病気・ケア

ほうれん草が持つ栄養とは?犬に与える目安量や注意点を獣医師が解説

執筆者:大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経 ...プロフィールをもっと見る

ほうれん草は、栄養素が豊富でわたしたち人間にとっては身近な野菜です。
しかし、シュウ酸が多く含まれるため、動物病院で犬に与えてもよいかを聞くと「あまりおすすめできません」という先生が多いと思います。

この記事では、犬にほうれん草を与えても問題はないのか、そしてほうれん草が持つ栄養と犬に与えた際の健康上のメリット、与える際の注意点についてまとめました。

犬にほうれん草を与えても大丈夫?

結論からいうと、犬にほうれん草を与えても問題はありません。
しかし、与える量や調理方法には注意する必要があります。

また、ほうれん草にはシュウ酸が多く含まれています。
ゆでることでシュウ酸の量は半減すると言われていますが、愛犬に尿石症の既往歴がある場合(とくにシュウ酸カルシウム結晶がある場合)は与えないのが安心です。

ほうれん草の栄養素

ほうれん草はβカロテン・ビタミンK・ビタミンC・鉄・ルテインが豊富です。
貧血や目の疲れ・ドライアイ・便秘などの改善に効果が期待できます。
中医学的には余分な熱を取って体内の機能を落ち着かせる効果があり、疲労や体力不足・虚弱体質の改善にも役立つと言われています。
ほうれん草に含まれる主な栄養素は以下の通りです。

カロリー18kcal
水分92.4g
たんぱく質2.2g
脂質0.4g
炭水化物3.1g
食物繊維総量2.8g

※引用元:文部科学省│日本食品標準成分表2020年度版 可食部100gあたり

次に、ほうれん草が持つ栄養特性についてご紹介します。

βカロテン

βカロテンとは植物に含まれるカロテノイドの一種です。
ビタミンAに変換されて作用し、身体の中では皮膚や粘膜の健康維持に役立っています。
また、強力な抗酸化作用があり、活性酸素を除去してアンチエイジング効果や免疫機能を高める効果があると言われています。

ビタミンK

ビタミンKとは脂溶性ビタミンの一種で、緑色野菜や納豆に多く含まれています。
生体内でのビタミンKには、血液凝固に補酵素として働き出血を止める役割や、カルシウムを骨に沈着させて丈夫な骨の形成を促す働きがあります。

ビタミンC

ビタミンCには抗酸化作用があり、細胞を活性化させ、免疫を高める効果があると言われています。
コラーゲンの生成に必須のビタミンで、骨や腱・皮膚・毛細血管を強化する働きとその健康維持に役立つビタミンです。

また、ほうれん草に含まれるビタミンCの量は収穫する時期によって変動し、夏採りよりも冬採りの方がビタミンCの量が多いとされています。
人間とは異なり犬は体内でビタミンCを合成することができますが、免疫が低下している犬や高齢犬にはより多くのビタミンCが必要です。

生体に必要なミネラルの一種で、体内ではその多くが血液中のヘモグロビンとして存在します。
そのため、鉄が不足すると赤血球の中の辺グロビンが減少し、貧血の原因となります。

生体内での鉄の主な役割は、酸素の運搬や酸化還元反応です。
また、ビタミンCや動物性たんぱく質と併せて摂るとより吸収しやすくなる特徴があります。

イワシなどの魚とほうれん草・大根など、ビタミンCや鉄分・カルシウムが一緒に摂れるレシピがおすすめです。
なお、手作り食をメインとして与える場合には、自己流のレシピでは栄養のバランスをうまくとるのが難しいため、動物栄養学を学んでから行うことをおすすめします。

ルテイン

ルテインとは、植物だけが作り出せるカロテノイドの一種です。
体内では眼の中の黄斑部・水晶体に存在している物質で、目の健康維持に欠かせない物質です。
緑色の野菜に多く含まれ、ほうれん草はケールの次にルテインが多く含まれています。

犬にほうれん草を与える健康上のメリット

野菜に含まれる色素や香り・苦みなどの成分は抗酸化作用があり、病気の原因となる活性酸素を除去し、免疫機能を高めると言われています。

また、野菜を週に3回以上食事に取り入れた場合に、ガンのリスクを低下させる効果が期待できます。

ほうれん草は、環境省監修の飼い主のためのペットフードガイドラインにおいては注意が必要な食材として挙げられていますが、ルテインや鉄など、とくにシニア犬にとっては有用な栄養素が含まれています。

わたしも動物栄養学の勉強会で、ほうれん草は「量と与え方に注意すれば食事の一部として摂取するおすすめの有用な食材」と学びました。
さらに、目のケアや造血作用を期待した心臓ケア、老化防止のための手作り食レシピの食材のひとつとして紹介されているレシピを目にする機会もあります。

自分自身の経験からも言えることですが、愛犬が総合栄養食のドッグフードをよく食べて元気なときは「食」について悩まなくても、シニアになって食欲が減退し病気が増えてくると、手作り食の導入を一度は考えると思います。
そのような場合に、ほうれん草のような身近な食材の栄養特性や注意点を知っておくことは、愛犬の生活の質を保つことに繋がります。

犬に与えてよいほうれん草の目安量

ほうれん草を間食として犬に与える場合は、基本的に全給餌量の10%を越えないようにコントロールする必要があります。

また、手作り食の材料の一部として与える場合は、タンパク質をメインにして野菜や果物は全体量の20%以下に抑える必要がありますが、シュウ酸の問題を考慮して10%を超えない量が安心です。
犬に与えてよい具体的な目安量は表の通りです。
体重当たりの1日量のカロリーより、与える量を算出しました。

体格及び目安の体重ほうれん草の量(見た目の目安)
超小型犬(~4kg)~9gまで: 1本
小型犬(~10kg)9g~18g: 1株(4~5本)
中型犬(11kg~25kg)19g~36g:2株弱(7本)
大型犬(26~44kg)37g~55g: 3株(12本)
超大型犬(45kg~)56g~:4株(16本)

*避妊去勢済みの成犬の一般的なドッグフードのカロリー(100g中350kcal)で
 一日量の10%で算出

ほうれん草を犬に与えるときの注意点

ほうれん草を犬に与える際には、以下のようなポイントに気をつける必要があります。

・与える量に注意する
・ゆでてから与える
・毎日続けて与えない

与える量に注意する

身体によいからといって、大量にほうれん草を与えるのはおすすめできません。
上記の目安量を参考にして、必要以上に与えないようにしましょう。

また、初めてほうれん草を与える際は、まずは少量を与えて愛犬の体調の変化がないかを確認してください。
万が一愛犬の体調に変化が見られた場合は、かかりつけの動物病院を受診しましょう。

ゆでてから与える

前述したとおり、ほうれん草にはシュウ酸が多く含まれています。
シュウ酸は水に溶けやすいため、3分間ゆでることで量が半減すると言われています。
健康な犬に与える場合も、ゆでてから与えることで尿石症のリスクを減らすことができます。

なお、ほうれん草以外にもキャベツ・さつまいも・コーン・大豆などシュウ酸が多く含まれている食材には注意が必要です。

毎日続けて与えない

一日の許容範囲の量であっても、毎日続けてほうれん草を与えるのは控えましょう。
身体によいとされている食材でも毎日同じものを繰り返し与え続けることで、アレルギーや食物不耐性の問題が発生するおそれがあります。

さらに、ほうれん草の場合は継続して毎日与えると、シュウ酸カルシウム結晶の原因とになることがあるため、とくに気をつけなければなりません。
本来は、食事に含まれるシュウ酸は腸の中でカルシウムと結合し、便として体外に排出されます。

しかし、食事の中のカルシウム摂取量が少ない場合は、体内吸収されて膀胱で結晶化しやすいと言われています。
手作り食がメインの場合は、ミネラル分が不足する傾向があるため注意が必要です。

ほうれん草を与えてはいけないケース

健康な犬であれば1日の目安量を参考に、与え方に注意すれば問題はありませんが、以下のような場合にはほうれん草を与えることは控えましょう。

尿石症の症状がある犬や既往歴がある犬

前述のとおり、ゆでることによってほうれん草のシュウ酸は減らすことができ、さらに水分を十分に摂ることによって、ある程度の対策は可能です。

しかし、すでに尿石症の症状がある犬にはさらに症状が悪化する危険性があります。
また、尿石症の既往歴がある犬にもほうれん草を与えるのはおすすめできません。

とくに療法食を食べている犬にほうれん草を与えるのは控えるべきです。

消化器症状がある犬や子犬

犬の消化器は肉食動物の特徴に近く、タンパク質や脂質の消化は得意ですが野菜や果物などの食物繊維の多いものの消化はあまり得意ではありません。

そのため、消化器症状がある犬や腸の免疫機能が不完全な子犬は、消化器症状が悪化するおそれがあります。

アレルギー疾患がある犬

アレルギー疾患がある犬にも、ほうれん草は与えないようにしましょう。
また、ほうれん草を与えて、消化器症状や皮膚の赤み・痒み・呼吸困難などの症状がみられた場合は、それ以降もほうれん草を与えるのは控えるべきです。

まとめ

ほうれん草にはβカロテン・ビタミンK・ビタミンC・鉄・ルテインなど豊富な栄養素が含まれており、健康な犬には有用な食材です。
しかし、シュウ酸が多く含まれているため、与え方や量には注意する必要があります。
ゆでることでシュウ酸の量は半減すると言われていますが、尿石症の症状や既往歴がある犬や消化器症状がある犬は、症状が悪化するおそれがあるため与えるのは控えてください。
また健康な犬に与える場合も、毎日続けて与えることは避け、一日の目安量をしっかりと守りましょう。

ABOUT ME
大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら 専門知識や経験を活かして各種メディアや個人サイトでライターとして情報を発信している。
ライフワークは「ペットと飼い主様がより元気で幸せに過ごすお手伝いをする」こと。
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