ドッグフード

【獣医師執筆】ドッグフードの正しい保存方法は?タイプ別で安全に保存する方法を解説

執筆者:平松 育子
獣医師・ペットライター山口大学農学部獣医学科卒業山口県内の複数の動物 ...プロフィールをもっと見る

みなさん、ドッグフードをどのように保存していますか?

袋のまま、小分け、タッパー、冷蔵庫などさまざまな保存方法がありますが、ドッグフードのタイプによって適切な方法は異なります。

正しく保存しないと、ドッグフードが劣化して健康被害につながるおそれがあるため注意が必要です。

本記事では、ドッグフードのタイプ別に正しい保存方法を紹介します。また、間違った保存方法による具体的な健康被害や、保存料についてもまとめました。

安全にフードを保存する方法を知り、愛犬の健康を守りましょう。

【タイプ別】ドッグフードの保存方法

ドッグフードは、開封すると劣化が進みます。風味が薄れるだけではなく、健康を害するおそれもあるため、正しい方法で保存しましょう。「ドライフード」「ウェットフード」「半生フード」のタイプ別に、適切な保存方法を紹介します。

ドライフード

ドライフードはコスパが良く、長期保存に向いています。

犬のドライフードは1kg包装以上のものが多く、大袋で販売されているものがほとんどです。大袋の場合は開封すると劣化が始まるため、保存の仕方には注意が必要です。

食事の回数分、袋を開閉するたびに酸化が進んでしまいます。そのため、開封したら1週間分ずつ小分けにして保存しましょう。

小分けにする際は、袋の空気を抜くようにすると劣化しにくくなります。脱酸素剤や乾燥剤を利用すれば、より鮮度を保持しやすくなるでしょう。また、真空パック機を購入するのもおすすめです。

500g単位で小分けされているドライフードもあるため、購入するときはできるだけ小分け包装になっているものを選んでみてください。

小分けにしたあとは、冷暗所で保存します。高温多湿の場所は劣化が進んでしまうため避けましょう。

また、冷蔵庫で保存すると、出し入れするときに温度差が生じて結露が発生します。酸化やカビが発生する原因となるため、冷蔵庫保存も避けてください。

開封していない袋は、床に直置きして保管しがちですが、直置きも劣化につながるおそれがあります

とくに、1階の場合は床下と室温の温度差から袋内に結露が発生し、開封していなくても袋の中で劣化が進みます。棚の中で保存するか、床の場合は「すのこ」を敷きましょう。

ウェットフード

ウエットフードとは、水分含有量が75%程度のフードです。

缶やトレイ、レトルトパウチなど形状はさまざまですが、ドライフード以上に劣化しやすいという共通点があります。

また、開封しなくても高温多湿の場所に保管すると、中で脂が溶け出し、開封時に脂が浮いている状態にもなりかねません。そのため、開封前の保管は冷暗所が基本です。

開封と同時に鮮度が落ち始めるため、開封後はできるだけ2日以内に食べ切りましょう。

開封したら、缶のままでも、陶器やガラスなどの容器に移し替えてもかまいませんが、ラップや蓋をして乾燥を防ぎ、冷蔵庫に保管してください。

空気が入ると酸化が進むため、容器にラップをかける前に落し蓋のようにフードの上にラップを載せ、残ったフードができるだけ空気に触れないようにすることもコツです。

開封後のウエットフードは冷凍保存も可能です。小分けにしてラップでくるんだり、製氷皿に入れたりして冷凍庫で保存します。

ただし、冷凍保存をすると、におい移りや風味の低下が起こりやすいため、食欲がわかないケースもあります。冷凍したものを食べてくれるかどうか、少量から試してみてください。

半生フード

セミモイストやソフトドライとも呼ばれる半生フードは、水分含有量が25~35%程度のフードです。ドライフードよりもカビが生えやすく、腐敗しやすいため、少量の小分けになっているものが多くみられます。

50~100g程度の小分けになっている場合は、できるだけ2~3日で使い切りましょう。開封後は、タッパーなどの密閉容器に入れて冷蔵庫で保管してください。

大袋の中にフードが直接入っている場合は、3日分や1週間分ずつ小分けにしてから保管してください。保管上のコツや注意点についてはドライフードと同様です。

ドッグフードを正しく保存しないとどうなる?

ドッグフードは、開封した瞬間から徐々に劣化が進みます。

正しい方法で保存していないと、酸化してカビが生えやすくなり、風味の低下につながるため注意が必要です。

酸化

酸化とは、食品と空気中の酸素が化合する現象です。主に、熱や光の影響で酸化が起こりやすくなります。

ドッグフードの酸化は、香りや色調に変化をもたらします。とくに、フレッシュな香りや繊細な風味が特徴のドッグフードでは、酸化による変化が顕著に現れます。

ドッグフードに含まれる成分でとくに酸化の影響を受けやすいのは、脂質や油分です。脂質や油分が酸化すると過酸化脂質に変化します。

過酸化脂質は、アレルギーや動脈硬化、ガンなどの発症リスクを高めるとされている成分です。

カビの発生

カビは、湿度70%以上、温度20~30℃の環境で、栄養分や酸素があるとどんどん増えていきます

万が一ドッグフードの袋の中でカビが発生すれば、あっという間に全体に広がってしまうでしょう。

一般的なカビは、最低温度が5~10℃でも発育するため、冬でも油断はできません。とくに暖房がきいた部屋は、カビが発生しやすい温度といえます。

窓に結露ができるように、ドッグフードの袋の中にも結露は発生します。そのため、ドッグフードを正しく保管していないと、湿気によってドッグフードが水分を含み、カビが発生しやすくなります。

風味が悪くなる

三大栄養素として含まれる脂質は、犬の健康面だけではなく、食べ物の味や香りを良くする役割もあります。

一般的に、ドッグフードの味や香りといった嗜好性は、脂質の量や質、種類に左右されるといわれています。

ドッグフードが劣化するにつれて、脂質の酸化が進むため、風味が悪くなってしまうおそれがあるでしょう。

劣化したフードによる健康被害

万が一、酸化やカビが発生したドッグフードを愛犬に与えてしまうと、健康被害を招く危険性があります。

酸化したフードが与える影響

犬は脂質に対する嗜好性が強いため、ドッグフードは一般的に脂肪含有量が高くなっているのが特徴です。

ドッグフードに含まれる脂質は、製造時の加熱処理や貯蔵・輸送、さらに開封後の貯蔵中に酸化し、ドッグフードの品質低下を引き起こします。

酸化した脂質は栄養価が低下するほか、さらに酸化が進むとアルデヒドやケトンなどの有害物質を生成し、毒性を示すようになります。

このような脂肪を食べてしまうと、下痢や嘔吐などの消化器症状を引き起こしかねません。

また、肝臓や腎臓に影響を及ぼし、老化が進んだり、動脈硬化を起こしたりするおそれもあります。

カビが発生したフードが与える影響

ドッグフードにカビが発生しても、初期段階ではわかりにくいかもしれません。しかし、においが変化したり、べたつきがあったりする場合、カビがはびこっている可能性があります。

アフラトキシンは、カビの一種のアスペルギルス・フラバスによって生成されるカビ毒です。ペットフードの原料となる穀物で発生することがあります。

アフラトキシン中毒を起こした犬は、元気がなくなり、肝臓にダメージを受けて肝機能障害を起こします。食欲不振や嘔吐、下痢、黄疸などの症状が生じるおそれがあり、治療が遅れれば命の危険にもからされかねません。

また、アオカビ属やコウジカビ属のカビによって生成されるカビ毒に、オクラトキシンがあります。

オクラトキシンは、主に腎臓に影響を与えます。多飲多尿やタンパク尿などの腎機能障害を引き起こすことがあるため注意が必要です。腎臓の機能回復が難しい場合は、腎不全につながって亡くなる場合もあります。

アフラトキシン、オクラトキシンともに発がん性物質であることが報告されています。

【事例】開封したらフードが劣化していた

10kgの大袋のドッグフードを購入した飼い主さまから「新しい袋を開けたら、いつもと同じ商品のはずなのにフードの感じが違う」というご相談がありました。

ワンちゃんも、いつもなら喜んで食べるのに、嗅ぎにきても食べなかったそうです。

そこで、その商品を持参してもらうと同時に、ワンちゃんのことも心配なので動物病院まで連れてきてもらいました。

ドッグフードの袋を開けると、確かに異臭がして、べたつきもひどい状態でした。

フードをかき混ぜてみたところ、底のほうから一部黒くなっているフードが出てきたので、念のためメーカーに送りました。

かなり品質劣化が進んでおり、体調不良の原因となるので回収し、新しい商品を送ってもらうことで解決しました。

食いしん坊のワンちゃんでしたが、劣化が進みいつもと違うことにいち早く気づいたのでしょう。体調不良を招かずに済んだので安心しました。

添加物について

ドッグフードには、さまざまな添加物が加えられています。

添加物の主な目的は「着色料・発色料」「栄養バランスをとるため(ビタミンやミネラル)」「風味をアップするため(香料・フレーバー)」「品質を安定させるため」などです。

なかでも、品質を安定させるために使用される添加物には「保存料」と「酸化防止剤」があります。

保存料

保存料は、ドッグフードが腐敗する原因となる微生物の繁殖を抑え、長期保存を可能とするための添加物です。

「ソルビン酸」「ソルビン酸カリウム」がよく使用されています。

ペットフード安全法では基準が設定されていませんが、いまのところ犬に対する健康被害は報告されていません。

酸化防止剤

酸化防止剤は、ドッグフードに含まれる油脂などの酸化を抑制するために使われます。

「エトキシキン」「BHA]「BHT」「亜硝酸ナトリウム」「ローズマリー抽出物」「ミックストコフェロール」などが代表的です。

酸化防止剤は、種類や使用方法によっては健康に悪影響を与えるおそれがあります。

しかし、長期保存することを前提としているドッグフードの場合、酸化防止剤が含まれていないと油脂が劣化してしまい、消化器症状を引き起こす原因となります。

「ローズマリー抽出物」や「ミックストコフェロール」は天然由来の酸化防止剤で、多くのドッグフードに使用されています。

「エトキシキン」「BHA]「BHT」「亜硝酸ナトリウム」は合成されたものです。これらは、ペットフード安全法で使用が制限されていますが、犬の身体に影響しない使用範囲内であれば問題ありません。

【まとめ】ドッグフードは正しい方法で保存しよう

ドッグフードの保存方法について紹介しました。ドッグフードを正しく保存しないと、酸化やカビの発生により健康被害を招くおそれがあります。

とくに、大袋のドッグフードはコストパフォーマンスには優れていますが、食べ切るまでに時間がかかるため、劣化には注意してください。

犬の体格に合ったフードのサイズを選び、適切に保存することを心がけましょう。また、開封すると劣化が早まるため、できるだけ早く使い切ることが大切です。

ABOUT ME
平松 育子
獣医師・ペットライター
山口大学農学部獣医学科卒業
山口県内の複数の動物病院で代診を務めたのち、2006年に動物病院を開業。
ペット関連のウェブライターとして、多数のメディアの記事執筆、監修を行う。
2023年6月 ペット専門の記事作成会社「アイビー・ペットライティング」設立。代表を務める。
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