しつけ

犬の正しい叱り方は?間違った方法や気をつけるべきポイント

執筆者:原 京子
動物看護士、ペットショップでの生態管理、動物園飼育スタッフなどを経験 ...プロフィールをもっと見る

犬を飼っていると、「叱る」場面は多かれ少なかれ発生します。
しかし、間違った叱り方をしてしまうと、愛犬との間に弊害が生じるおそれがあります。
正しい叱り方とは、一体どのような方法なのでしょうか。
ここでは、愛犬を叱るときのポイントや注意点について、詳しくまとめました。

「叱る」と「怒る」の違いが重要

「叱る」と「怒る」は、混同しがちですが、実は内容が異なります。

・怒る:目的もなく自分の感情を相手にぶつけること
・叱る:相手の至らない点や改善すべき点を明確に示し、次の行動に導くこと

たとえば、愛犬が思うように指示に従わない場合、暴言を吐いたり手をあげたりすることは「怒る」に該当します。
これに対し、「ダメ」「ノー」という単語で指示をするのは、「叱る」に該当します。

犬のしつけで必要なのは、「叱る」ことです。
犬に怒っても、何に対して言われているのか理解できないばかりか、さまざまな弊害が生じるおそれがあります。

「怒る」ことで起こり得る弊害

愛犬を怒ってしつけてしまうと、以下のようなトラブルにつながります。 ・飼い主がいるときだけ言いつけを守る

・飼い主を嫌う、怖がる、不信感を抱くようになる
・怒られたときの環境に対して嫌な思いを抱くようになる
・怒られただけでは学習することができず、同じことをいつまでも繰り返す
・構ってもらえた(ご褒美)と勘違いする

犬は怒られたことを理解できないため、結果的にいつまでも問題行動を解決することができません。 暴力や体罰でしつけた場合、飼い主の言うことをきくのは暴力を恐れているからで、「いけないこと」だと学習したわけではありません。

飼い主に対し恐怖や不安を常に抱くようになれば、強いストレスから体調を崩すリスクが高まってしまいます。 飼い主さんは、叱る必要の有無や、「叱る」と「怒る」の判別をしっかりと付けて、しつけを行う必要があります。

間違った犬の叱り方

犬を飼う場合、叱るという行為は避けて通れませんが、知らぬ間に間違った叱り方(怒り方)をしているケースも少なくありません。
よく見られる間違った叱り方は、以下の通りです。

・名前を呼んで叱る
・マズルを押さえる、首の後ろをつまむ
・事後に叱る
・力でねじ伏せる
・叱ったり叱らなかったりする

それぞれ詳しく解説していきます。

名前を呼んで叱る

「〇〇、いけない」や「〇〇!」と、叱るときに名前を呼ぶ方は少なくないのではないでしょうか。
愛犬の名前を呼んでしまうのは、間違った叱り方の代表といえます。

叱られるたびに名前を呼ばれると、犬は「名前を呼ばれること」自体に嫌な印象を持ってしまいます。
本来自分の名前は、必要なタイミング(動物病院など)や褒められる際に呼ばれるものです。

愛犬にとって、名前を呼ばれることは良いことだと認知させるためにも、叱る際には名前を呼ばないよう、家族全員で徹底しましょう。

マズルを押さえる・首の後ろをつまむ

マズルとは、鼻先から口にかけての部分です。
愛犬がいけないことをしたとき、マズルを抑えたり首の後ろの皮膚をつかんだりする方法は、体罰に当たります。

犬にとって鼻先は非常に敏感な部分で、信頼している相手にしか触らせません。
マズルを押さえながら怒ることは、愛犬にとって強い嫌悪感を抱かせる要因です。
また、愛犬の首の後ろの皮膚をつまむ行為は、皮膚が引っ張られて非常に苦しい思いをします。
苦しい思をさせられた犬は、飼い主さんのことを嫌いになり、攻撃的になることもあります。

事後に叱る

いくら正しい方法で叱っていても、時間が経ってから叱ったのでは意味がありません。
たとえば、「帰宅したら部屋を荒らされていたので叱った」などが該当します。

犬は事後のことを𠮟られても、何に対して叱られているのか理解できません。
犬を叱るタイミングは、必ずいけないことをした直後にしましょう。


いけないことをしたとき、「力で押さえつける」「殴る」「蹴る」といった暴力も、体罰に当たるため絶対にしてはいけません。

体罰で犬をしつけると、飼い主さんに対し恐怖心を抱くようになり、ヒステリックになったり攻撃的な性格になったりするおそれがあります。

叱ったり叱らなかったりする

自分の気分や都合に合わせて、叱ったり叱らなかったりするのもよくありません。
いけないことをしたときは、必ず直ぐに叱るようにしないと、犬はいつまでも学習することができないほか、いつまでも怒られ続けることは、飼い主さんとの信頼関係が崩れてしまいます。

自分の気分や都合に捕らわれず、いけないことはいけないことだと、愛犬に学習させることが飼い主さんの務めです。

正しい犬の叱り方

では、愛犬と良い信頼関係を築くためには、どのように叱るのがよいのでしょうか。
正しい愛犬の叱り方は、以下の通りです。

・無視をする
・短い単語で叱る
・適切なタイミングで繰り返し叱る

無視をする

犬がいたずらをするのは、飼い主さんに構ってもらいたいからです。
しかし、ここで甘やかしてしまうと、いたずらはどんどんエスカレートしてしまいます。
このような場合は、無視をする方法がおすすめです。
無視をする叱り方には、いくつかルールがあります。

・一切目を合わせない
・声をかけない
・触らない
・家族全員で行う

無視をする方法は、感情的になってしまいがちな飼い主さんの冷静さを取り戻すためにも有効です。
無視をする際は「一切見ない」「話さない」「触らない」を家族全員で徹底しましょう。

時間は15~30分を目安に行い、その間愛犬がどんなにすがってきても無視を続けます。
決めた時間の後、「おすわり」や「まて」など学習済みのコマンドを一つ使用し、うまくできたら無視を終了して褒めてあげます。

短い単語で叱る

犬は、人間の言葉をすべて理解することはできません。
そのため、長々と説教をしても意味がなく、効果も得られません。

叱る際には、「ダメ」「ノー」など短いワードを一つだけ使用します。
犬が叱られていると認識できるよう、「ダメ」「いけない」など複数の単語の使用は控えましょう。

また、単語を使う際には連呼せずに、低い声で一括することが大切です。
「ダメダメダメ」や「ダメだよ」などと、余計な言葉を付け加えないよう注意しましょう。
余計な言葉を付け加えると、犬が混乱してしまいます。

適切なタイミングで繰り返し叱る

叱るタイミングは、いけないことをした直後です。
例えば、帰宅した際、愛犬がいたずらをしていたことを叱っても、何に対して言われているのか理解することができません。

この場合の叱るタイミングは、いたずらした直後です。
直後に叱れない場合(留守中など)は、いたずらができないよう、柵やケージなどを使用して事前に対策をします。

また、賢い頭脳を持つ犬でも、一度でしつけを完璧にマスターすることは不可能です。
犬のしつけは、根気強く何度も繰り返し行う必要があります。

愛犬とうまく付き合う方法

叱ってばかりの生活は、双方にとって良い結果に繋がりません。
愛犬と暮らす毎日をなるべく楽しく過ごすためには、叱る行動を少しでも減らしたいものです。
叱る行動を事前に回避するために、以下の方法を試してみましょう。

・叱るよりも褒めて学習させる
・叱る環境を事前に回避する
・心に余裕がないときは無理に触れ合わない

叱るよりも褒めて学習させる

犬のしつけは、叱るよりも褒めることで学習させるほうが効率的です。
褒めることは、飼い主さんにも愛犬にも負担が少なく、かつ早く学習させることができます。

叱るべきときに叱ることは必要ですが、しつけの基本は「褒める」であることを忘れてはいけません。

叱る環境を事前に回避する

愛犬がいたずらをしたくなるような環境を作らないことも、愛犬とうまく付き合う方法です。

・愛犬がいたずらをしては困るものは側に置かない
・散歩のときに第三者と遭遇したら、接触する前にわき道にそれる

飼い主さんが先手を打って行動することで、叱らなくてもよい状況をつくれます。
「本当に叱る必要があるのか」「叱るべきことなのか」を冷静に判断して行動しましょう。

心に余裕がないときは無理に触れ合わない

いつもは愛犬に優しくできても、心に余裕がないときにいたずらをされると、つい感情的になってしまう方は少なくないでしょう。
たとえば、飼い主さんが次のような状態のときは注意が必要です。

・ストレスが溜まっている
・体調が悪い
・疲れている
・忙しい
・嫌なことがあった

疲れていたり、ストレスが溜まっていたりして心に余裕がないときは、愛犬と接触する時間を最低限に減らすのも、トラブル回避に有効です。

無理に自分だけで愛犬の世話をしようとするのではなく、ときには家族に頼り、ゆっくり心を落ち着かせてから愛犬と触れ合いましょう。

まとめ

・犬のしつけで正しいのは「叱る」ことで、「怒る」は間違い
・怒ると飼い主を嫌いになったり不信感を抱いたりするようになる
・間違った叱り方は名前を呼ぶ、力でねじ伏せる、事後に叱るなど
・正しい叱り方は無視をする、短い単語を使う、直後に叱るなど
・愛犬のしつけは叱るよりも褒めることを優先する
・叱る必要を最低限にする工夫をする

犬は、昔から人間の側にいる賢いパートナーです。
愛犬が人間社会で安全に生きていくためには、飼い主さんがしっかりとしつけをする必要があります。
しかし、そのしつけ方を間違えると、愛犬と飼い主さんの双方にデメリットが生じてしまいます。
愛犬を叱るときは、正しい方法・タイミングで行うことが大切です。

参考:
「正しく叱れていますか?」~怒ると叱るの違い~【CAM】

ABOUT ME
原 京子
動物看護士、ペットショップでの生態管理、動物園飼育スタッフなどを経験。ペットと飼い主さんが正しい知識で生活できるよう情報を発信している。
保有資格:愛玩動物介護士、愛玩動物救命士、愛玩動物搬送士、ドッグライフカウンセラー
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