を考慮せずに排泄をすると、臭いや衛生面で迷惑がかかってしまうため配慮しなければなりません。ペットシーツやうんち袋などは多めに用意しましょう。

また、抜け毛がでないようブラシも必要です。余裕があれば犬用のおもちゃを用意して、避難所生活でのストレス解消を心がけましょう。

日頃からできる防災対策

災害時のために備蓄をするだけではなく、愛犬を連れて安全かつスムーズに避難ができるよう、普段からの防災対策も大切です。
日頃からしておきたい愛犬の防災対策は、以下の通りです。

飼育環境を見直す

ペットのケージが置いてある場所は、地震の際にものが落ちてこないよう置き場所を変えたり、固定したりして対策しましょう。また、地震の際は物が飛んでくることもあるため、ガラスなど危険なものは近くに置かないようにしてください。

屋外飼育の場合は、犬がパニックになって逃げてしまう可能性があります。「首輪やリードは劣化していないか」「柵や囲いはしっかりしているか」「倒れやすい建物がそばにないか」などを確認しましょう。

家族で話し合っておく

災害が起きたときに備え、以下のような内容を家族全員で話し合っておくと安心です。

  • 家族間の連絡方法、集合場所
  • 備蓄物資の保管場所と中身
  • 愛犬をどう守り、避難するか
  • 飼い主が留守中の災害時の対策方法

「どこに避難するか」「備蓄品の場所はどこか」「愛犬は誰がどのように避難させるか」など、ルールや役割を決めておくと、災害時にスムーズに行動できます。また、留守中に災害が起きたときに備え、ご近所や愛犬仲間と連携をとっておくことも大切です。

愛犬とはぐれてしまったときに備える

災害時では、予期せぬトラブルが多く発生します。
万が一愛犬と離ればなれになった際、少しでも早く見つかるよう、以下の備えをしておきましょう。

  • 首輪
  • 鑑札、狂犬病予防注射済票
  • マイクロチップ
  • 迷子札

首輪は常に着用しておき、首輪には鑑札表と狂犬病予防注射済票をつけておきます。また、飼い主の連絡先が書かれた迷子札をつけておくと、見つけた方が連絡しやすくなります。

万が一首輪が抜け落ちてしまったとしても、マイクロチップをつけておけば、保健所に保護された際に連絡先が分かります。

マイクロチップの重要性

これまで震災時に、室内飼育のペットがパニックになったり、崩壊した隙間から逃げ出したりして、迷子になるケースが多数報告されています。
迷子になった犬は痩せて首輪が抜けてしまい、情報が分からなくなった事例も起きていることから、マイクロチップをつけておくと安心です。

マイクロチップは体に埋め込むため、落ちてしまうことがありません。保健所などに保護された際、専門の機械を使用することで、連絡先を把握できます。

キャリーケースに慣れさせておく

避難所では、キャリーケースに入れたまま過ごすことが多いため、普段から慣れさせておきましょう。慣れさせておかないと、不慣れな環境にストレスを感じ、体調を崩してしまうおそれがあります。

普段からキャリーケースを解放しておき、いつでも入れるようにしておくのがおすすめです。入っていたら褒めてあげて、キャリーケースに入ることはよいことだと学習させましょう。

動物病院に連れていくときなど、嫌なことをされるときにだけ入るものと認識しないように、しつけることが大切です。

なお、愛犬を抱っこして避難所に連れていくと、急な余震や物の崩壊などでパニックを起こし、暴れて逃げ出してしまう可能性があります。逃げてしまった愛犬をすぐさま探す行動は、飼い主さん自身の身を危険に晒すことにもつながります。

愛犬がパニックになっても逃げ出さないよう、必ずキャリーケースに入れて移動しましょう。

キャリーに入らない大型犬の場合は「靴」も検討しておく

キャリーに入らない大型犬の移動は、歩かせるしかありません。
しかし、地盤が歪んでいたり物が崩壊したりしていると、足の怪我が心配です。

犬の足を守るためには、犬用の靴の装着がおすすめです。通販サイトやペットショップなどで販売されているため、事前にチェックしておきましょう。

基本的なしつけはしっかり覚えさせる

避難所では、隣の人との隔たりが少ないため、しつけをしておかないと迷惑がかかってしまいます。
基本のしつけである「まて」「おすわり」「ふせ」を覚えさせておきましょう。

また、飛びつき癖や吠え癖・他人への威嚇をしないことや、ペットシーツ上で排泄をするトイレトレーニングも、トラブル回避のために必要です。

各予防接種を済ませる

予防注射を済ませていないと、避難所に入ることができない場合があります。ほかの動物に感染するおそれのある病気の予防は、しっかりと行っておきましょう。
具体的に済ませておくべき予防は、以下の通りです。

  • 狂犬病予防注射
  • 各種ワクチン接種
  • フィラリア症の予防、駆除
  • マダニなど寄生虫の予防、駆除

避難所での注意点

犬を連れての避難所生活では、守らなければならないルールがたくさんあります。飼い主さんが配慮すべきルールやマナーについて解説します。

周りの人の迷惑にならないよう注意する

大勢が集まる避難所には、犬を飼っていない人もいれば、犬が苦手な人・アレルギーがある人もいます。「犬が吠えてうるさい」「犬に噛まれた」「抜け毛が飛んで不衛生だ」などのトラブルや苦情は多く聞かれます。

飼い主さんは、犬を飼っていない人の迷惑にならないよう、愛犬の管理をしっかりと行わなければなりません。

ペットの健康面に注意する

避難所での生活は、私たち人間にとって非常にストレスとなり、体調を崩しやすいですが、それは愛犬も同様です。
慣れない環境では、食欲不振や下痢などの体調不良のほか、ヒステリックに吠えるといった変化も起こり得ます。
飼い主さんは、愛犬の不安やストレスを少しでも緩和するために、優しく声をかけたり、可能であれば安全な場所で遊んであげたりして、愛犬の健康を守りましょう。

また、車内避難の場合は、熱中症や一酸化炭素中毒・エコノミークラス症候群にも注意が必要です。

まとめ

  • 災害時の避難は原則同行避難
  • 災害時に持ち出すものは、命にかかわるもの、飼い主やペットの情報、生活用品の順に準備する
  • 日頃の防災対策として、飼育環境の見直しや、離れてしまった際の対策、ケージに慣れさせるしつけなどが重要
  • 避難所ではほかの人の迷惑にならないよう、しっかり管理をする

いつどこで起きてもおかしくない大震災に備え、飼い主さんは自身や愛犬の命を守るために、日頃から防災対策を徹底する必要があります。また、避難所でほかの人の迷惑にならないよう、衛生面や基本のしつけを学習させておきましょう。

参考:
環境省│備えよう!いつもいっしょにいたいから ペット動物の災害対策
環境省│人とペットの災害対策ガイドライン

ABOUT ME
原 京子
動物看護士、ペットショップでの生態管理、動物園飼育スタッフなどを経験。ペットと飼い主さんが正しい知識で生活できるよう情報を発信している。
保有資格:愛玩動物介護士、愛玩動物救命士、愛玩動物搬送士、ドッグライフカウンセラー
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