執筆者:平松 育子
獣医師・ペットライター山口大学農学部獣医学科卒業山口県内の複数の動物 ...プロフィールをもっと見る
低脂肪のドッグフードというと「ヘルシーでダイエットに効果的」というイメージをもつ方が多いのではないでしょうか。
しかし、脂肪の量が少なすぎても、健康に大きな影響を与えてしまいます。そのため、低脂肪フードのメリットとデメリットを把握し、必要な場合にのみ与えることが大切です。
この記事では、低脂肪ドッグフードの特徴やメリット・デメリット、療法食の低脂肪フードとの違い、低脂肪フードへの切り替えが必要となる病気について解説します。
低脂肪のドッグフードとは
低脂肪とパッケージに書かれたドッグフードは何種類もあります。しかし、成分表に書かれた脂肪の含有量は一定ではありません。
実は、低脂肪ドッグフードとは脂質割合が低いドッグフードを指し、明確な基準は決められていないのが現状です。
市販のドッグフードの脂肪含有量は平均的に12~15%のため、それよりも脂質の割合が低ければ低脂肪と考えてよいでしょう。
低脂肪のドッグフードの種類
低脂肪のドッグフードには総合栄養食と療法食があり、目的が異なります。
総合栄養食の低脂肪ドッグフード
総合栄養食の低脂肪フードは、脂肪の含有量が低めに設定されており、おもに減量を目的として利用されます。
先述したとおり、低脂肪の明確な基準はなく、同じメーカーのものに比べると低脂肪としているケースがほとんどです。そのため、低脂肪と記載されていても、脂肪の含有量はメーカーによって異なります。
おおよそ10%以下のものに対して低脂肪としている場合が多いでしょう。
療法食の低脂肪ドッグフード
療法食の低脂肪ドッグフードは獣医師の診断に基づき、薬と同様に処方されるフードです。低脂肪にしなければならない病気があることを診断したうえで食べていくフードのため、定期的な血液検査が必要となります。
療法食の場合、脂肪の含有量は7%程度です。低脂肪になっているだけではなく、対象とされる病気に対応できるよう、ほかの成分にも配慮がみられます。
低脂肪のドッグフードのメリット
低脂肪のドッグフードにはさまざまなメリットがあります。
ダイエットに向いている
脂肪のエネルギーは1gあたり9kcal、タンパク質や炭水化物のエネルギーは1gあたり4kcalです。同じ1gでもエネルギーの量は約2倍違うため、脂肪を多く摂取すると消費するのに時間がかかり、余剰分は蓄積されます。
ダイエットを行う場合は脂肪の含有量に注意が必要となるため、低脂肪のドッグフードが最適といえるでしょう。
ダイエット目的で低脂肪を選ぶ場合は、高タンパクなものを選んでください。タンパク質は筋肉量維持や免疫力維持などの働きに関係します。
シニア犬におすすめ
ライフステージに合わせたドッグフードも販売されていますが、低脂肪のドッグフードはシニア犬におすすめです。
高齢になると消費カロリーが減少するため、成犬期のころと同じドッグフードを食べていると肥満になりやすくなります。
肥満の状態は関節に負担がかかり、関節炎や靭帯損傷の原因となってしまいます。また、体重超過は心臓にも大きな負担を与えかねません。
肥満気味のワンちゃんで、シニア用のフードにするか減量用のフードにするか迷った場合は、低脂肪のドッグフードで減量したあとにシニア用に変更する方法もあります。
病気の治療に使用できる
のちほど詳しく説明しますが、低脂肪の食事に変更したほうがよい病気があります。
栄養素が関係してくる病気の場合、内服薬などの投薬治療だけではなく、その病気に適したドッグフードに変更することが重要です。
低脂肪のドッグフードのデメリット
脂肪は三大栄養素の一つで、体にとって重要な働きをしています。そのため、長期にわたって低脂肪のフードを食べるとデメリットが生じます。
皮膚や被毛に潤いがなくなる
脂質は、犬の皮膚や被毛の健康を保つために重要な栄養素です。
そのため、低脂肪のドッグフードを長期間与えると、皮膚や被毛に潤いがなくなり、パサついたりフケが出たりするおそれがあります。
かさつきが気になる場合は動物病院で相談してみましょう。
風味が悪くなる
脂質には、ドッグフードの香りや味を良くする役割もあります。
低脂肪のドッグフードは、おいしいと感じるのに重要な働きをしている脂質が少ないため、食いつきが悪くなることが懸念されます。
低脂肪フードへの変更が必要となる病気
以下の病気を患っている場合は、低脂肪のフードへの切り替えが必要となる可能性があります。
胆泥症
胆汁が濃縮されてドロドロの「胆泥」となり、胆嚢にたまっていく病気です。
胆泥症(たんでいしょう)が起こるはっきりとした原因はいまだ判明していません。加齢などの影響で胆嚢の収縮力が低下して胆汁の排出が滞ることや、何らかの疾患に伴い胆汁の性状が変化することが原因である可能性が高いと考えられています。
胆泥症は、高脂血症や脂質代謝異常をもっている犬に多く見られ、脂肪分の多い食事やおやつも原因の一つであるため、低脂肪フードへの変更が必要です。
胆嚢粘液嚢腫
胆嚢粘液嚢腫(たんのうねんえきのうしゅ)は、ムチンが胆嚢に過剰に蓄積することによって、肝臓から胆嚢、胆管、十二指腸という胆汁の排泄経路に大きな問題を生じている状態です。
ムチンはネバネバとした物質で粘り気が強く、胆嚢に蓄積すると固いゼリー状になります。その結果、本来胆汁で満たされるはずの胆嚢内をムチンが占拠してしまいます。
最終的にはムチンが胆嚢の壁を内側から圧迫し、最悪の場合は胆嚢破裂を引き起こします。
胆嚢が破裂してしまうと胆汁性腹膜炎を起こし、命の危険にもさらされかねません。
胆嚢粘液嚢腫の発症には「高コレステロール」「高中性脂肪血症」などの高脂血症を引き起こす脂肪代謝異常が関係しています。
タンパク漏出性腸症
タンパク漏出性腸症は、消化管からタンパク質が漏れ出すことで、血液中のタンパク質が極端に減少する病気です。
おもな原因としては、消化管のリンパ腫、慢性腸症、リンパ管拡張症などが考えられます。
タンパク漏出性腸症の場合、脂肪を摂取してもリンパ管からリンパ液とともにタンパク質が漏出してしまうため、低脂肪食を与えてタンパク質の漏出を防ぎます。
また、食物繊維はタンパク質の利用効率と消化性を低下させることから、低脂肪かつ消化しやすいタンパク源、繊維を多く含まない食事が適切です。
膵外分泌不全
膵外分泌不全(すいがいぶんぴつふぜん)は、膵臓から分泌される消化酵素が何らかの理由で分泌されなくなり、とくに脂肪の分解ができなくなることから泥状の脂肪便を大量にするようになる病気です。
膵臓からはタンパク質、デンプン、脂肪などを分解するさまざまな消化酵素が分泌されています。
脂肪を分解する酵素は膵臓から分泌されるリパーゼで、この酵素の分泌が低下するため脂肪の摂取が大きな負担となります。そのため、食事では低脂肪食への変更が推奨されます。
膵炎
膵炎(すいえん)になると、膵臓の炎症を抑えるためにさまざまな治療が行われ、その一環として低脂肪のドッグフードへの切り替えが必要です。
膵臓からはインスリンというホルモンや、リパーゼなどの消化酵素が分泌されます。とくに、膵炎には消化酵素の分泌が悪影響を与えてしまいます。
食事中の脂肪が多いと膵臓が活発に働き、さらに炎症がひどくなるため、低脂肪のドッグフードが推奨されます。
結石
低脂肪と結石は一見無関係に思えますが、肥満になると結石ができやすくなるため注意が必要です。
脂肪が代謝されるとシュウ酸ができるため、摂取する脂肪が多いほど尿中のシュウ酸濃度は高くなります。シュウ酸とカルシウムが結合するとシュウ酸カルシウム結晶ができます。
シュウ酸カルシウム結晶は療法食では溶解できず、結晶が大きくなり結石になると手術で取り除かなければなりません。
肥満傾向にある場合は、低脂肪フードにして減量に取り組むのがよいでしょう。
実際に、タンパク漏出性腸症のワンちゃんに低脂肪食への変更をお願いしたことが何度もあります。
多くの方が「フード変更できるかな?」という状況で変更してくださいましたが、やはりフードの力は偉大で、フード変更のみでも便の状態が改善していきました。
また、内服薬を投与しても変化が見られなかった胆泥症のワンちゃんにも、いろいろとお話をして低脂肪食に変更いただいた経験があります。
半年近く内服薬を投与しておられましたが、フードを低脂肪のものに変更して1か月後の検診で胆泥の状態が変化し、6か月後にはほぼ胆泥が確認できない状態になりました。
こうした経験から、食べたものが影響する病気の場合は、食事内容の検討が非常に大切だと再認識できました。
おすすめの低脂肪ドッグフード3選
太りやすく体重が気になる子や、シニア犬におすすめの低脂肪ドッグフードを紹介します。
【まとめ】低脂肪のドッグフードは目的に合わせたものを取り入れよう
低脂肪のドッグフードのメリット・デメリットや与える際の注意点についてお話ししました。
低脂肪というとダイエットに適したイメージがありますが、消費カロリーが減少しやすいシニア犬や病気治療にも使用できます。普通食としても療法食としても活躍するドッグフードです。
避妊去勢後のワンちゃん用のフードで体重維持が難しい場合には、低脂肪のフードに一度切り替えてみることも可能です。
ただし、長期的に低脂肪のドッグフードを使用すると被毛のパサつきやフケの発生などにつながるため、心配な方はかかりつけの動物病院で相談することをおすすめします。
「愛犬に合うドッグフードがわからない・選べない」と思いませんか?
愛犬の情報を入力するだけで、合う可能性のあるフードを診断します。