執筆者:大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経 ...プロフィールをもっと見る
犬の爪はどんどん伸びていく構造のため、定期的に切る必要があります。
爪が伸びすぎてしまうと歩きづらいだけでなく、絨毯などにひっかけて根元が折れて出血する、皮膚や肉球に刺さるなどのトラブルが起こるおそれがあります。
つまり、「犬を飼う=定期的な爪切りは必須」ということです。
この記事では、
- 犬の爪について
- 基本的な爪切りのやり方
- 爪切りの頻度や出血した場合の対処
- うまく爪を切る工夫
- どうしても無理な場合は病院に行くべきか
など、飼い主様を悩ませる「愛犬の爪切り」についての情報をまとめました。
犬の爪について
犬の爪の数は前肢が左右5本ずつ、そして後肢が左右4本ずつの合計18本です。
前肢は、第一指(人間でいう親指の位置にあたる指)の爪以外は地面に接地しています。
また、第一指にある爪を「狼爪(ろうそう)」と呼びます。狼爪は地面に接地していないため、お散歩などで削れることはなく、他の四指の爪と比較すると非常に伸びやすい爪です。まれに後肢にも狼爪が1本または2本あり、とくにグレートピレニーズは後肢にも狼爪がある場合が多いです。
しかし、生活をする上でとくに問題がない場合は、狼爪の数が多くても爪が伸びすぎないように注意し、切除などの治療は行わないのが一般的です。
また、爪の色は犬によって異なり、白い爪だけでなく黒や茶色など濃い色の爪もあります。
白い爪は横から見ると、中心にピンク色の部分が見え、この部分に神経や血管を含む組織があります。
もちろん濃い色の爪にも、白い爪と同じ様に神経や血管を含む組織はあります。しかし、白い爪とは異なり横からはまったく見えないため、爪切りの際は注意が必要です。
なお、犬は爪のある末節骨だけを地面につけて歩くため、人間に例えると「つま先立ち」で歩いているという格好になります。
基本的な爪切りのやり方
犬の爪は鈎状に曲がっていて、中に神経と血管が通っているため、爪切りを行う部分は、鈎状の先端部分を切るイメージで行います。
爪切りのコツは、いっぺんに深くざっくり切るのではなく、先端を少し切り、切った断面の左右を面取りする要領で何回かに分けて切ると深爪が防げます。
爪の断面を見て、「上手にゆでたスパゲッティの芯」のような透明な部分が見えたら、それ以上切ると出血してしまうため気をつけましょう。
深く切りすぎて痛い思いをすると、お家での爪切りができなくなるばかりか、足を触られるのも苦手になってしまうことがあります。
また、爪を伸ばしすぎると中にある神経と血管も一緒に伸びてしまうため、爪切りの際に伸びた血管に当たって出血します。
あまりにも多くの出血をさせながらの爪切りは痛みを伴うため、ある程度の長さまでしか切れず、その結果全体的に長めの爪になってしまうことがあります。
長めの爪は、爪が伸びた時と同じ状態であり、引っかかりやすくなります。
このような長い爪の状態にならないようにするためにも、定期的な爪切りが必要です。
爪切りの頻度はどれくらい?
狼爪以外は地面に接地しているため、お散歩をする犬であれば、ある程度削れることが期待されますが、歩き方の癖などで均一に削れるとは限りません。
したがって、狼爪も含めて四肢全部の爪を定期的にチェックし、ケアする必要があります。
個体差はありますが、最低でも月に一度は爪をチェックして、必要に応じて爪切りを行いましょう。固い床に爪が当たるカチャカチャという音が気になったら、そろそろ爪切りが必要な時期です。
切りすぎて出血してしまったら!?
爪の血管からの出血は意外に止まりづらいので、驚かれる方も多いです。
愛犬の爪を切りすぎて出血してしまったら、まずは慌てず、コットンやガーゼなどで断面をしっかり圧迫して止血をしましょう。
参考までに、わたしの勤務先の動物病院で止血に使っているのは粉状の止血剤で、出血した爪の断面に塗って圧迫して使います。
心配な方は、このように「お家での爪切りのお助けアイテム」を用意しておくのもよいと思います。かかりつけの動物病院で相談してみてください。
爪を切るために必要な道具は?
爪切りを行う際に必要なものは以下の2つです。慣れてきたら、仕上げに爪やすりをかけるとより引っかかりづらくなります。
- 犬用の爪切り
- 止血剤
犬用の爪切り
人間用の爪切りではなく、犬の爪切り専用のものを用意しましょう。
おすすめは、ギロチンタイプとニッパータイプの2つです。
爪を先端の輪の中に入れて爪切りの持ち手を握り、刃をスライドさせて切るギロチンタイプは、軽い力でしっかり切れるため、素早く切れます。しかし、しっかりと切れる分、深爪しやすいため注意が必要です。
ニッパータイプは、はさみと同じような感覚で使えるため初心者には扱いやすい爪切りですが、切るときに力が要るのが難点です。
わたしの勤務先の動物病院でもこの2つのタイプの爪切りを使い分けています。
使用頻度が多いのはギロチンタイプですが、先端が伸びすぎてしまっている場合はニッパータイプを併用します。
また、大型犬など爪が固い犬種の爪切りはギロチンタイプが便利です。
ギロチンタイプもニッパータイプもそれぞれ色々なサイズがあるので、愛犬の爪のサイズに合わせた使いやすいタイプを選びましょう。
止血剤
粉状の止血剤で、出血した爪の断面に押し付けるようにして塗布します。
万が一の時に備えて用意しておくと安心です。
うまく爪を切る工夫は?
足先を触ることに慣れていない犬の場合は、爪切り以前にまずは足先を触ることに慣らす必要があります。足先を軽く握る練習もしてみましょう。
犬が触られることに慣れてきたら、最初は爪の先端をほんの少し切ることから始めてください。一度に全部の爪を切るのではなく、何日もかけて少しずつ行うなど、無理せず少しずつ慣らしていくことがポイントです。
また、テーブルの上など少し高いところに乗せると、犬が比較的大人しくなるため爪切りがやりやすくなります。ただし、落下しないように犬から目を離さないようにしましょう。
とくに、トイプードルやポメラニアンなどの活発な小型犬は、落下による前肢の骨折が非常に多いため要注意です。
保定の仕方や足の持ち上げ方にもちょっとしたコツがあります。
まず、犬を立たせてお尻を自分の方に向け、犬の身体を脇に抱える感じで保定します。
その体制のまま足の裏(肉球)を上に向けて軽く後ろに曲げるスタイルで行うと、爪の断面も確認しやすい上に犬も嫌がりません。
二人で爪切りをする場合は、保定係が犬の首の前に腕をまわして抱きかかえるように保定します。
爪切りをする係は、一人で切るときと同じように軽く後ろに曲げるスタイルで足を持ち上げて爪を切ります。
犬は骨格の構造上、前後の振り子状の動きは得意ですが、前肢を横に広げる動きは不得意です。無理に横に持ち上げると痛がるので、真後ろにそっと持ち上げるようにしましょう。
また、「前肢より後肢から始める」「触って嫌がる足は最後に爪切りをする」など、爪を切る足の順番を決めるのも、うまく爪切りを行うコツです。
上手くできたら「おやつなどのご褒美を与える」「たくさんほめてあげる」など色々試して、
愛犬が一番嫌がらずにお互いが無理なくできる方法を見つけてみましょう。
どうしても無理な場合は動物病院にいくべき?
「色々試してみましたが、どうしても家での爪切りは無理です!」という方は、かかりつけの動物病院に相談しましょう。
わたしの勤務先の動物病院でも、爪切りや肛門腺しぼりなどのお手入れをしに来院される飼い主様は多いです。
「足先を触ると暴れて咬もうとする」「自分で愛犬の爪を切るのがちょっと怖い」など理由はさまざまです。
このように、何らかの理由でご自宅での爪切りができない場合は、「動物病院は病気の治療や病気にならないように予防をしにいくところ」だと遠慮せずに、気軽に動物病院でのケアを受けることをおすすめします。
爪を伸ばしたまま放置すると、
- 歩きにくい
- 滑って関節を傷める
- 爪をひっかけて根元が折れる、爪が割れて出血する、最悪の場合は指骨骨折する
- 伸びた爪が皮膚や肉球に刺さって化膿する
など爪切りの苦痛よりも、もっと痛い思いをさせてしまう可能性があります。
また、お家で爪切りしようとすると暴れて無理でも、動物病院では大人しくケアをさせてくれる場合もあるでしょう。とくに嫌がる犬の場合は、ケアに慣れている動物病院のスタッフに切ってもらった方が、早く終わる上に安心です。
爪切りの費用は動物病院によって異なりますが、一回に500円~1500円くらいです。
また、動物病院で定期的に爪切りをすることによって、愛犬のちょっとした変化に気づけるようになります。
実際にあった例を挙げると、
- 先月までは嫌がらなかったのに今月は触るとすごく嫌がる
- →関節や腰に痛みがありそう?
- 先月より何となくお腹がポッコリしていませんか?
- →そう言われてみるとお水を飲む量が増えたかもしれない…
- 先月に比べると急に毛艶が悪くなっている様な気がします
- →そういえば最近食欲にちょっとムラがあって、寝ていることが多くなりました
など「定期的に爪を切りに動物病院にいく」ということが病気の早期発見につながるケースもありました。
もちろん、お家でうまくできれば一番よいですが、無理な場合はそのままにしないで動物病院やトリミングサロンなどプロにお任せしましょう。
爪切りは、頻度の差はあるものの、犬にとって生涯必要なケアのひとつです。
ご自身と愛犬がストレスをなるべく感じない無理のない方法を選んでくださいね。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
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