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【獣医師執筆】犬に必要な栄養素とカロリー目安とは? 健康管理のポイントを解説

執筆者:大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経 ...プロフィールをもっと見る

食事の目的は、単に空腹を満たすことだけではなく、日々元気に生きていくための栄養をしっかり取ることです。
では、わたしたち人間と同じ栄養バランスの食事は、犬にとって十分な栄養が摂れる食事と言えるのでしょうか?

この記事では
・犬に必要な栄養素とそのバランス
・犬に必要なカロリーの計算方法と給餌量の計算方法
についてまとめました。

犬に必要な栄養バランスだけではなく、一日にどれくらいのカロリーが必要なのかを知ることは、愛犬の健康管理に役立ちます。ぜひ参考にしてください。

犬に必要な栄養素とは?

栄養は、生命活動の営みを支えるために必要なものです。
そして、健康維持のために体外から取り入れる物質を栄養素といいます。
栄養素はタンパク質・脂質・炭水化物・ミネラル・ビタミン・水に分けられます。
タンパク質や脂質は身体をつくり、炭水化物はエネルギーになり、これら3つの栄養素を体内で利用するためにはビタミンやミネラルが必要です。
また、水は消化や吸収をはじめ、物質の溶解や体温調節、血液・リンパ液の成分として生命維持に欠かせません。

タンパク質

タンパク質には、
・健康な細胞の維持
・筋肉、皮膚、骨、爪、県、血液、酵素、ホルモン、免疫抗体などの身体をつくる
などの役割があり、生命維持のためにもっとも大切な栄養素です。
とくに犬にとっては非常に重要な栄養素で、「スーパーフード」といっても過言ではありません。

必要なタンパク質が不足すると、以下のような問題が発生しやすくなります。
・成長に異常をきたす
・正常な生理機能が保てなくなる
・免疫機能が下がる
・健康状態の悪化

脂質

脂質とはその性質を表す総称のことをいい、食品のなかの脂質は「脂肪」と呼ばれます。
脂質の役割は、
・細胞膜や脳、神経伝達細胞に欠かせない要素をもつ
・心臓、肝臓、腎臓の機能を維持する
・ホルモンや胆汁の合成材料となる
・脂溶性ビタミンの吸収に必要
・身体を守り、エネルギー源になる
などです。

脂肪は13gあたり9kcalのエネルギーを供給するため、効率の良いエネルギー源です。
また、犬は脂肪の吸収率が90%以上と高く、食事中の脂質量が少なすぎると他の栄養素の吸収率が低下することがあるため注意が必要です。

炭水化物

糖質と食物繊維で構成された栄養素です。
糖質の主な役割はエネルギー源(1gあたり4kcalのエネルギーを供給)です。
食物繊維には、腸内環境を正常に保ち、血糖値の上昇を緩やかにし、排便促進や腸の蠕動運動を刺激する役割があります。

犬は炭水化物源の主成分であるでんぷんの消化は不得意で、摂りすぎると未消化物を生じる傾向があります。

ミネラル

体重の4%程度ですが、体内で重要な生理作用を担っています。
多量ミネラル(カルシウム・リン・マグネシウム・硫黄・塩素・ナトリウム・カリウム)
と、微量ミネラル(鉄・亜鉛・銅・マンガン・ヨウ素・セレン・コバルトなど)があります。

ミネラルは、以下のような役割を担っています。
・骨の形成や強化
・細胞のイオンバランスやエネルギー代謝、神経伝達
・タンパク合成、細胞膜形成
・酵素の活性化因子

ミネラルの吸収にはミネラル間のバランスが重要です。
他のミネラルと関連・競合して働き、特定のミネラルの過剰又は不足が生じると体内での吸収率や代謝・働きに影響を及ぼします。

犬の食事でとくに気を付けるべきなのは、カルシウムとリンのバランス、そして亜鉛不足です。
カルシウムとリンは1:1~2:1になるようにし、このバランスが悪いと骨の成長や骨密度に悪影響を与えます。
亜鉛は手作り食で不足しやすいミネラルで、不足すると脱毛や角化症を生じます。

ビタミン

エネルギー源にはなりませんが、微量で正常な発育や代謝を保つための働きがあります。
水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンがあります。
<水溶性ビタミン>
・水に溶ける性質のため、余剰分は尿に排出される
・ビタミンB群、ビタミンCなど

<脂溶性ビタミン>
肝臓に蓄積され過剰摂取は中毒を起こす
・ビタミンA、D、E、Kなど

人間と異なり、犬はビタミンCを体内で作ることができます。
また、ビタミンB群とビタミンKも腸内細菌の働きにより体内合成できますが、抗菌剤の服用や腸内環境が悪い状態では不足することがあります。

成熟した動物の体重の約65%は水分で、その2/3は細胞内にあります。
健康な動物では、食べたり飲んだりして供給される水と、排泄される水の量はほぼ等しく、体内の総水分量は一定に保たれています。

体内における水の役割は、主に物質の溶解と体温調節です。
食べたものの栄養素は消化酵素によって分子が小さくなり、体内に吸収されますが、この反応はすべて物質が水に溶けた状態で進行します。
栄養素の吸収だけでなく、細胞形態の維持や体内の物質の移動にもすべて水が必要です。

また、水分をもっとも多く含む組織は筋肉で、もっとも少ないのは脂肪組織です。
そのため、筋肉量が少ない幼犬や高齢の犬、そして肥満の犬は脱水症状を起こしやすいため注意が必要です。

さらに、水分摂取量の変化は内分泌疾患などの病気が関与している場合があるため、普段から愛犬の飲水量をチェックする習慣をつけましょう。

犬に必要な栄養素のバランスは?

わたしたち人間も犬も同じように栄養素は必要ですが、理想のバランスは異なっています。
厚生労働省が発表しているエネルギー産生栄養バランス(タンパク質・脂質・アルコールを含む炭水化物とそれらの構成成分が総エネルギー摂取量に占めるべき割合のこと)
※1によると、人間に必要な栄養バランスは炭水化物が50~65%、脂質が20~30%、タンパク質が13~20%に対し、本来犬に必要な栄養バランスは、タンパク質が50%、脂質が44%で炭水化物はほんの6%と、タンパク質と脂質がほとんどの割合を占めています。

一方で、現在ペットフードの基準として採用されているAAFCO(米国飼料検査官協会)※2の基準では、タンパク質が19%、脂質が12%、炭水化物が69%と人間に近いバランスで定められており、とくに消化器への影響が懸念されています。

良質なタンパク質をメインにビタミンやミネラルを取り入れ、栄養バランスのよい食事を毎日与えるには、市販のドッグフードではなく手作り食がおすすめです。しかし、毎食すべて手作りするのはとても手間がかかります。

私自身、動物栄養学を学び、愛犬の食事を完全手作り食で頑張った時期もありましたが、学んだとおりに食事を作るのは非常に大変でした。

とはいえ、愛犬の満足度は高く喜んで食事を食べてくれる上に、当時抗がん剤治療中で皮膚によく膿皮症ができていたのが、手作り食に変更したとたんまったくできなくなった経験があります。

このように、手作り食にもメリットとデメリットがあります。
市販のドッグフードを使用する場合は、ウエットフードを与えると炭水化物の量を少し減らすことができるため、手作り食が難しい場合は併用してみるのもおすすめです。

ドライフードの水分は約10%、ウエットフードの水分は約75%なので、あまり水を飲まないタイプの犬の水分補給にも有効です。ぜひ活用してみてください。

犬に必要なカロリーは?

犬に必要なカロリー(一日あたりエネルギー要求量Daily Energy Requirement:DER)を把握すると、適切な給餌量がわかります。適切な給餌量で適正体重を維持して、愛犬の健康管理を行いましょう。

計算方法はいくつか存在しますが、ここでは米国でもっとも普及している安静時エネルギー要求量(Resting Energy Requirement:RER)に基づいたクライバー推定式を用いて計算します。
ただし、体格や代謝の個体差などには十分に対応できないため、あくまで目安として利用してください。

<一日あたりエネルギー要求量(DER)の計算方法>
まずは安静時エネルギー要求量(RER)を求めてから、ライフステージと係数を用いて計算します。

●安静時エネルギー要求量(RER)の計算式
70×(体重kg)0.75

安静時エネルギー要求量(RER)、ライフステージと係数を用いた一日当たりエネルギー要求量推定式

子犬(0~4ヶ月)3.0×RER
4か月齢~成犬2.0×RER
成犬1.8×RER
成犬(不妊・去勢済み)1.6×RER
肥満のリスクがある成犬1.2~1.4×RER
減量用1.0~1.2×RER(理想体重のRER)
体重増加用1.2~1.8×RER(理想体重のRER)

<計算例>
  【2kgの生後4か月で不妊手術をしていない犬の場合】
●安静時エネルギー要求量(RER)を求める
(電卓を使う場合の方法)
70×(体重kg)0.75
→ ① 2×2×2 (3回掛け算)
  ② ①の数字に√を2回押す
  ③ その数字に70を掛ける
2×2×2=8に√を2回1.6817・・・に×70=118Kcal(小数点以下四捨五入)

●一日あたりエネルギー要求量(DER)を求める
ライフステージの表を確認すると係数が2.0×RERなので
2.0×118Kcal=236Kcal となります。

給餌量の計算方法

どれくらいの量の食事を与えればよいかは、カロリーの数字のままではわかりづらいため、給餌量の計算方法についてお伝えします。

ドッグフードの袋の裏側などには、そのドッグフードが100gあたりどれくらいのカロリーがあるかが記載されています。
参考までに、子犬用など成長期のフードの場合は100gあたり400kcal~450Kcal、成犬用は100gあたり350Kcal前後、減量用のフードは100gあたり300Kcal切るくらいがおよその目安です。

ドッグフードの種類やメーカーによってカロリーが異なるため、まずはご自身が愛犬に与えているドッグフードのカロリーを確認してください。
次に、上記で計算した一日に必要なカロリーの量に100を掛けて、その数字を与えているドッグフードの100gあたりのカロリーで割ると、一日に必要な給餌量がわかります。

<計算例>
一日あたりエネルギー必要量が236kcalの犬のドッグフードの量
与えているドッグフードが100gあたり350kcalのドッグフードとすると
236×100÷350=67g(小数点以下四捨五入)となります。

また、この量は一日あたりのドッグフードの量なので、この量を一日2回、成長期の子犬の場合は3回に分けて与えます。
活動量や体格によっても量は変わるため、愛犬の体調を確認しながら増減して調整してみてください。

まとめ

今回は、犬に必要な栄養バランスとカロリーの目安について解説しました。
1日に必要な栄養素とカロリーを知ることは、愛犬の健康管理を行う上で非常に大切です。

しかし、適切な食事を与えていても、体調不良を起こしたり、体重が減少したりするケースはあります。
また、栄養バランスを考慮して手作り食にしても、飼い主さまがストレスを抱えてしまうのであれば逆効果です。

「栄養バランスとカロリーは絶対に守らなければいけない」と決めつけるのではなく、愛犬の体調や生活環境に合わせて、日々食事を見直していきましょう。

参考:
※1 厚生労働省
※2 AAFCO(米国飼料検査官協会)

ABOUT ME
大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら 専門知識や経験を活かして各種メディアや個人サイトでライターとして情報を発信している。
ライフワークは「ペットと飼い主様がより元気で幸せに過ごすお手伝いをする」こと。
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