病気・ケア

もしかして骨折している?犬の骨折の見分け方や対処法

執筆者:大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経 ...プロフィールをもっと見る

日本では小型犬の飼育頭数が非常に多く、そのなかでも大人気犬種のトイプードルは前肢の骨折が多いというデータがあります。
わたしの勤務先でも、トイプードルの前肢の骨折の症例は非常に多い印象です。
これは極端なケースですが、1年の間に前肢を片方ずつ骨折したトイプードルもいました。

この記事では、犬の骨折の症状をはじめ、その場でできる対処法や骨折の見分け方、動物病院での治療法、そして愛犬を骨折させないための工夫についてまとめました。

骨折が疑われる症状は?

骨に強い力が加わり「折れる」「ヒビが入るなど」、骨が変形または破壊されることを骨折といいます。

骨の強度以上に力が加われば、どの部位でも骨折してしまいます。

骨折の可能性がある症状は、

・痛がって鳴く
・患部が腫れあがる
・歩き方がおかしい、または歩けない
・足をつかない
・患部を気にして舐める
・排便や排尿ができない
・患部の皮膚の色が赤黒く変色する

などです。

骨折はなるべく早く適切な治療を行う必要があります。
おかしいと思ったら、すぐに動物病院を受診しましょう。

骨折をそのままにしておくとどうなる?

人と同じように、犬にも自然治癒力があります。
時間の経過とともに、折れた骨を治そうとして再生し、くっつこうとします。

ただし問題は、元どおりの場所に骨がつかないことです。
骨折が起こった際の強い力が加わった瞬間に、骨が大きくずれてしまったり、衝撃で曲がってしまったりした場合、不自然な状態のまま治癒してしまい、本来の動きができずに跛行(足を引きずること)や運動障害などの後遺症が残るケースがあります。

また、骨盤骨折の場合は単なる骨折だけではなく、腹部を強く打ったことが原因で内臓の障害がみられる場合や、排便・排尿ができない場合もあり、命にかかわる危険性もあります。
骨折は放置せず、早急に動物病院を受診しましょう。

飼い主さまがその場でできる対処法

骨折した直後は、痛みで犬がパニックになる可能性があります。
無理やり触ろうとすると暴れて状態が悪化してしまうため、まずは落ち着かせることが大切です。

腫れた場所に触れると痛がって噛む場合もあるので、冷やす処置は行わずに安静にさせることを最優先してください。
そして、なるべく動かさないようにキャリーケースに入れて動物病院に連れていきましょう。

中型犬や大型犬でキャリーケースに入れることが難しい場合は、大きめの毛布に犬を載せて、担架のようにして運びます。運ぶ際には、犬が暴れて落下しないように十分注意しましょう。

骨折の見分け方は?

骨折の程度はさまざまです。レントゲン検査をして初めてわかる場合もあれば、患部が腫れあがり手や足が変な方向に曲がっていて見た目ですぐにわかる場合もあります。

・腫れがひどい
・歩けない
・痛みが強い
・ぐったりして元気がない

など、腫れや痛みが強い、全身状態が悪化傾向などの症状がある場合は、骨折の可能性が高いです。

ただし、見た目だけでは正確な判断はできません。動物病院でレントゲン検査を行い、骨折の有無を確認する必要があります。

骨折しやすい場所は?

統計によると、犬の骨折の部位では前肢の骨折が半分以上を占めており、とくに多いのは肘から手首までを形成する「橈骨(とうこつ)」と「尺骨」という前腕部の骨折です。

トイプードルをはじめ、ポメラニアン・イタリアングレーハウンドなど骨が細い割に活発な犬種にこの前腕部の骨折が多くみられます。

骨折の治療方法

骨折は、触診や視診だけでは正確な診断はできません。
レントゲン検査を行い、骨折の有無、骨折の状況を確認することが基本です。
場合によってはCT検査が必要になることもあります。

骨折が確認された場合、全身麻酔下の処置や手術を行う必要があるため、術前に血液検査を行います。

手術の方法は、部位や骨折の状況によって異なりますが、「プレート固定」「ピンを入れてギブスをする」「創外固定」などがあります。
小型犬に多い前腕骨の骨折は、プレートによる固定が一般的です。

手術後はどれくらい入院が必要?

術後は安静にすることが大切です。
人間と違って犬は痛みがなくなれば直ぐに動き回ろうとするため、狭い場所に入れて動きを制限し、安静にさせる必要があります。これを「ケージレスト」と言います。

通常は手術後1週間〜2週間くらい入院が必要です。
しかし、動物病院の犬舎の中では犬が大暴れして安静にできないという困ったケースもあります。
わたしの勤務先でも、術後2日で退院してご自宅でケージレストをお願いしたことがあります。

退院後は、定期的にレントゲン検査をしながら骨折部位を確認します。
完治するまでの時間は、個体差があり、骨折の場所や程度によっても異なりますが、骨折の程度が軽くても2〜3ヶ月以上はかかるケースが多いです。

骨折の治療費の目安は?

動物病院の治療費は法律の規定により一律ではなく、各動物病院で金額を設定しています。
そのため、同じ手術を行っても病院によって金額は異なります。以下は、各検査と手術の費用相場です。

診療・治療内容治療費
血液検査1万5,000円前後
レントゲン検査一枚5,000円~6,000円
CT撮影3万円~8万円
ギブス固定1万円~5万円
手術20万円~

手術の費用は術式によって違いますが、最低でも20万円以上はかかるのが一般的です。

さらに、1週間〜2週間程度の入院が必要なため、検査と手術・入院費を全部含めると、非常に高額な治療費となります。

小型犬で、とくに前腕部の骨折の場合は、骨が非常に細く血流が少ないため、癒合不全を起こして再手術が必要になることもあります。

気を付けよう! よくある骨折の原因

骨折は、骨に強い力が加わることで起こります。
よくある骨折の原因は、以下のとおりです。

<室内で発生>
・ソファーなど高いところから飛び降りた
・抱っこしていたら暴れて床に落下した
・ケージのドアに手や足を挟んだ
・足元にいるのに気づかず、踏んでしまった
・こたつや布団に犬が寝ているのに気づかず、上から踏んでしまった

<屋外で発生>
・犬が車から飛び降りて着地した瞬間に骨折した
・庭に放していて車で踏んでしまった
・お散歩中などにリードが外れて道路に飛び出した

このように、骨折は思いがけないことで発生します。
活発で元気、かつ折れやすい細い骨という犬側の要因もありますが、人間側で対策することで骨折を防げる可能性もあります。

愛犬に痛い思いをさせないように、飼い主さまご自身が気をつけて骨折を防ぎましょう。

また、強い力が加わって発生する骨折以外に、骨肉腫などの腫瘍や栄養障害などが原因で骨がもろくなり骨折する病的骨折があります。

「シニア期の大型犬が突然骨折する」場合は、骨の腫瘍が非常に疑わしいです。
とくに骨肉腫は、骨の腫瘍の9割を占める悪性腫瘍で転移しやすく、進行が早い病気です。
診断時には90%の症例で肺や骨への転移がみられると言われています。

四肢の骨で発生しやすいのが特徴で、大型犬、とくにシニア期の大型犬に跛行が見られたら、なるべく早く動物病院で検査を受けることをおすすめします。

愛犬を骨折させないための工夫

大切な愛犬を骨折させないためにできる、自宅での対策法をご紹介します。

フローリングには滑り止めをする

フローリングは非常に滑りやすいため、普段愛犬がいる場所にはじゅうたんやマットを敷いて滑らないように工夫しましょう。
滑らないように対策することは、骨折を防ぐだけでなく、愛犬の膝や腰の負担を軽減する効果もあります。

サークルの中でおとなしく過ごせるようにしつける

料理中や掃除中など、愛犬に注意を払うことができないときやお留守番の際は、サークル内でおとなしく過ごせるようにしつけをしましょう。
愛犬が足元をウロウロするのを防げるうえに、床に落ちた食材の誤飲や、留守番時のいたずらによる誤食を防ぐ効果もあります。

また、「狭い場所でおとなしく過ごせる」というしつけができていれば、万が一入院治療が必要になったときにも役に立ちます。

ソファーや椅子にあがらないようにしつけをする

ソファーや椅子からの飛び降りは、骨折のなかでも非常に多い原因のひとつです。
普段からソファーやベッドに登らせないようにしつけをしましょう。

高い位置で犬を抱いたまま歩き回らない

抱っこしていて落下し、着地と同時に骨折するのもよくあるパターンです。
とくに抱っこして外を歩く際は、何かあったときに愛犬が驚いてパニックにならないよう、スリングなどに入れて飛び降りない対策をしましょう。

外で犬を放さない

お散歩中にリードを放してしまい、道に飛び出してケガをするなど、屋外で犬を放すことは大きな事故につながります。帰宅時に車庫入れをしていたら、死角にいた愛犬に気づかずに車で轢いて骨折させてしまったケースも実際にあります。

お庭に放す場合も、愛犬から目を離さないようにしましょう。
また、停車中の車からの飛び出しを防ぐためにも、移動時はキャリーケースを使用するのがおすすめです。

栄養のバランスが取れた食事を与える

「骨を強くするには、カルシウムが必要!」と考えてカルシウムを過剰に与えてしまうと、大型犬では骨軟骨症(離断性骨軟骨炎)の発症リスクが高まります。
犬の食事は、子犬の時期・成長期・シニア期とそれぞれのライフステージや活動量に合わせて必要な栄養が摂れるように、総合栄養食のドッグフードを活用することをおすすめします。

また、手作り食もよいですが、栄養のバランスを整えるのがとても大変なので、主食として与える場合は動物栄養学を学んでから実践しましょう。

まとめ

骨折は見た目だけでは判断が難しいうえに、放置すると癒合不全や後遺症が残る危険性があります。
おかしいと思ったらそのままにせずに、なるべく早く動物病院を受診してください。
また、人間側の対策で骨折を防げる可能性もあります。愛犬がケガや骨折をしないように、生活環境を整えてあげましょう。

ABOUT ME
大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら 専門知識や経験を活かして各種メディアや個人サイトでライターとして情報を発信している。
ライフワークは「ペットと飼い主様がより元気で幸せに過ごすお手伝いをする」こと。
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