執筆者:葛野 莉奈
麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。獣医師 ...プロフィールをもっと見る
高齢犬になると、体のさまざまな部分が劣化し、若齢のころよりも機能が低下する傾向があります。
加齢による変化が見られるのは、循環器、運動器、消化器など多岐にわたりますが、泌尿器の中の腎臓も機能が低下しやすい臓器です。
機能が低下した腎臓の負担を軽減するためには、どのような対策をとればよいのでしょうか。
この記事では、犬の腎機能が低下したときにみられる症状や対策について、ドッグフード選びのポイントも含めて解説します。
腎臓の機能について
犬の体は、循環器や呼吸器系、消化器系、泌尿器系などさまざまな臓器によって成り立ちます。
腎臓は老廃物や不要な水分を排出する泌尿器系の臓器の一つです。
腎臓の機能が低下すると、尿毒症と呼ばれる老廃物の血中濃度が上昇するおそれがあります。また、尿が作られない、必要な水分まで尿として排出されて脱水状態が進むなどの問題が起こる場合があります。
まずは、腎臓が日常的にどのような働きをしているのかをみていきましょう。
老廃物の排泄
体を維持するために必要な栄養分は、糖やたんぱく質、脂質などさまざまです。
腎臓には、たんぱく質を摂取し、代謝した際に発生する老廃物を排出する役割があります。
たんぱく質を代謝した際に発生するのは尿素です。尿素の中に窒素が含まれたものを、尿素窒素と呼びます。腎臓は、この尿素窒素を尿中に排泄する臓器です。
また、血中に存在する尿素窒素を血中尿素窒素(BUN)といいます。血中窒素の濃度が上昇しすぎないよう、腎臓が尿中に排出しますが、健康な状態でも一定量の血中窒素は存在します。
排泄による水分や電解質の調整
人間だけではなく、犬も体を構成するうえで大部分を占め、大きな役割を果たすのが水分です。しかし、体に含まれる水分は、多すぎても少なすぎてもいけません。
腎臓は適量な水分を体内にとどめておけるように調節を行なっており、余分な水分を尿として排泄させる役割も担っています。
また、体内の血液の濃度が一定に保たれるように、ナトリウムなどの電解質の濃度を調節することも腎臓の役割です。
血液を作るためのホルモンの分泌
生命活動を維持するうえで欠かせないのが赤血球です。赤血球は骨髄で作られますが、赤血球を作る指示を出しているのが腎臓です。
腎臓から分泌されるエリスロポエイチンというホルモンが造血に関与しています。
腎臓が機能低下を起こすと、エリスロポエイチンの分泌量も低下するため、貧血につながります。
腎臓の不調によってどのような問題が起こる?
ここまで、腎臓の働きが健康な体づくりや体内環境の維持に不可欠であることを解説してきました。
では、腎臓の機能が低下すると、どのような問題が起こるのでしょうか。
血中の毒素の濃度の上昇
前述のとおり、たんぱく質を代謝したあとの老廃物として尿素窒素が発生します。発生した尿素窒素を尿中に排出するのが、腎臓の役割の一つです。
腎臓の機能が低下すると、老廃物である尿素窒素が排出されず、血中の尿素窒素の濃度(BUN)が上昇します。
血中の窒素濃度が上がることで、気持ち悪さや食欲不振、けだるさなどの中毒症状を引き起こすおそれがあります。
これは尿毒症とも呼ばれ、慢性的な腎不全の場合は徐々に血中尿素窒素の濃度が上昇し、治療しなければ死に至る危険性もあります。
また、同様に上昇する老廃物がクレアチニンです。本来であれば尿中に排出されるクレアチニンですが、腎機能の低下により血中のクレアチニンの濃度が上昇します。
治療法としては、尿中への排出を行う機能が低下した腎臓のサポートをするために、老廃物を吸着させて便として排出させる吸着剤を投与する方法が一般的です。
水分排出の過多による脱水
先述したとおり、体内に貯留する水分を一定に保ち、ナトリウムなどの電解質の濃度を一定になるように保つことが腎臓の役割です。
しかし、機能が低下すると、体にとって必要な水分まで排出してしまい、脱水状態に陥るおそれがあります。
その結果、電解質の不均衡が起こり、尿量の減少、電解質異常による神経症状などにもつながりかねません。重度になると死に至る危険性もあるため注意が必要です。
脱水症状を緩和するには、定期的に皮下点滴などを行って補正しなければなりません。必要な点滴の頻度は、脱水の程度によって異なります。
重度の場合、血管内にカテーテルを挿入したうえで、入院管理のもと24時間点滴を続ける場合もあります。
造血ホルモン分泌不足による貧血
腎臓から、骨髄が造血を促進するホルモンであるエリスロポエイチンが分泌されます。
腎臓の機能低下により、この造血ホルモンの分泌が低下し、貧血が起こります。
貧血の症状としては、粘膜の蒼白や元気、食欲の低下などが挙げられます。重度になると死に至る危険性があるため、早期に気づく必要があるでしょう。
貧血傾向が見られた場合、造血ホルモンの注射剤を投与する治療が行われることが一般的です。
どのような対策をすればよい?
腎臓機能の低下が起こることで、死に至る危険性もあることを解説しました。症状が進行するまで気づけなければ、治療の効果が充分に発揮されず、愛犬を看取ることにもなりかねません。
ここからは、早期発見・治療のために実施したい対策について解説します。
こまめな健康診断
腎臓の機能低下に気づくための有意義な検査として、血液検査や尿検査が挙げられます。
血中尿素窒素の濃度や、血中のクレアチニンの濃度、腎機能の低下とともに上昇する血中のリンの濃度の変化を定期的に観察することで、機能の低下を早期に発見することが可能です。
最近では、腎臓の状態を知ることができる特殊検査もあります。症状があらわれる前に特殊検査の数値の推移を読み取ることで、機能低下を早期に発見可能とされています。
症状が現れてから発見された場合、腎機能が大きく低下している可能性があります。腎臓の機能回復は不可逆であるため、一度ダメージを負ってしまった腎臓は元には戻れません。
健康な状態の腎臓を少しでも多く維持するためには、早期の発見が不可欠といえるでしょう。少なくとも年に1回、中高齢になってからは年に2回程度の健康診断を受けることをおすすめします。
尿量の変化や食欲不振の有無などの健康チェック
腎臓の機能が低下し始めて、症状が現れない段階で気づけることが理想的ですが、病院を受診する頻度が少なかったり、飼い主さんのご家庭の事情で健康診断をこまめに受けられなかったりする場合もあるでしょう。
そこで、尿量の変化や食欲不振の有無、飲水量の増加などを日常的にチェックすることが大切です。
腎臓の機能が低下すると、本来必要である水分まで体外に排出されるため、尿量が増加し、その結果飲水量も増加する傾向があります。
また、血中尿素窒素の濃度が上昇することで気持ち悪さや倦怠感などがあらわれ、吐き気や食欲不振、元気消失などが見られることが一般的です。
吐き気や元気消失にまで至ると症状がかなり進行している可能性がありますが、食欲不振は初期段階で気づきやすい変化といえるでしょう。
何をもって食欲不振と判断するかが難しいですが、まったく食べなくなることだけが食欲不振ではありません。以下のような変化も食欲不振の兆候です。
- おやつは食べるけれど普段のご飯は食べない
- ご飯を間食するまでの時間が今までよりもかかるようになった
- 食べ始めるまでの時間がかかるようになった
すでに腎臓の機能低下が始まっていることがわかっている場合も、進行しているかどうかを判断する指標として、これらの変化をチェックしておくと安心です。
ドッグフードの見直し
腎臓の機能が低下している場合の治療方法の一つとして、腎臓に負担をかけにくい療法食に変更することが挙げられます。
健康な犬の場合でも、年齢や体型、犬種などそれぞれに適した組成で細かくドッグフードがグループ分けをして市販されています。
適切なドッグフードを選択してあげることで、体の負担を軽減することが可能です。
腎臓への負担軽減におすすめのドッグフード
腎臓の機能低下が始まっている場合は、かかりつけの先生から処方された療法食を与えるのがベストですが、その前の段階で腎臓に負担をかけないような配慮をするのであれば、以下のようなドッグフードを選択してみてはいかがでしょうか。
療法食ではありませんが、腎臓に負担をかけにくいとされている低蛋白、低ナトリウム、低リンという特徴をもち、シニアの犬たちの認知症などを予防すべくDHAやEPAなどの不飽和脂肪酸も含まれています。
シニア期にさしかかった愛犬に、どのようなご飯を選べばよいか悩んでいる飼い主さんにおすすめのドッグフードです。
腎臓に負担をかけにくいとされる低たんぱく、低ナトリウム、低リンという特徴をもつだけではなく、腎臓同様に加齢とともに機能が低下しやすい心臓の健康にも配慮して、心臓の健康に配慮したタウリンという成分の配合がされていることが特徴です。
国産であるため、ドッグフードの品質にこだわりたい飼い主さんにもおすすめのドッグフードです。
療法食も製造しているメーカーであるヒルズの一般食で、7歳以上の子たちに向けたドッグフードです。
腎臓への負担に関与するとされるたんぱく質、ナトリウム、リンの割合を調節し、高齢になると負担がかかりやすい関節がより健康であるために必要なコンドロイチンやグルコサミンなどが含まれています。
中高齢になり、どのようなフードを与えたらよいかわからない飼い主さんや、関節への負担が心配な飼い主さんにおすすめのドッグフードです。
上記のように、療法食ではなくても腎臓の機能低下やほかの器官の低下に配慮が必要な年代の犬たちに向けたドッグフードが多く市販されています。
器官の機能低下が見られはじめる中高齢にさしかかるころに、ドッグフードの見直しをすることは負担の軽減のためにも大切です。
腎疾患になった場合のドッグフードの特徴
治療というと投薬や手術などをイメージしがちですが、疾患によっては日常的に口にするドッグフードの質を改めることも有意義な治療法です。
動物病院で治療の一環として処方されるドッグフードを療法食といい、腎疾患も療法食を取り入れることでより良い状態を維持できる可能性があります。
では、腎疾患になった場合のドッグフードは一般的なドッグフードと比較して何が異なるのでしょうか。
低たんぱく質
腎臓の機能が低下すると、血中尿素窒素が上昇しすぎることで中毒症状が現れるのを防ぐためや、腎臓の負担を軽減するため、血中尿素窒素の元となるたんぱく質を制限することが一般的です。
そのため、療法食は低たんぱく食であることが特徴です。
ただし、摂取するたんぱく量が減少するため、とくに高齢犬は筋肉量の低下が大きく見られる場合があります。
その場合は、かかりつけの先生と相談しながら、筋肉の合成をサポートするサプリメントを使用することも有意義です。体型の変化や行動の変化なども併せてチェックしてあげてください。
高脂質
本来、たんぱく質は熱量を確保するために重要な栄養素です。日々生活して、体内で代謝するために熱量の確保は欠かせません。
療法食は、たんぱく質を制限する代わりに、熱量や栄養素を補うために脂質の含有量が高い傾向があります。
一方で、髙脂質は消化器の機能低下が起こっている犬にとって、消化器に負担をかける原因となり、制限が必要な栄養素でもあります。
消化器の疾患も併せもつ場合は、どちらの治療を優先すべきか、かかりつけの先生に確認しましょう。
リンの制限
腎機能の低下によって、本来尿中に排出されるべきリンが排出されず、体内に蓄積されます。蓄積されたリンは、さらに腎臓にも負担をかけ、状態を悪化させる要因となります。
そのため、腎臓病の療法食ではリンも制限されていることが特徴です。
また、リンを吸着する薬も存在します。食事でのリンの制限とリンの吸着を併せて行うことで機能低下の進行を予防し、より健康な状態の腎臓の維持につながります。
【まとめ】腎臓機能の維持には日々の健康チェックが大切
愛犬に健康で長生きしてほしいという願いはどの飼い主さんももっているでしょう。
しかし、犬たちも私たちと同様に生き物であるため、加齢とともに身体の機能が低下することは避けられません。
腎疾患が進行すると命にもかかわるため、早期発見・早期治療が大切です。
機能の低下がどのタイミングで始まったのか、その負担を軽減してあげるためにどうしたらよいのかを、日常的な健康チェックを通して、サポートしてあげてください。
「愛犬に合うドッグフードがわからない・選べない」と思いませんか?
愛犬の情報を入力するだけで、合う可能性のあるフードを診断します。