執筆者:大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経 ...プロフィールをもっと見る
「人間よりも寿命が短いから、愛犬には好きなものをたくさん食べさせてあげたい」と考える飼い主さまは多いでしょう。
しかし、人間と同様に、犬の肥満や過体重は関節疾患や内分泌疾患、がんなどのリスクを高める原因となります。愛犬に健康で長生きしてもらうためには、ダイエットで体重を管理して肥満を防ぐことが重要です。
この記事では、犬のダイエットのやり方や注意点、ダイエットにおすすめのドッグフードなどを紹介します。
なぜ犬にダイエットが必要なの?
子犬の時期を過ぎて成犬になると、エネルギー要求量(成長・運動・身体活動などを含め、生きていくうえで必要なエネルギーの量)は大幅に減ります。
そのため、愛犬を太らせないように体重管理を徹底することが重要です。
また、不妊手術を受けた犬はとくに太りやすくなるため注意しましょう。ペットとして飼育されている約半数以上の犬が「太りすぎ」というデータがあるほか、わたしの経験上でもダイエットが必要だと診断したケースが圧倒的に多い印象があります。
犬の肥満の実態
「肥満は身体に悪い影響を及ぼす」と、ほとんどの飼い主さまは理解していると思います。では、なぜ肥満や過体重の犬が半数以上を占めるのでしょうか。
米国のペット肥満予防協会が2013年に実施したアンケート調査では、「獣医師に肥満や過体重と診断された犬や猫の飼い主のうち、約90%がご自身のペットの体重を正常だと感じていた」という報告がありました。
肥満が健康に良くないことを認識していながら、多くの飼い主さまが愛犬の適正体重を把握しておらず、肥満に気づいていない状況にあるようです。
また、飼い主さま自身が余分なものを与えないように気をつけていても家族がこっそり食事のおすそわけをしていたケースや、お散歩時におやつをくれる方がいてどうしても断れず、気づいたら体重が増えていたケースもあります。
愛犬の健康を守るためには、まず現状を把握する必要があります。さらに、家族全員で情報を共有し、「太りすぎは病気につながるため、余分なものはあげない」という認識を一致させることも重要です。
肥満によってリスクが高くなる病気
犬が肥満や過体重になると、以下の病気を引き起こすリスクが高まります。
- がん
- 呼吸器疾患
- 関節炎などの整形学的疾患
- 膵炎
これらの病気は、完治できず寿命に影響するものや、長期間の治療が必要となるものが多く、愛犬の生活の質を下げるだけではなく飼い主さまも大変な思いをしてしまいます。愛犬とご自身がいつまでも健康で快適に過ごせるよう、愛犬の体重管理を怠らないようにしましょう。
肥満・過体重の原因
肥満や過体重は、エネルギー摂取量が消費量を上回ることからスタートします。余分なエネルギーが脂肪として体内に過剰に蓄積され、理想体重を10%上回った状態が過体重、20%を超えた状態が肥満です。
犬は本来「動きたい」という衝動が強い動物ですが、肥満や過体重になると動くことが辛くなるため、動きが制限されストレスをためやすくなります。
さらに、体重が重くなることで関節や腰に負担がかかり、動くのが億劫になってさらに太る、という負のサイクルが加速してしまいます。
あなたの愛犬は適正体重?
愛犬のダイエットを始める前には、かかりつけの獣医師に相談して現在の状況を正確に知ることが重要です。肥満だと思っていても、実は重大な病気が隠れている可能性があるため、自己判断でダイエットを始めることはおすすめできません。
わたしの経験でも、「お腹周りが膨れていてなんだか太ったみたい」と来院された方の愛犬が実は肥満ではなく内分泌疾患だったケースや、愛犬の肥満を気にしすぎて極端な食事制限により体調が悪化したケースがあります。
自宅でできる適正体重のチェック方法
前述のとおり、ダイエットをする前には獣医師に相談することが大切ですが、ご自宅でも愛犬が適正体重であるかどうかの確認は可能です。体重を測定する際は、愛犬を抱いて体重計に乗り、出た値からご自身の体重を引く方法で行いましょう。
また、愛犬の現状をある程度把握する方法として、ボディコンディションスコア(BCS)という指標があります。触った感覚と見た目から、肋骨や腹部などの脂肪の蓄積状態を9または5段階で評価する方法です。
BCSでは、肋骨が簡単に触れて、腹部のへこみと上からみたときに適度な腰のくびれがある状態が理想とされています。現在の体重とBCSから愛犬の適正体重を求めるには、獣医師に相談してください。
犬のダイエットのやり方
愛犬の現状を把握し、太りすぎであるという診断を獣医師から受けたら、無理のない範囲で食事療法や運動によるダイエットを行っていきましょう。犬のダイエットの具体的な方法をご紹介します。
食事療法について
ダイエットのための食事療法は、以下2つの方法しかありません。
- 食事量を減らす
- カロリーや脂肪分の低い食事にする
それぞれの方法について詳しく解説します。
食事量を減らす
まずは、いま与えているドッグフードやおやつの量がどれくらいかを把握する必要があります。全体量がわかったら、おやつを減らすことからはじめましょう。
たとえば、歯磨きガムを一日2本与えているのであれば、一日1本に減らすだけでも摂取カロリーをかなり減らせます。
また、ドッグフードやおやつは正確に計量して与えることが大切です。犬種の違いはありますが、体重が人間の1/10程度しかない犬にとって、ドッグフードのほんの10粒でも摂取カロリーに大きな影響を与えます。
食事量の管理は、一日量のフードやおやつを量って取り置きし、その中から与える方法がおすすめです。
カロリーや脂肪分の低い食事にする
現在与えている食事やおやつにどれくらいのカロリーと脂肪分があるかを確認し、よりカロリーや脂肪分が低いものを選ぶ方法もあります。フードやおやつの量が極端に減らないため、飼い主さまの心理的負担が少なくダイエットを継続しやすい点がメリットです。
どのドッグフードを選べばよいかわからない場合は、獣医師の指導のもとでダイエットのための療法食を使うのがおすすめです。
ただし、食事内容を改善しても、与えすぎれば肥満の原因となるため、食事量を減らす方法と同様、一日に与える量を正確に量ってから与えましょう。
運動について
ダイエットの主な手段は食事療法ですが、運動もダイエットの一助になります。ただし、体重が重い犬にハードな運動は無理があるため、愛犬が好きなことや得意なことを中心に運動させるように工夫しましょう。
たとえば、食欲旺盛で遊び好きな子であれば、知育玩具にドッグフードを隠して部屋のさまざまな場所において探させる方法がおすすめです。お散歩好きな子であれば、短いお散歩回数を1回増やすだけでも十分効果があります。
ただし、健康状態に問題があると大きな負担がかかるため、食事療法と同様に、運動についてもかかりつけの獣医師に相談すると安心です。
カロリー計算のやり方
カロリー計算の方法は多数ありますが、ここでは米国でもっとも普及している安静時エネルギー要求量(RER: Resting Energy Requirement)に基づいた計算方法をご紹介します。体格や代謝の個体差などには十分に対応できないため、あくまで目安として利用してください。
<一日あたりエネルギー要求量(DER)の計算方法>
安静時エネルギー要求量(RER)を計算し、以下の表を用いて計算します。
●安静時エネルギー要求量(RER)の計算式
70×(体重kg)^0.75
●安静時エネルギー要求量(RER)、ライフステージと係数を用いた一日当たりエネルギー要求量推定式
子犬(0~4か月) | 3.0×RER |
4か月齢~成犬 | 2.0×RER |
成犬 | 1.8×RER |
成犬(不妊・去勢済み) | 1.6×RER |
肥満のリスクがある成犬 | 1.2~1.4×RER |
減量用 | 1.0~1.2×RER(理想体重のRER) |
体重増加用 | 1.2~1.8×RER(理想体重のRER) |
<計算例>
【3kgの生後4か月で不妊手術をしていない犬の場合】
●安静時エネルギー要求量(RER)を求める
(電卓を使う場合の計算方法)
70×(体重kg)^0.750.75
→ ① 3×3×3(3回掛け算)
② ①の数字に√を2回押す
③ その数字に70を掛ける
3×3×3=27に√を2回2.2795・・・に×70=160Kcal(小数点以下四捨五入)
●一日あたりエネルギー要求量(DER)を求める
ライフステージの表を確認すると係数が2.0×RERであるため、一日に必要なカロリーの目安は
2.0×160Kcal=320Kcal
となります。
給餌量の計算方法
一日に必要なカロリーがわかったら、実際に与えるドッグフードの給餌量を計算していきましょう。
ドッグフードのパッケージには、100gあたりのカロリーが記載されています。成長期のフードは100gあたり400kcal~450Kcal、成犬用は100gあたり350Kcal前後、減量用のフードは100gあたり300Kcal切るくらいが目安です。
上記で計算した一日に必要なカロリーに100を掛けて、その数字を与えているドッグフードの100gあたりのカロリーで割ると、一日に必要な給餌量がわかります。
<計算例>
【エネルギー必要量が320kcalの犬に、100gあたり350kcalのドッグフードを与える場合】
320×100÷350=91g(小数点以下四捨五入)
上記の計算式で算出した餌食量は、一日あたりのドッグフードの量です。そのため、この量を一日2回、成長期の子犬の場合は3回に分けて与えます。
活動量や体格によっても適切なドッグフードの量は異なるため、愛犬の体調を確認しながら調整してみてください。
より簡単にフードの量を知りたい方は、ドッグフードのパッケージに書いてある給餌量を参考にするとよいでしょう。ただし、「愛犬の体重が5kgでダイエットが必要なのに、5kgの犬の給餌量を与える」という間違いには注意してください。そのままではまったく体重は減りません。
上記の例であれば、4kgの犬の給餌量を参考に、少し調整した量を与える方法が適しています。現在の体重に合わせて、少しずつ調整しながら与えましょう。
ダイエットする期間はどれくらい?
ダイエットする期間は犬の肥満や過体重の程度によりますが、半年以上かけてゆっくりと減らすことをおすすめします。
1か月間で減らす体重の理想値は、現体重の1~5%前後です。たとえば、8kgの犬であれば1か月間に80g~400gと、人間の感覚からするとびっくりするほど少ない体重です。
しかし、わたしたちが普段食べているお肉の量に例えると、400gのお肉はかなりの量といえます。毎月その量と同じくらい体重が減っていくと想像してみてください。ほんの少しずつの体重の変化でも、腰や足にかかる負担が軽減されることは間違いありません。
まとめ
犬のダイエットは、食事療法をメインに運動療法を併用して行います。まずは愛犬にダイエットが必要かどうかも含めて、動物病院を受診しサポートを受けることが大切です。愛犬がいつまでも健康で快適に過ごせるよう、身体の状態に合ったダイエット方法で体重管理を行っていきましょう。
ダイエットにおすすめのドッグフード
ダイエットにおすすめのドッグフードをご紹介します。愛犬の好みや身体に合ったフードをうまく取り入れて、無理なくダイエットを続けていきましょう。
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