執筆者:大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経 ...プロフィールをもっと見る
大型犬とは、成犬時の体重が25kg以上の犬です。大きな体を支えて動き回るためには、十分な栄養が必要となります。
その反面、栄養の過剰摂取により整形外科疾患のリスクが高まるケースがあるため注意しなければなりません。とくに、成長期の食事管理には気を使う必要があり、適切なドッグフード選びが大切です。
この記事では、大型犬が健やかに生活するための情報として、ドッグフードの選び方やおすすめのフードを紹介します。
大型犬のドッグフードの選び方
ドッグフードを選ぶ際には、犬種や身体のサイズ、生活環境によって摂取カロリーや栄養バランスを考慮することが重要です。
また、身体が大きく成長する大型犬の場合、骨と関節に負担がかかりやすい、早い年齢から老化への配慮が必要など、各ライフステージによって注意するべきことがあります。
ライフステージごとに、ドッグフードの選び方のポイントをみていきましょう。
成長期(子犬期)
大型犬は、およそ12~24カ月で成熟しますが、最初の12カ月は一気に身体が大きくなり、その後は緩やかに成長します。
成長期であるこの時期には、品質の良い成長期用の総合栄養食を与えましょう。
ただし、栄養やビタミン、ミネラルの過剰摂取には注意しなければなりません。
「健やかに成長できるようにたくさん食べさせよう」と極端に栄養を与えると、体が急速に成長してしまい、体重が増える速さと骨格の発達速度が釣り合わなくなります。その結果、骨と関節の発育障害を招きかねません。
とくに、生後3~8カ月の間の急激な体重増加は、股関節形成不全のリスクが高まるといわれています。
また、カルシウムとビタミンDの過剰摂取は骨の正常な発育を妨げるうえに、食事中のカルシウム含量が高くなると骨軟骨症につながることが知られています。
このような成長期の骨・関節疾患を予防するためには、急激な体重変化に注意し、食事を与えすぎないことが大切です。
なお、総合栄養食を与えているのに、さらにカルシウムを高濃度に含んだおやつやビタミンのサプリメントを与えると、カルシウムやビタミンの過剰摂取につながるため注意してください。
成犬期
成犬期には、肥満や過体重を防ぐことが重要です。そのため、カロリーや脂肪分の少ないドッグフードにするか、与える量を減らしましょう。
また、食事やおやつなど犬に与えるすべての食べ物を、きちんと量ってから与えてください。
成犬になると、エネルギー要求量(成長・運動・身体活動などを含め、生きていくうえで必要なエネルギーの量)が大幅に減ります。
さらに、不妊手術を受けた犬は太りやすくなるため、徹底した食事管理が欠かせません。
肥満や過体重は、関節疾患や内分泌疾患、がんなどのリスクを高め、犬の生活の質を下げるだけではなく、寿命を縮める原因にもなります。
また、犬はもともと早食いですが、とくに大型犬は空気をたくさん飲み込むと胃にガスが貯まり、胃拡張や胃捻転を引き起こすおそれがあるため注意が必要です。同居犬がいる場合は、競って食べさせないように配慮しましょう。
シニア期
一般社団法人ペットフード協会がおこなった令和4年度の調査によると、大型犬の平均寿命は13.81歳です。シニア期とは平均寿命の半分以降、つまり7歳ごろからの時期を指します。
大型犬は、小型犬や中型犬と比較して寿命が短いため、早い年齢から老化への対策(アンチエイジング)をおこなう必要があります。
筋肉量の低下を防ぐために、ドッグフードはたんぱく質が豊富に含まれているものを選びましょう。加齢に伴い筋肉量が低下すると、免疫力が下がるだけではなく、変形性関節症などのトラブルが起こりやすくなります。
また、年齢を重ねると味覚や嗅覚が低下してくるため、フードを温めたり、トッピングをしたりと、嗜好性を高める工夫をしてみてください。
【獣医師推奨】大型犬におすすめのドッグフード
大型犬におすすめのドッグフードを、ライフステージ別で紹介します。
成長期(子犬期)におすすめのドッグフード
成長期は栄養のバランスと急激な体重増加に注意することが大切。専門的な知識がない場合は、手作り食メインの食事はあまりおすすめできません。
成犬期におすすめのドッグフード
成犬期にもっとも注意するべきことは肥満や過体重です。また、代謝をあげてカロリーを消費するために十分なたんぱく質を摂取しましょう。
シニア期におすすめのドッグフード
筋肉量が低下しやすいシニア期には、良質なたんぱく質を含んだドッグフードがおすすめです。
また、一回量が大型犬にとっては少ないため、主食ではなくトッピングとして使用するのにおすすめのドッグフードも併せて紹介します。
【事例紹介】大型犬は異物誤飲に注意
飼い主さまが見ていないときに、愛犬が食べてはいけないものを誤飲・誤食してしまった経験はありませんか。
とくに、口の大きい大型犬は「こんなものは飲み込めないだろう」というものまで誤飲してしまうケースがあります。大きなものや危険物を飲み込んでしまうと摘出が難しく、開腹手術を行わなければなりません。
ここでは、わたしの臨床経験で実際にあった大型犬の事例をお伝えします。
催吐処置(薬を使って吐かせる処置)を行って開腹手術には至らなかった例もありますが、異物誤飲にはとくに注意しましょう。
「食欲はあって食事は吐かないのに、最近毎朝同じ時間に胃液を吐く」という症状で、若い年齢のアイリッシュセッターが飼い主さまと一緒に来院されました。
検査の結果、胃の中に小さな異物らしきものがあり、催吐処置をしたところ、つぶれたラグビーボールのおもちゃが出てきました。
毎朝同じ時間に胃液を吐くのは、胃の中が空っぽになる空腹時にボールが動いていたことが原因だったようです。
ところが、「このボール、3カ月ほど前にお友達と外で遊んでときに見当たらなくなったおもちゃです! 探しても見つからなかったので、なくしたとばかり思っていました」という飼い主さまのお話から、約3カ月間も胃の中にボールがあったことが判明しました。
胃の中に3カ月間もボールが入っていたのに、食欲があって最近まで症状が出なかったのは、胃が大きい大型犬ならではだと思います。
「なんとなく体調が悪そうで、食欲もなく嘔吐する」という症状でラブラドールレトリーバーが飼い主さまと来院されました。
複数の検査をしても原因がはっきりせず、試験開腹をすることになりました。
すると、焼き鳥の串が胃の中から皮膚に突き刺さって外に飛び出していたのです。
飼い主さまが知らない間に、ご家族が誤って焼き鳥を与えたそうです。
通常では飲み込めないような焼き鳥の串を飲みこめるのは、口が大きく食欲旺盛な大型犬だからこそといえるでしょう。
串は開腹せずにあっさりと取り除けましたが、串のような尖ったものを飲み込んでしまうと命の危険があるため注意が必要です。
「12時間前に段ボールをかじって食べてしまった」と、シニア期のロットワイラーが飼い主さまと来院しました。
12時間以上経過すると吐かせるのは難しいこともありますが、多く食べた可能性があるとのことで催吐処置をおこないました。その結果、大量の段ボールの破片が出てきました。
飼い主さまは、「もうシニアだし、ワインが包装してあった固い段ボールをかじるなんて思ってもみなかった」と考えていたようです。
異物誤飲がもっとも起こりやすいのは子犬期ですが、シニア期にも誤飲する可能性は十分にあるため注意しなければなりません。
大型犬によく見られる疾患
最後に、大型犬がかかりやすい疾患を紹介します。これらの病気をできるだけ防ぐためには、適切な食事管理が大切です。また、定期的な健康診断も忘れずに受けましょう。
股関節形成不全
股関節形成不全は発育障害のひとつで、大型犬に多い疾患です。
遺伝的な要因や急激な体重増加など、さまざまな原因で股関節の緩みが生じ、骨盤の骨と後肢の骨がかみ合わなくなることで痛みや跛行が生じます。
治療は、痛みの緩和や体重管理などの内科療法、状況に応じて外科手術をする外科療法でおこないます。
骨軟骨症(離断性骨軟骨炎)
骨軟骨症は、軟骨が骨化する過程で部分的な障害が生じ、関節軟骨(関節の中の骨の骨端の表面にある軟骨)や骨が成長する部分が正常に形成されなくなる骨の発育障害です。
この状態で関節に負荷が加わり、肥厚した軟骨と軟骨下骨との間に亀裂が入って、離断したかけらができたものが離断性骨軟骨炎です。また、離断したかけらが関節内に遊離するケースもあります。
跛行や痛みなどの症状がみられ、鎮痛剤の内服や体重管理、運動制限などの内科療法と、離断した欠片を取り除くなどの外科治療により治療をおこないます。
胃拡張・胃捻転
胃拡張は、胃の中に空気が大量に貯まってしまう疾患です。大型犬に多く見られますが、すべての犬種や猫に発症する危険性があります。
大量の食事を急いで食べることや、食後の急激な運動、ストレスなどが原因で発症します。
さらに胃がねじれる(胃捻転)と、早急に治療しなければ胃や周囲の血流が遮断され、ショック状態で急死する緊急疾患です。
食後に落ち着きがなくなることから始まり、急にお腹が張る、吐きそうなしぐさを繰り返す、よだれがでるなどの症状が見られ、最終的にはぐったりしてしまいます。
胃拡張も胃捻転も死亡率が高い緊急疾患であるため、すぐに胃の中のガスを抜く治療をおこないます。また、状況に応じて開腹手術が必要です。異変に気づいたら、すぐに動物病院を受診しましょう。
胃拡張や胃捻転を防ぐためには、一度に大量の食事を与えない、食後すぐの運動は避ける、旅行先などストレスがかかる状況では体調の変化に注意することが大切です。
変形性関節症
変形性関節症とは、関節軟骨が徐々に損傷する疾患です。
前述した股関節形成不全や離断性骨軟骨炎などの整形外科疾患が主な原因で、二次的に起こるケースが多く見られます。シニア期の犬に起こりやすく、痛みや跛行が主な症状です。
一般的にシニア犬の場合は、症状に合わせて鎮痛剤などを投薬する内科療法をおこないます。
【まとめ】大型犬のドッグフードは年齢に合わせたものを選ぼう
大型犬のドッグフードの選び方や注意するべき疾患、おすすめのドッグフードを紹介しました。
大型犬の食事管理では、ライフステージごとに注意点が異なります。
具体的には、成長期(子犬期)は栄養やビタミン、ミネラルの過剰摂取、急激な体重増加を避けましょう。成犬期は肥満や過体重、シニア期は筋肉量の低下に注意が必要です。
本記事を参考に、各ライフステージに合ったドッグフードを選び愛犬が長生きできるように食事管理を徹底しましょう。
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