病気・ケア

【獣医師執筆】犬の乳歯はいつ抜けるか。生え変わりの時期と注意点について解説

執筆者:今井 貴昌
日本獣医生命科学大学卒。地方の動物病院と都内のグループ動物病院で数年 ...プロフィールをもっと見る

犬も人間と同じように、子犬の頃に乳歯が生え、成長とともに抜けて永久歯へ生え変わります。

生え変わりの時期はトラブルが起きやすいため、飼い主さんがサポートしたり、注意して観察したりしなければなりません。しかし、「初めて犬を飼う」「犬を飼うのは子供の頃以来」という飼い主さんにとっては、わからないことも多いでしょう。

この記事では臨床獣医師目線で子犬の乳歯に焦点を当て、今後の指針の一つとなるような情報をまとめましたので、ぜひ参考にしてください。

犬の乳歯と永久歯について

犬も人間と同様に、子犬の時期には乳歯がまず生えてきます。
その後、約6ヶ月の間に少しずつ永久歯に生え変わります。

犬の歯は、切歯・犬歯・前臼歯・後臼歯で構成されています。

犬の乳歯

乳歯は永久歯に比べて色が淡く、小さく尖っているのが特徴です。

子犬の場合、乳歯の数は28本ですが、出生時には目に見える歯はありません。
生後3週間頃に歯茎から乳歯が生え始め、通常、生後6週間までにすべての乳歯が生え揃います。

基本的には、乳歯は永久歯よりも外側に萌出されますが、乳犬歯は永久犬歯よりも後方に萌出されます。

犬の永久歯

成犬には42本の永久歯があり、切歯3本・犬歯1本・前臼歯4本・後臼歯2本で構成されています。

もともと肉食である犬の永久歯は、肉を噛みちぎったり骨を砕いたりするために、草食動物よりも鋭く尖っています。とくに犬歯が発達しており、あごの力が強いことも特徴です。

乳歯から永久歯へ生え変わる時期

一般的には、生後約6ヶ月で乳歯から永久歯への生え変わりが完了します。

しかし、小型犬ではこの期間が遅延し、生後約5〜7ヶ月でようやく永久歯との交換が完了する傾向があります。
生え変わる順番はある程度決まっており、切歯→臼歯→犬歯の順に交換されます。

ただし、小型犬では生後7ヶ月でも乳歯が抜けず、乳歯遺残となるケースも多く見受けられます。
乳歯遺残とは、乳歯と永久歯の交換時期を過ぎてもなお、乳歯が残存していることです。

とくに乳犬歯の遺残は、他の乳歯遺残に比べ最も多いため、認められる際には獣医師に相談しましょう。

出血しても大丈夫?

乳歯が抜ける際、多少の出血はありますが、すぐに止まるため様子を見ましょう。
もし1日経っても出血が続いてしまうようであれば、動物病院を受診してください。

また、乳歯がいつの間にか永久歯に替わっており、抜けた乳歯が見つからないこともよくあります。
乳歯は飲み込んでも胃内で溶けるため、基本的には問題はありませんのでご安心ください。

動物病院に連れて行くタイミング

ほとんどの場合、乳歯は自然に抜けるため心配はありませんが、歯の状態をチェックして、気になるようであれば動物病院へ行くことをおすすめします。とくに以下のタイミングで受診するとよいでしょう。

まずは健康診断として

無事に子犬をおうちに迎えたら、まずは健康診断もかねて動物病院へ行きましょう。
その際、子犬の先天的な口腔疾患が見つかる可能性もあり得ます。

ブリーダーやペットショップなどの多頭飼育をされている環境では、ウイルス性疾患や寄生虫疾患を100%予防することは困難です。
健康に問題はないと思っていても、獣医師に何か指摘されることはよくあります。

生後6ヶ月〜7ヶ月でも乳歯が抜けていない

チワワやトイプードルなどの小型犬では、生後約7ヶ月で歯の生え替わりが完了します。

柴犬などの中型犬やゴールデンレトリバーなどの大型犬では、生後約6ヶ月の段階で完了していることがほとんどです。

これらの時期を過ぎていても乳歯が残っている場合は、乳歯遺残となり抜歯が必要です。

日本の動物病院では一般的に生後約6ヶ月を目安に避妊手術や去勢手術が行われるため、乳歯遺残がある場合には全身麻酔下にて乳歯抜歯も同時に行われます。

乳歯遺残が引き起こす病気とは

一般的に、哺乳類動物の永久歯への生え変わりの時期には、その動物種においてほとんど個体差はないと言われています。

しかし、犬の場合は愛玩動物としてブリーディングが多様にされた結果、他の哺乳類動物よりも乳歯に関連した異常が生じやすいことが指摘されています。

小型犬では乳歯、とくに乳犬歯が抜けずに永久歯とともに生えてしまう、乳歯遺残が起こりやすいのです。

切歯や臼歯においては、乳歯が永久歯と数日以上共存している場合には乳歯遺残と判断されます。

一方で乳犬歯においては、上顎では2~3週間以上、下顎では1~2週間以上にわたって永久歯と共存している場合が乳歯遺残に当てはまります。

それに加え、乳犬歯が7ヶ月以上経っても抜けていない場合にも乳歯遺残と判断されます。

乳歯遺残は、そのままにしておくと以下のような病気やトラブルを引き起こすおそれがあるため、適切な処置が必要です。

不整咬合

不整咬合とは、簡単にいうと「かみ合わせが悪い状態」です。放置していると、歯肉粘膜などの損傷を引き起こし、痛みが生じることがあります。

犬の不整咬合は、骨の形が原因の骨格性不整咬合と、歯の生え方が原因の歯性不整咬合に分類されます。

骨格性不整咬合は上顎あるいは下顎の長さや形に異常がある場合を指し、クラス0〜4に分けられます。

たとえば、クラス2は上顎が長くて下顎が短く、クラス3では下顎が長くて上顎が短い犬を指しますが、パグやフレンチブルドッグのような短頭種はクラス3が正常です。

そして、乳歯遺残が引き起こす病態が歯性不整咬合です。一部の歯のかみ合わせが悪くなる危険性があります。

歯石や歯垢の付着

歯石は歯垢から、歯垢は食渣(食べ物のカス)から作られます。
犬の乳歯は永久歯の近くに残存するため、それぞれの間に歯垢が付着しやすい環境ができてしまいます。

その結果、若くして歯石が付着したり、歯周病を引き起こしたりする危険性が高まってしまうのです。

歯周病

歯周病の原因は歯石ではなく、歯垢です。
人間と同じように、歯垢が除去されず、放置され、石灰化したものが歯石となります。

付着した歯垢を放置すると歯肉の縁から細菌が侵入し、歯肉炎が生じます。
進行すると歯周ポケットが形成され歯周炎となり、さらに悪化すると歯の根元の骨(歯槽骨)が溶け、穴が開いてしまいます。

乳歯遺残の検査

歯科X線

一般的には置いていない病院がほとんどでしょう。

しかし、乳歯による病気の大部分が、不整咬合などを伴わない単純な乳歯遺残であるため、歯科X線検査が必要なケースは多くは非常に稀です。

歯科X線検査は、ほとんどの犬が鎮静や麻酔下にて受けなければなりません。
まずは獣医師に相談し、歯科X線を持っている専門病院に行くべきかの判断を仰ぎましょう。

単純X線

歯科X線とは異なり、ほぼすべての動物病院に設置されています。

単純X線はよほどのことがない限りは、麻酔は必要ありませんが、歯科X線と比較して診断精度は大きく低下してしまいます。

それは、歯科X線では右上顎など部分的に撮影できるのに対し、単純X線では顔全体の撮影しかできず、骨と歯が重なって表示されてしまうためです。

ただし、先に述べたように、単純な乳歯遺残であるケースがほとんどのため、あえて顔のみの単純X線を撮影する必要はないでしょう。

血液検査

血液検査は、貧血の有無や麻酔薬をきちんと代謝できるかなど、全身状態の評価のために行われます。

ほとんどの子犬は問題なく麻酔に耐えられますが、ごくまれに手術前の血液検査で異常が発見され、麻酔の延期が提案されるケースもあります。

その他

血液検査やX線検査の結果に応じて追加検査が必要なこともあります。

場合によっては、超音波画像検査やCT検査・MRI検査などを提案されることもあるため獣医師の判断を仰ぎましょう。

乳歯遺残の治療法

乳歯抜歯

ほとんどの子犬は、遺残した乳歯を抜歯することで問題なく治療が終了するでしょう。

生後約7ヶ月経過しても乳歯が残存する場合は、避妊手術や去勢手術とともに抜歯します。

ただし、歯性不整咬合が認められる場合には、より早期に乳歯抜歯を行ったり、歯科矯正が必要となったりするケースもあるため注意が必要です。

専門病院への紹介

歯科X線検査と早期の歯科矯正が必要と判断された場合、歯科専門病院への紹介を受ける可能性があります。

歯性不整咬合や永久歯が生えてこない場合には、一度専門病院のセカンドオピニオンをとることも検討しましょう。

乳歯と永久歯との付き合い方

病気を防ぎ、健康な歯を保つためには、乳歯の段階から正しいケアと定期的なチェックを行うことが大切です。

歯磨きトレーニング

歯周病は高齢の犬に多いイメージがありますが、2017年に発表されたガイドラインでは、2歳齢までの犬の80%に何らかの歯周病があると記載されています。

中には生後6ヶ月で歯石が付着するケースも存在するため、より早期のホームデンタルケアが重要です。

歯磨きは、まず口を触るトレーニングから始め、歯や歯肉を触るトレーニング、手磨きトレーニング、歯ブラシトレーニングへと徐々に進めましょう。

その際、初めから一度にすべての歯を磨く必要はありません。

まずは1本、次に2本といったように、飼い主さんも犬も継続してできる方法で行うことが最も重要です。

定期的にチェックしてもらう

トリミングサロンや動物病院で歯石が付着していないか、定期的にチェックしてもらいましょう。

人間が歯磨きを毎日していても歯石が付着してしまうのと同様に、犬も毎日磨いていても歯石は付着します。

犬の場合、通常スケーリングは全身麻酔下にて行うため、高齢になるほど麻酔リスクが伴ってしまいます。

定期的に見てもらうことで、できる限り麻酔リスクの低いタイミングでスケーリングを行うことができるのです。

無麻酔スケーリングについて

無麻酔スケーリングを謳っているサロンや病院もありますが、日本小動物歯科研究会やアメリカ獣医師学会、ヨーロッパ獣医師学会のいずれの団体も推奨はしておりません。

無麻酔スケーリングは犬に恐怖を与えるだけでなく、それが原因で口を触れなくなったり、審美的な問題のみの解決しかできなかったりすることが非推奨の理由です。

歯垢および歯石の除去で最も重要なのは歯周炎への進行をいかに予防するかであり、それには飼い主さんの日々のホームケアが必要不可欠です。

まとめ

犬の乳歯は生後約6ヶ月〜7ヶ月で抜け、永久歯に生え変わります。
生後7ヶ月経っても乳歯が残っている場合には、乳歯抜歯が適応となるため獣医師に相談しましょう。
また、乳歯の段階から歯磨きトレーニングを行い、定期的なチェックを心がけてください。

この記事を参考に、みなさまが楽しい愛犬ライフを送っていただけるよう心より祈っております。

参考:
World Small Animal Veterinary Association Global Dental Guidelines (wiley.com)

ABOUT ME
今井 貴昌
日本獣医生命科学大学卒。地方の動物病院と都内のグループ動物病院で数年間の勤務を経て、母校の臨床研修医として研鑽を積む。獣医師として社会に貢献するため日々奮闘中。
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