病気・ケア

太り過ぎかなと思った時の対処は?犬のダイエット方法について【獣医師が解説】

執筆者:大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経 ...プロフィールをもっと見る

米国の獣医師と飼い主さまを対象に実施した調査(※1)で、獣医師に肥満・体重過多と診断された犬や猫の飼い主さまの90%が「自分のペットは正常な体重だと感じている」という結果が発表されました。さらに、42%の飼い主さまが「ペットの理想体重がどのようなものかわからない」状況であることが明らかとなっています。

犬は全身に毛が生えている上に、体格も犬種によってまったく違うため、飼い主さまがそう思われるのも無理はないでしょう。
わたしも診察時には「このくらいの体格だったら、何キロくらいの体重がちょうどいいでしょうか?」という質問をよくいただきます。

そこでこの記事では

  • 愛犬の適正体重を調べる方法
  • 愛犬が痩せない理由
  • 肥満が及ぼす影響
  • 太りすぎかな、と思った時の対処法

など、適正体重や肥満・ダイエットに関する情報をまとめました。

愛犬の適正体重を調べる方法は?

犬は犬種によって体格がかなり違うため、体型のチェックをするために獣医療分野でよく使われるのが、ボディコンディションスコアBody condition Score;略してBCS)という指標です。
BCSは触診と視診をあわせて判断する指標で、具体的には肋骨・腹部・腰椎と尾の付け根まわりの脂肪の蓄積状態に基づいた判定法です。
BCSは、9段階評価または5段階評価が用いられています。
それぞれの評価のうち、理想的な体型を表すのは以下のとおりです。

<9段階評価で4または5>

  • わずかな体脂肪が肋骨を覆っており、肋骨は容易に触知できる。
  • 上からみた時に腰のくびれが容易に認められる。
  • 腹部のへこみがはっきりとわかる
  • 肋骨を覆う余分な体脂肪はなく、肋骨に容易に触知できる
  • 上からみた時に肋骨の後ろに腰のくびれが見え、腹部が引き締まっている

<5段階評価で3>

  • 肋骨がわずかに脂肪に覆われ触知できる
  • なだらかな輪郭またはやや厚みのある外見で、薄い皮下脂肪の下に骨格構造が触知できる
  • 腹部のへこみがあり、適度な腰のくびれがある

愛犬が適正体重であるかどうかを知る方法は、上記のBCSの内容を参考に愛犬の身体、とくに肋骨付近に触れて、どのぐらいの脂肪がついているかを調べることです。
そして、上からみて腰のくびれがあるかどうかもチェックしてみましょう。

肋骨の上に分厚い脂肪が乗っていて、触ってもどこに肋骨があるかわからない場合は、明らかに適正体重を超えています。
逆に、肋骨が浮き出ていて砂時計のような極端な腰のくびれがある様な体型は、痩せすぎと判断します。
どの部分に触ればよいかわからない場合や、愛犬のBCSの評価がよくわからない場合は、かかりつけの動物病院で教えてもらいましょう。

なお、BCSを使って理想体重を求める計算式など、色々な計算式がありますが、推定値や目安にはなるものの、絶対的に正確とはいえません。
実際には体重とBCSを参考にしながら食事をコントロールしていく方法が、一番わかりやすくておすすめです。

愛犬が痩せない理由

人間に飼われている犬は、テーブルの上のものを盗み食いするなどの例外はあるものの、基本的に自分で食料を調達することはできません。
それゆえ「うちの子、全然痩せないです!」という場合は、多くは人が犬に与えている食べ物の量、または与えている食べ物の内容に原因があります。

以下の①~⑤は、無意識のうちに飼い主さまがやっていることが多い行動パターンです。
もし当てはまるものがあれば、それが痩せない原因のひとつかもしれません。

  1. ご褒美に愛犬におやつをいくつも与えている
  2. ご家族全員で「1個だけだよ!」といって全員が1個ずつ愛犬に何かを与えている
  3. お食事の際に愛犬におねだりされて「ちょっとだけだよ」と人間の食べ物を与えている
  4. 愛犬の食事は量らずに目分量で与えている
  5. 人間の感覚の量でおやつや果物などを与えている

わたしが飼い主さまによくお話しするのは、
「体重5kgの子に直径3センチくらいの犬用のクッキーを一つ与えるのは、人間にたとえるとハンバーガーを一個食べたのと同じですよ」という例えです。

愛犬が口にするもの=人間が与えているものです。
ダイエットが必要なのに愛犬がまったく痩せない場合は、気づかないうちに食べ物を与えすぎていないかどうか、また高カロリーのものや脂肪分が高い食べ物を頻繁に与えていないかを、ご自身やご家族で確認してみる必要があります。

肥満が及ぼす影響

「この子は体重が多すぎるからダイエットしましょうね」とお伝えすると、
「先生、犬は寿命が短いから好きなものを好きなだけ食べさせてあげたいです!」
という飼い主さまが(少数の方ですが)いらっしゃいます。

しかし、「肥満は万病のもと」と言われる通り、肥満は脂肪細胞から分泌されるサイトカイン(細胞から分泌されるタンパク質のことで、免疫細胞を活性化させたり抑制したりする働きがある)によって慢性炎症を引き起こし、ガンや呼吸器疾患・膵炎などの原因になると考えられています。

さらに、過食による肥満は犬の寿命を縮めるという研究データもあります。
「体重過多のために関節に負担がかかってお散歩もやっとの状態、ちょっと動くと呼吸が苦しくなって動くのが大嫌い」という愛犬の状態は、元気で長生きして欲しいという飼い主さまの望みとは相反するものと言えるでしょう。

狼の子孫である犬は、獲物を捕まえた時に食いだめができるようにと、一度にたくさんの量が食べられる胃の構造をしています。
また、犬にも満腹中枢が存在しますが、人間よりもかなり感度が鈍いため「犬には満腹中枢はない」と言われてしまうのです。

そのため、愛犬任せにすると、どんどん食べてあっという間に肥満になってしまいます。
愛犬が日々元気に過ごすためには、肥満にならないように飼い主さまが気をつけてあげることが必要です。

なお、過食が原因による肥満以外にも、クッシング症候群や糖尿病などの内分泌疾患による症候性肥満、ステロイドの長期投与などが原因の薬物性肥満もあるため、お水をやたらに飲んで尿をたくさんする多飲多尿の症状がある場合は動物病院で検査をしてもらうことをおすすめします。

太りすぎかな、と思った時の対処法

犬の効果的なダイエット方法は、

  • 与えている食事やおやつの量を減らす
  • 与えている食事やおやつの質を低カロリー・低脂肪のものに変える

の2つです。

お散歩などの運動を増やすのは、まったく効果がないわけではありませんが、食事を変える方がダイエットには効果があります。
極端なダイエットは身体に負担がかかるため、週に0.5%~2%の体重減少速度が望ましいです。(例:5kgの犬→週に25g~100g体重を減らしていくペース)

また、どのぐらいの食事量を減らせば体重がどれくらい減るかわからない場合は、今与えている量から毎週1〜2割ずつ減らしていく方法もあります。

与えている食事やおやつの量を減らす

おやつを完全にやめられるのであれば、それが一番よいですが、なかなか難しいのが現実です。
そこで、愛犬の一日分の食事やおやつを量って用意し、その中から与える方法がおすすめです。その際は、計量カップではなく、デジタルスケールなどの量りを使って正確な量をはかりましょう。理由は、計量カップは誤差が多すぎるからです。

また、犬は一度に美味しいものをもらうよりも、何度ももらえる方が満足感を抱くと言われています。
一日の決められた量は守りつつ、ご褒美としてフードを与える、細かくしたおやつを与えるなど、ご自身と愛犬がストレスなく全体の食事やおやつの量を減らせるよう工夫してみましょう。

与えている食事やおやつの質を低カロリー・低脂肪のものに変える

食事の量を減らすのが無理な場合は、低カロリー・低脂肪の食事に変更する方法もあります。
まずは現状与えているフードのカロリーを確認してみましょう。
パッケージに100gあたりどれくらいのカロリーか記載があります。
種類にもよりますが、ドライフードであれば100gあたり300Kcal前後であれば比較的カロリーが低めのフードです。この値を参考にして、ドッグフードを選んでみてください。

また、脂肪分が高い食事もダイエットには適していません。
どんな食事を選んだらよいか迷った場合は、ダイエット用の療法食もあるため、かかりつけの動物病院で相談してみましょう。

手作り食もダイエットには良いと思います。
しかし、自己流で犬用に栄養のバランスを考慮して作るのは難しいため、動物栄養学を学んでから行うことをおすすめします。

運動も効果がないわけではありません!

運動だけでダイエットをするのはほぼ不可能ですが、効果がまったくないわけではありません。
運動を行うメリットは、食事によって摂取したエネルギーを消費する以外にも、脂肪を除いた体組織(筋肉など)を維持し、安静時のエネルギー必要量を増やすことにあります。

犬の場合は、変形性の関節炎や靭帯の断裂などの整形外科的な病気・心疾患・呼吸器疾患がないという条件付きですが、軽度な20分以上の運動を一日2回行うのが有効です。
基本は毎日のお散歩ですが、無理のない範囲でお散歩の距離や時間を長くする、お散歩コースに傾斜のゆるい坂道を登るコースを取り入れるなど、ダイエット目的のためのお散歩にチャレンジしてみましょう。
また、ゆるい坂道をゆっくり登ると、前肢に比べて体重の負荷が少ないため、鍛えにくい後肢の筋トレにもなり一石二鳥です。

お散歩だけでなく、ボール遊びやフードを使った宝探しゲームなど、ご自身と愛犬に合った方法で身体を動かすのも楽しいと思います。
無理な強度の運動や、ご自身や愛犬にとって修行のような楽しくないトレーニングは、継続するのが不可能な上に、身体に負担がかかるため絶対にやめましょう!
楽しく身体を動かすことは、肥満対策だけでなくストレス解消や愛犬とのコミュニケーションを取る助けにもなります。ぜひ積極的に取り組んでみて下さい。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。

参考:
※1 米国ペット肥満予防協会

ABOUT ME
大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら 専門知識や経験を活かして各種メディアや個人サイトでライターとして情報を発信している。
ライフワークは「ペットと飼い主様がより元気で幸せに過ごすお手伝いをする」こと。
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