執筆者:大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経 ...プロフィールをもっと見る
「犬用も猫用も同じドライフードだから、猫にドッグフードを与えても問題ないのでは?」と疑問に思ったことはありませんか。
この記事では、猫がドッグフードを食べても大丈夫かどうかや、長期的に与えるリスク、犬と猫を一緒に飼う場合の注意点などを解説します。
猫にドッグフードを与えても問題ない?
結論からいうと、猫の身体に有害な物質(プロピレングリコール)が含まれていないドッグフードで、少量であれば猫が食べても基本的には問題ありません。
ただし、猫にドッグフードを主食として常食させること、もしくは大量に与えるのは避けるべきです。
なお、少量食べただけでも嘔吐や下痢などの症状が現れた場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。
猫にドッグフードを主食として与え続けてはいけない理由
猫にドッグフードを主食として与えてはいけない理由は、主に以下の3つです。
- 犬と猫では食性が異なるため
- 犬と猫では必要な栄養素が異なるため
- キャットフードで使用禁止の添加物がドッグフードに使われいる場合があるため
それぞれ詳しくみていきましょう。
犬と猫では食性が異なるため
猫がドッグフードを常食すると、必要な栄養を吸収できないばかりか、下痢などの消化器症状が生じるおそれがあります。
犬と猫の消化器の特徴は似ていますが、猫は真正の肉食動物で、犬は肉食動物に近い雑食動物です。
ただし、ここでいう肉とは内臓など小動物の体全体や魚、両生類を指し、私たちが想像する「家畜の肉や魚などの身そのものだけを食べる」こととは異なります。
ペットとして飼育されている場合、自分でハンティングした獲物だけを食べて生きている猫はほとんどいません。しかし、もともと猫は肉の身以外に、小動物の毛皮や内臓、血液に含まれている食物繊維や糖類も摂食していました。
そのため、猫は肉食動物といっても炭水化物である食物繊維や糖類がまったく不要なわけではなく、炭水化物も利用することが可能です。
とくに、授乳期のメス猫の乳汁産生には炭水化物が必要だと考えられており、食物繊維は便秘(巨大結腸症)の予防や糖尿病、高脂血症の管理にも効果があります。
一方、猫の身体は炭水化物の代謝があまり得意ではありません。炭水化物をブドウ糖に分解するアミラーゼが唾液中に含まれないうえ、膵アミラーゼも犬の5%しか産生されない、肝臓でのグルコキナーゼ(=炭水化物の代謝調節を担う酵素)の活性が低い、体長と比較して腸の長さが犬より短いなどの特徴があるためです。
ドッグフードはキャットフードよりも多くの炭水化物を含んでいるため、食べ続けたり大量に食べたりすると健康を害するおそれがあります。
犬と猫では必要な栄養素が異なるため
猫と犬では、必要とする栄養素の種類や量が異なります。
そのため、猫にドッグフードを長期的に与えると、栄養不足につながるだけではなく致死的なトラブルを引き起こすリスクがあります。
たんぱく質要求量の違い
真正の肉食動物である猫は、たんぱく質要求量が犬より多いとされています。発育期の子猫は同じ時期の子犬の1.5倍、成猫になると成犬の2倍のたんぱく質が必要です。
とくに子猫の時期は、食物中のたんぱく質の割合を19%以上にすることが求められます。
必須アミノ酸の必要量の違い
たんぱく質は20種類のアミノ酸から構成されますが、このうち体内で合成できず食物から摂取しなければならないアミノ酸を必須アミノ酸といいます。
犬と猫では必須アミノ酸の種類や必要量が異なり、猫はタウリンを合成する酵素を持っていないことが知られています。
また、猫はアルギニンの必要量が犬よりも多く、アルギニンが欠乏すると高アンモニア血症を起こして致死的となるケースもあるため注意が必要です。
必須脂肪酸の違い
脂肪はエネルギーとして使用される以外にも、脂溶性ビタミンの運搬や吸収などの働きがあります。
猫は脂肪の代謝能力は高いものの、犬のように脂肪酸の一種であるリノール酸からアラキドン酸を合成できないため、リノール酸のほかにアラキドン酸が必須です。
なお、アラキドン酸は動物組織、とくに内臓や神経組織に多く含まれており、植物油脂には一般的には含まれていません。
必要なビタミン類・要求量の違い
犬とは異なり、猫はトリプトファンからナイアシンを合成する能力が低いため、犬の4倍ものナイアシンが必要です。
また、猫にはβカロテンからビタミンAに変換する酵素がなく、ビタミンAという形で摂取する必要があります。
キャットフードで使用禁止の添加物がドッグフードに使われている場合があるため
日本では、愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)により、犬と猫のペットフードに関する基準が定められています。
プロピレングリコールは無味無臭の有機化合物で、毒性が低いため保湿剤や乳化剤として食品添加物や化粧品などに使用されていますが、ペットフード安全法ではプロピレングリコールを猫用の販売用ペットフードには使ってはならないという規定があります。
この規定は、アメリカ食品医薬局(FDA;Food and Drug Administration)の基準に従う形で定められました。
プロピレングリコールがキャットフードに使用禁止となったのは、猫に血液毒性が認められるという理由であり、ドッグフードへの使用は禁止されていません。そのため、猫に健康被害を及ぼす危険性のあるドッグフードが存在します。
毒性試験において猫に有害な影響が認められたプロピレングリコールの量は、一日量で猫の体重1kgあたりおよそ0.7g~1.6gです。
犬と猫を一緒に飼う場合に気をつけることは?【体験談付き】
「猫がドッグフードを食べる」ことは、猫と犬を一緒に飼っている方に起こり得る状況といえます。先述のとおり、ドッグフードを主食として与えたり、大量に食べさせたりしなければほぼ問題ありません。
しかし、ドッグフードとキャットフードをうっかり間違えてしまうトラブルも考えられるため注意が必要です。
我が家にもほぼ同年齢の犬と猫がいるため、自分自身の体験談を踏まえて気をつけていることをお伝えします。
私は、一日量の食事を計量し、犬と猫それぞれの名前を書いたタッパーに入れて与えています。
食器もタッパーも違うものを使っていますが、恥ずかしながら犬と猫のフードを取り間違えて与えてしまいました。
猫には2種類のキャットフードを混ぜて与えており、1種類が大きめの粒だったので猫がほんの少し口をつけたところで間違に気づき、慌てて取り上げました。
間違いの原因は、タッパーから食器に移す際に取り違えてしまったことと、目視で確認せず犬と猫に無意識に与えたことでした。(猫のほうが食べるのが遅いため猫に先に食事をあげる習慣があります)
犬と猫に食事を与える際に気をつけていること
犬と猫の食事を間違えて与えたのは一度だけですが、それ以来食器にフードを移す際と、彼らの目の前に食事を出す前にはしっかりと確認する習慣がつきました。
さらに、昔飼っていた猫が夜中にキャットフードの袋を破って散らかし、大騒ぎになった経験からドッグフードやキャットフードは必ず棚の中にしまうことを心がけています。
なお、フードの話ではありませんが犬と猫を一緒に飼う場合、犬が猫のトイレの砂を誤食するケースが多々みられるため、猫のトイレの置き場所にも工夫が必要です。
我が家の場合は、犬も猫も食事の際や不在時にはケージに入れる習慣があり、相手の食事を誤って食べることはありません。
しかし、室内で犬と猫に食事を与える際や、自動給餌器を利用している場合はそれぞれ相手の食事を食べてしまう可能性があるため注意が必要です。
こうしたトラブルを防ぐためにも、以下のような工夫をおこないましょう。
- 猫には犬が届かないような場所で食事を与える
- 自動給餌器を使用する場合は部屋をあらかじめ分けて置く
- 食事の時間をずらす
- 置きエサをしない
また、高額な費用はかかりますが、飼い主さまのなかにはマイクロチップを読み取ってその個体にしか反応しない自動給餌器を使用し、時間差で食事を与えている方もいらっしゃいます。
プロピレングリコール使用のドッグフードを購入しないことも有効
猫に健康被害を及ぼすおそれがあるプロピレングリコールは、フードをしっとりとさせる目的で使用されており、主に半生タイプのドッグフードや、ジャーキーなどの加工品のおやつに含まれています。
そのため、半生タイプのドッグフードや加工品の犬用おやつは最初から犬に与えないことも、猫のドッグフード誤食による大きなトラブルを防ぐ方法の一つです。
私自身も、犬と猫の両方が食べられるよう、食品添加物が不使用で素材そのものを乾燥した魚や肉、レバーなどをおやつに選んでいます。
おやつは主に、犬のしつけをする際のご褒美として使っていますが、猫もおやつがあると喜んでハウス(ケージの中に入る)をしてくれます。自分自身も安心して与えられるため、犬と猫を一緒に飼っている方にはおすすめです。
【まとめ】猫がドッグフードを食べないように工夫しよう
猫の身体に有害な物質(プロピレングリコール)が含まれていないドッグフードであれば、少量であれば猫が食べてもほとんど問題はありません。
しかし、犬と猫は必要な栄養素が違うため、猫にドッグフードを主食として毎日与えたり、大量に食べさせたりすることは避けてください。
とくに、犬と猫を一緒に飼っている方は、食事の管理や与え方を見直し、猫が犬の食事を食べないよう工夫して誤食を防ぐことが大切です。
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