執筆者:平松 育子
獣医師・ペットライター山口大学農学部獣医学科卒業山口県内の複数の動物 ...プロフィールをもっと見る
愛犬のために手作りごはんを作ってあげたいけれど「栄養バランスは大丈夫か」「どれぐらいあげればよいのか」など、不安なことも多いのではないでしょうか。
この記事では、手作りごはんをあげるメリット・デメリットや、作るときの注意点について解説します。併用におすすめのフードも紹介しますので、手作りフードをトッピングする際にお役立てください。
手作りごはんのメリット
「ドッグフードを食べてくれない」「愛犬に合うフードが見つからない」などの理由で、手作りごはんへの変更を考える方が多いのではないでしょうか。
手作りごはんの代表的なメリットは以下のとおりです。
- 喜んで食べてくれる
- アレルギー対策ができる
- 何を食べているのかがはっきりする
- 水分を補給できる
それぞれ詳しくみていきましょう。
喜んで食べてくれる
食事の支度中に台所からいい匂いがすると、わんちゃんたちが期待にあふれたキラキラの目で覗きに来たという経験はないでしょうか。
私たちが食事をしている最中にねだられて、ついあげてしまったという話もよく聞きます。
食欲がないときにトッピングとしてササミをのせるとよく食べてくれるなど、手作りごはんはわんちゃんにとって非常に魅力的です。
ドライフードは高温高圧で加工するため、食材そのものの香りや風味が損なわれてしまいます。
手作りごはんの場合は食材の持つおいしさを残したまま調理できるため、わんちゃんの食欲をそそる点がメリットといえるでしょう。
アレルギー対策ができる
皮膚のかゆみや、嘔吐・下痢などが何日も続いたり、繰り返したりしている場合、アレルギーの可能性があります。アレルギー症状を起こしたら、原因となるアレルゲンを見つけてあげることが大切です。
食物アレルギーがある場合、やはり大変なのがドッグフードやおやつの選択です。アレルゲンが含まれていない理想的なフードを見つけることは簡単ではありません。
手作りごはんにすることで、アレルゲンとなる食材を避けることが可能です。
何を食べているのかがはっきりする
ドッグフードのパッケージを見たとき、よくわからない原材料が記載されていて不安になったことはありませんか。また、さまざまな添加物が使用されていると、ずっと食べさせて大丈夫なのかと思う方も多いでしょう。
わんちゃんのごはんを手作りすれば、何の食材を使っているかが明確になります。手間はかかりますが、安心して与えられる点は大きなメリットです。
水分を補給できる
手作りのごはんはドライフードと比較すると水分量が非常に多く、おおよそ70%の水分が含まれています。
ドライフードの水分量は10%以下のため、とくに夏場は、積極的に水分をとらなければ水分不足により脱水症状を起こす危険性があります。
おいしく手作りごはんを食べながら自然と水分補給ができるため、水を飲む量が少ないわんちゃんにはとくにおすすめです。
手作りごはんのデメリット
多くのメリットがある手作りごはんですが、以下のようなデメリットもあります。
- 栄養バランスをとりにくい
- カロリー計算が難しい
- 保存が難しい
- ドッグフードを食べなくなる
デメリットもよく理解したうえで、ご自身やわんちゃんに手作りごはんが合っているかどうかを検討してください。
栄養バランスをとりにくい
おいしそうに見える食事でも、栄養バランスがとれていなければ体調に異変をきたします。
短期間であれば大きな問題にならない可能性もありますが、食事は毎日とるものであり、栄養バランスが偏った状態が長期にわたるのは危険です。
たとえば、亜鉛が足りないと毛のつやがなくなる、肉球がカチカチになる、味覚や嗅覚の障害などが起こります。
栄養バランスが整った食事を毎食作るのはハードルが高いかもしれません。
カロリー計算が難しい
インターネット上には、犬の必要カロリーや食事量を自動で計算してくれるサイトがあります。これは、総合栄養食であるドッグフードに記載されている100gあたりのカロリーをもとに計算します。
一方、手作りごはんの場合、使用する食材の量などからカロリー計算を行わなければいけません。
いちから栄養バランスを考え、1日に必要なカロリーを満たすように計算するのは、専門的な知識が必要となるでしょう。
保存が難しい
手作りごはんには保存料などの添加物を使用しない分、完成した時点からどんどん劣化が進んでしまいます。
出来立ての味や香り、品質を維持するのは難しく、ヒトよりも鼻が利くわんちゃんはより敏感に違いを感じ取ります。保存ができても、作った日を含めて2日ほどでしょう。
長期保存がきくドッグフードと比較すると、手作りごはんは保存が難しく日持ちしないことがデメリットです。
ドッグフードを食べなくなる
手作りごはんをあげるときは、旬の食材を選んだり、わんちゃんの体調に合わせてメニューを変えたりします。
一方、市販のドッグフードの場合は、毎日同じもので味の変化がありません。
そのため、手作りごはんを食べていると、ドッグフードを味気なく感じて食べなくなってしまうおそれがあるでしょう。
手作りごはんを作るときの注意点
愛犬への愛情が注がれた手作りごはん。喜んで食べる姿を見ると、できるだけ作ってあげたくなります。
では、手作りごはんをつくるときには、何に気をつければよいのでしょうか。手作りごはんの注意点について「食べてはいけないもの」「保存方法」「味付け」の3つの観点で詳しく解説します。
犬が食べてはいけない食材の確認
私たちが食べても問題ない食材でも、犬が食べてはいけないものがあります。食べる量によっては命にかかわるものもあるため、事前に確認しておきましょう。
骨が付いた肉
「カルシウム補給」のために、骨が付いた肉を与える飼い主さんがいます。また「火を通した骨は危険だが生であればよい」という説もあります。
骨付き肉はかみ砕いたときに縦に割れやすく、断面がギザギザした状態となります。飲み込んでしまうと消化管に穴が開いたり、消化管のどこかに引っかかり閉塞を起こしたりする危険性があるため与えないようにしてください。
また、生の状態の骨であっても、柔らかい消化管に刺さってしまうおそれがあります。
火が通り切っていないもの
ヒトと同様、生ものには火をよく通してから与えることが大切です。「生肉は栄養があるから」とあげる方を見かけますが、食中毒の原因となるおそれがあります。生肉、生卵、生魚は与えないようにしてください。
保存している間に細菌が増えてしまわないよう、中心部までしっかりと火を通しましょう。
ネギ科の野菜
ネギ科の野菜はわんちゃんにあげてはいけません。玉ねぎ、ネギ、ニラ、ニンニクなどがネギ科の代表的な野菜です。
ネギ類にはアリルプロピルジスルフィドという成分が含まれており、食べると赤血球を破壊して貧血を引き起こします。24時間以内、もしくは数日経過してから、食欲不振、下痢や嘔吐などの消化器症状と、貧血、血尿、黄疸などの中毒症状があらわれます。
加熱しても有害成分は分解されないため、絶対に与えないようにしましょう。
ほうれん草
ほうれん草には鉄分やビタミン類、β-カロテンなどの栄養素が豊富に含まれており、わんちゃんに与えてもよい野菜ですが、調理方法を工夫しなければなりません。
ほうれん草に含まれているシュウ酸は、尿路結石を引き起こす可能性があります。
シュウ酸はゆでるとゆで汁のほうに溶け出すため、ほうれん草は生ではなく必ずゆでてから使用してください。
「電子レンジで調理すれば手間が省ける」と思うかもしれませんが、シュウ酸が残ってしまうためおすすめできません。
えのき
えのきには、食物繊維・カリウム・リン・ビタミンB1・ナイアシン・β-グルカンなどが含まれており栄養豊富です。β-グルカンには、免疫細胞を活性化する働きがあります。
しかし、生のえのきには赤血球を壊す「フラムトキシン」というタンパク質が含まれているため、必ず加熱してから与えてください。
加熱することで、フラムトキシンは働きを失います。
アボカド
アボカドは森のバターと呼ばれる栄養豊富な野菜で、ギネスブックに記録されるほどのスーパーフードです。
しかし、アボカドはペルシンという成分を含んでいるため、わんちゃんに与えるのは避けてください。ペルシンは人にとっては無害ですが、犬やほかの動物には有害だといわれています。
ペルシンによる中毒症状には嘔吐・下痢・呼吸困難・けいれんなどがあり、食べてから3日ほどで起こることが多いです。
ブドウ
ブドウがわんちゃんに中毒を引き起こし、命にかかわることがわかったのは最近です。ブドウに含まれる何が原因になるのかはまだ明らかになっていません。
ブドウを食べたのちに起こる中毒症状は急性腎不全で、数日で亡くなってしまうこともあります。
生のブドウだけではなく、レーズンも絶対にあげないようにしてください。
乳製品
牛乳には乳糖(ラクトース)が多く含まれています。
犬は乳糖を分解する酵素「ラクターゼ」が少ないという特徴があります。乳糖が分解できないと、消化不良で下痢や嘔吐を引き起こすおそれがあるため注意が必要です。
また、ヨーグルトやチーズなどの加工品は、加工過程で乳糖が分解されていることがほとんどですが、お腹が弱い子は控えたほうがよいでしょう。
保存方法
毎食手作りできれば一番新鮮な状態でわんちゃんに食べてもらえますが、時間的に難しい日もあるでしょう。そこで、多めに作って冷凍保存しておくのがおすすめです。手作りごはんの保存方法を紹介します。
できあがった手作りごはんを小分け保存する
手作りごはんを多めに作り、一食分ずつ小分けにして保存する方法があります。
ラップで一食分ずつ包んでもよいですが、製氷皿に分ける方法もおすすめです。冷凍すると霜がつくため、製氷皿は蓋ができるものを選んでください。
また、チャック付きの袋に手作りごはんを入れ、できるだけ空気を抜いて袋の上からお箸などで1食分ずつになるように割れ目を入れる方法もよいでしょう。使用するときに、割れ目部分で折るようにして分けます。
食材ごとに冷凍しておく
下ごしらえをしておき、食事の直前に最終調理したい場合は、食材ごとに冷凍しておく方法がおすすめです。
アレンジがきくほか、その日の体調に合わせて調理できます。
味付け
わんちゃんの手作りごはんは基本的に味付けせず、素材の味を生かしましょう。
わんちゃんは甘みや旨味に対する感受性が高い一方、塩味に対しての感受性は低いといわれています。酸味や苦みについては非常に敏感です。
味覚が違うため、ヒトの食事と同じ感覚では味付けしないほうがよいでしょう。
手作りごはんとあわせるおすすめフード
手作りごはんの栄養面が気になる場合や、毎日作ることが難しい場合は、市販のドッグフードと併用する方法もあります。トッピングとして手作りごはんを取り入れれば、わんちゃんが喜んで食べてくれるでしょう。
愛犬のために作った手作りごはんは、できるだけ良質のフードとあわせたいものです。ここでは、手作りごはんとあわせるのにおすすめのフードを紹介します。
【まとめ】自分のペースで無理なく手作りごはんを取り入れよう
愛犬に手作りごはんを作るメリット・デメリットと、作るときに気をつけたいポイントを紹介しました。
手作りごはんには多くのメリットがある一方、栄養バランスを取りづらい、手間がかかるなどのデメリットもあります。
いきなりすべての食事を手作りにするのはハードルが高いため、まずはトッピング用の手作りごはんから始めてみるとよいでしょう。
慣れてくると徐々に手際よく作れるようになるはずです。使ってはいけない食材や保存方法も事前にしっかりと確認し、手作りごはんに挑戦してみてください。
「愛犬に合うドッグフードがわからない・選べない」と思いませんか?
愛犬の情報を入力するだけで、合う可能性のあるフードを診断します。
ブドウがわんちゃんに中毒を起こすことが知られていなかった時代には、おやつにブドウを食べるわんちゃんがたくさんいました。
実際に私が担当していた患者さんにもブドウ好きの子が多くいましたが、幸いどの子も中毒を起こさず元気でした。その後、ブドウ中毒が大きな話題となりヒヤッとしたことを覚えています。