執筆者:葛野 莉奈
麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。獣医師 ...プロフィールをもっと見る
人間ではよく知られているアレルギー反応ですが、犬もアレルギーによってトラブルを起こすことをご存じでしょうか。
アナフィラキシーショックのような強いショック反応ではない限り、一度のアレルギー反応で命を落とす危険性はほとんどありません。しかし、アレルギーが原因で生じるかゆみや違和感、消化器トラブルなどは犬にとって負担となります。
本記事では、犬がアレルギーを起こす主な原因や症状、アレルギーが疑われるときの対処法、自宅でできる日々の対策について解説します。
愛犬がストレスなく健康で過ごせるよう、正しい知識を持ってアレルギー対策をおこないましょう。
犬のアレルギーとは?
アレルギーとは、体に備わっている免疫機能に異常が発生して起こる症状のことです。アレルゲンと呼ばれる原因物質に対して、犬の免疫反応が過剰に起こることで、炎症などのトラブルが生じます。
人間の場合、鼻炎などの呼吸器症状がよく見られますが、犬のアレルギー症状は皮膚炎や消化器症状などが多く見られます。また、急に重症化するケースや、徐々に程度が悪化するケースなど、症状の変化はさまざまです。
犬がアレルギーを起こしても、命にかかわる症状があらわれることはほとんどありません。しかし、アレルゲンに対する大きな反応が起こると、アナフィラキシーと呼ばれる一種のショック症状になる場合があります。
アナフィラキシーショックは、呼吸異常や心停止などの致命的な問題につながるおそれがあるため注意が必要です。
アレルギーの原因となる物質
アレルゲンとなり得る物質には個体差があります。
また、食物アレルギーや接触性アレルギー、カビやほこりを吸い込んだ場合に起こる吸引性アレルギーなど、アレルギーの種類もさまざまです。
以下の表に、種類ごとの主なアレルゲンをまとめました。
食物性アレルゲン | 肉類(鶏肉・豚肉・牛肉・ラム肉)、魚類、乳製品、卵、穀物(米・麦) |
接触性アレルゲン | 綿、野草 |
吸引性アレルゲン | ハウスダスト、花粉、カビ、ダニ |
そのほか、ノミなどが犬の皮膚に寄生して吸血することによってアレルギーが起こる場合もあります。
生活環境を見直して、アレルギーの原因となる物質をある程度絞り込むことは可能ですが、動物病院で検査を受けなければ特定は困難です。
アレルギー反応が起こりやすい時期
アレルギーはどんな犬にも起こりうるトラブルです。
普段から摂取しないものに強い反応を示すこともありますが、多くの場合、何度か摂取するうちに反応が強くなります。
そのため、アレルギー性皮膚炎などは、生後半年から2〜3歳くらいで初めて発症する子が多いとされています。
しかし、アレルギー体質であることを目で見て判断するのは困難です。普段から疑わしい変化がないかどうかを確認することが大切です。
また、食物アレルギーに注目しがちですが、ノミアレルギーや接触性のアレルギーも同様に注意しなければなりません。
皮膚に異常がないかを日常的に観察したり、外部寄生虫の予防対策をおこなったりするなど、生活習慣を見直してみてください。
犬のアレルギーで見られる症状
犬のアレルギー反応として見られるのは以下の症状です。
- 皮膚症状
- 消化器症状
- アナフィラキシーショック
アレルギーによって起こる具体的な症状を知っておかないと、万が一のときに見逃してしまう危険性があります。
早期に発見できるよう、起こりうる変化を把握して、愛犬の状態を日常的に観察しましょう。
皮膚症状
もっとも起こりやすいのがアレルギー性の皮膚炎です。
食物アレルギーや接触性のアレルギー、ノミなどの外部寄生虫によるアレルギーなど、さまざまな原因で皮膚トラブルにつながります。
食物アレルギーであれば、口周りや肛門付近でアレルゲンと接触したことにより、わきの下や足の付け根、首の内側などに強い赤みを伴う炎症やかゆみなどがあらわれます。
接触性アレルギーの場合には、皮膚の接触した部位に赤みを伴う炎症が生じます。また、ノミアレルギーであれば腰の部分、耳ダニであれば耳の近くで赤みを伴う炎症や脱毛などの皮膚症状が見られるでしょう。
強いかゆみがあると、犬にとって大きな負担となるほか、搔きすぎによる外傷や脱毛などの二次的なトラブルにつながるおそれもあるため注意しましょう。
消化器症状
アレルギーによって消化器症状を示す場合もあります。アレルゲンを摂取することで、消化器でアレルギー反応として炎症が起こり、下痢や嘔吐などにつながります。
アレルギー性の腸炎は、一般的な胃腸炎との判別が難しく、なかなか治らない胃腸炎だと思って見過ごしやすいため注意が必要です。
下痢や嘔吐が続いている場合や、投薬をしていてもなかなか治らない場合は、アレルギーが関係している可能性があります。
自己判断で療法食を与えるのではなく、疑わしい場合はかかりつけの先生に相談し、適切な検査を受けましょう。
アナフィラキシーショック
アナフィラキシーショックは、アレルギー性皮膚炎やアレルギー性腸炎と比較すると起こりにくいものの、死に直結する怖い症状です。
強いアレルギーが起こることで、心拍の異常や呼吸困難、低血圧、嘔吐などのショック症状を示します。犬ではワクチン接種時、はちや蛇などによる咬傷時のアナフィラキシーショックがよく知られているため、ご存じの飼い主さんも多いでしょう。
しかし、アナフィラキシーはアレルゲンとなりうる物質であればどんなものでも起こる危険性があります。異常に気づいたら、すぐに動物病院を受診しましょう。
アレルギーが疑われる場合の対処法
アレルギーは犬にとっての負担となるだけではなく、症状によっては命を危険にさらすトラブルです。
アレルギーが疑われる場合には、原因を特定して適切な対処をおこなう必要があります。異変に気づいたときの対処法をみていきましょう。
アレルギー検査
アレルギーかどうかをもっとも確実に見分ける方法がアレルギー検査です。動物病院で、採血により検査をおこなうことでアレルゲンを特定でき、適切な対策をおこなえるようになります。
ただし、検査会社によってアレルゲンの項目や精度などが異なります。項目を絞り込んでおこなう検査から、幅広い項目を調べられる検査まであり、費用もさまざまです。
そのため、愛犬にはどのタイプの検査が適しているのかを、かかりつけの先生と相談することが大切です。
アレルギー検査によってアレルゲンを特定し、それを排除しながら生活することで、症状を改善できる可能性が高いでしょう。
ごはんの見直し
食物アレルギーであれば、ごはんの見直しも有意義です。一般的なドッグフードには、たんぱく質や穀物、野菜などが含まれており、そのなかからアレルゲンを特定することは簡単ではありません。
しかし、アレルギー検査や療法食に移行する前に、アレルゲンとなりうる原材料が含まれていないドッグフードを試してみることで、症状が改善される可能性があります。
アレルギー対策におすすめのドッグフードを2つご紹介します。
肉食傾向が強い雑食の犬のごはんでは、たんぱく質が大きな割合を占めます。しかし、鶏肉や豚肉などと比較すると、魚に対してはアレルギー反応を示す子は少ないとされています。穀物のなかでは、小麦よりもポテトのほうがアレルギーを起こしにくいでしょう。
また、稀少たんぱくと呼ばれる、普段あまり口にしないたんぱく質を原料とするドッグフードを選ぶことで、アレルギーが起こりにくくなる可能性があります。
ただし、アレルゲンとして反応するものはたんぱく質だけではありません。稀少たんぱくが原料のフードに変更しても、ほかの成分に反応を示すこともあるため、改善が見られない場合はさらなる見直しを検討してください。
かかりつけの先生に相談したうえで、療法食に切り替えることも有効です。切り替え後は、食欲の変化や消化器症状の有無、体重の変化、排泄物の状態などをよく観察しましょう。
アレルギー対策として日々観察するべきこと
いつ起こるかわからない犬のアレルギーですが、少しでも愛犬の負担を軽減できるよう、早期発見することはとても大切です。
健康状態を毎日チェックすることは難しいかもしれませんが、スキンシップやお世話をする際に皮膚や体調などを観察する習慣をつけましょう。
皮膚の赤み
普段から皮膚の状態をよく観察しましょう。アレルギー性皮膚炎は、平たく広い面積で赤みが生じるのが特徴です。
食物アレルギーであれば、左右対称性の炎症変化、アレルゲンが接触した口や肛門付近の炎症、粘膜と皮膚の境界部などがあらわれます。
接触性のアレルギーであれば、アレルゲンが接触した部分が反応を示します。
また、愛犬のかゆがるサインを見逃さないことも大切です。
前足でまぶたや口周りをこすろうとしたり、体を何かにこすりつけたりする行動が見られれば、かゆみを感じている可能性があります。
消化器症状の有無
普段から排泄物の状態や、嘔吐の有無などを把握しておくと安心です。アレルギー性の腸炎を起こすと、アレルゲンを摂取し続けている限り、持続的な下痢や嘔吐が見られるといわれています。
下痢が改善しない場合は受診が必要ですが、いつもの排泄物の状態を獣医師に伝えることで、原因や解決策が見つかりやすくなるでしょう。
新しい食材などに変えたタイミング
新しい食材を与えたときや、普段接触しないものに触れたときには、記録しておくと診察がスムーズになります。
また、食材や触れたものだけではなく、お散歩コースの変化などもアレルギーと関係がある可能性があるため、小さなことでもメモしておくとよいでしょう。
犬のアレルギーは定期的な観察と早期発見が大切
犬がアレルギーを起こすと皮膚炎や消化器症状などにつながり、大きなストレスを与えてしまいます。また、アナフィラキシーショックなどの致命的な症状を招くリスクもゼロではありません。
アレルギーを引き起こす原因は多岐にわたりますが、早期に発見できれば重症化を防げます。普段から愛犬の体調や皮膚の状態をよく観察し、万が一異変を見つけたら早期に対処しましょう。
アレルギーの原因がわからない場合は自己判断で対処するのではなく、かかりつけの医師に相談してください。
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