執筆者:大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経 ...プロフィールをもっと見る
最近では、原材料としてえんどう豆が使用されているドッグフードをよく見かけるようになりました。
えんどう豆を使用したドッグフードには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
この記事では、愛犬に合ったドッグフードの選びの一助となるように、えんどう豆入りドッグフードの効果やメリット・デメリットを解説します。
えんどう豆入りのドッグフードとは
えんどう豆の主成分は炭水化物とタンパク質です。また、ビタミンB₁・ビタミンB₂、ナイアシンや、ほかの豆にはほとんどないβ-カロテン、豊富な食物繊維が含まれています。
えんどう豆が原材料として使用されているのは、主にグレインフリー(穀類不使用)のドッグフードや、食物アレルギーに配慮して特定のタンパク源の原材料を使用しているドッグフードです。
10年ほど前から、ペットフードの先進国といわれるアメリカではグレインフリー(穀物不使用)のペットフードに注目が集まり、日本でも需要が高まっています。
こうした背景から、えんどう豆はレンズ豆、ひよこ豆、イモ類とともにグレイン(穀物)の代わりとなる炭水化物源として使用されるようになりました。
また、食物アレルギーによる皮膚疾患・消化器疾患の犬の食事管理を目的に開発された療法食としても、えんどう豆タンパクを使用したドッグフードが販売されています。
ペットフードにおけるグレインフリー(穀物不使用)とは、イネ科の植物である小麦、大麦、米、トウモロコシなどを使用しないという考え方が一般的です。
えんどう豆入りドッグフードのメリット
えんどう豆入りドッグフードは、以下のような効果が期待できます。
- 食物アレルギーや食物不耐性(※1)の予防
- すでに生じているかゆみや消化器症状などのアレルギー反応の改善
タンパク質は、健康的な身体を作るために欠かせない栄養素である一方、食物アレルギーや食物不耐性の原因になると考えられています。
えんどう豆は、さまざまな形でドッグフードのタンパク源として使用されてきた大豆と違い、一般的なドッグフードにはあまり使用されていません。
そのため、新奇タンパク質(※2)としての価値が高いと考えられています。
※1 食物不耐性:食べ物が原因でおこる有害反応のひとつで、主な症状は慢性的な炎症反応
※2 新奇タンパク質:今まで摂取したことがないタンパク質
えんどう豆入りのドッグフードのデメリット
何事にもメリットとデメリットがありますが、えんどう豆入りのドッグフードにも気になる情報があります。
アメリカの公的な行政機関であるFDA(Food and Drug Administration;米国食品医薬品局)から発表された以下の内容で、2018年7月に第一報が、その後2019年6月に情報が更新されています。
FDAが発表した内容の要約は以下のとおりです。
2018年7月の発表
- エンドウ豆、レンズ豆、その他の豆類の種子(豆類)、ジャガイモなどを主成分として多く含む特定のペットフード(多くは「グレインフリー」と表示されている)を食べている犬の拡張型心筋症の報告を多数受けたため、食事と拡張型心筋症の関連について調査を開始した
- 拡張型心筋症の原因は遺伝的要素が関与していると考えられ、グレートデーン、ボクサー、ニューファンドランド、セントバーナード、ドーベルマン・ピンシャーなどの大型犬とコッカー・スパニエルに多く見られるが、FDAに報告された犬種の中には通常は拡張型心筋症に遺伝的にかかりにくい犬種で発生している
- 現時点では、食事内容と拡張型心筋症との関連性は不明
2019年7月の発表
- 2014年1月1日から2019年4月30日までの間に、拡張型心筋症の犬の報告を515件受け、それらの犬の食事内容を確認したところ、90%以上がグレインフリー表記製品で、さらに報告された製品の93%にえんどう豆やレンズ豆が含まれていた(メーカー名も発表されています)
- 拡張型心筋症と報告された犬種で多いのは、多い順にゴールデンレトリバー、雑種、ラブラドールレトリバーだった
- 米国には7,700万頭のペットの犬がいると推定されている
- 犬がどれくらいの頻度で拡張型心筋症を発症するかは不明
- 今のところ科学的な因果関係は証明できていない
これらの情報をまとめると、えんどう豆やレンズ豆が含まれるグレインフリーのドッグフードを食べている犬に、拡張型心筋症が多く見られたが、科学的根拠は今のところわかっていないという内容です。
なお、ゴールデンレトリバーとラブラドールの拡張型心筋症の報告が多いのは、2つの犬種が2022年度の米国人気犬種ランキング3位と2位のため、そもそも登録頭数が多いからではないか、という考察もあります。
拡張型心筋症とは
拡張型心筋症(Dilated cardiomyopathy;DCM)とは、心筋が薄くなり心室の収縮機能がうまく働かなくなってしまう心疾患です。
心臓や体全体に血液がたまりやすくなり、うっ血性心不全を引き起こします。
前述したとおり、グレートデーン、ボクサー、ニューファンドランド、セントバーナード、ドーベルマン・ピンシャーなどの大型犬種に好発するほか、中型犬ではアメリカン・コッカー・スパニエル、イングリッシュ・コッカー・スパニエルにも発生が認められています。
拡張型心筋症の明確な原因は明らかになっていませんが、特定の犬種に多く見られることから、遺伝的な要素が影響していると考えられます。
また、タウリンやLカルニチンの欠乏や感染症、自己免疫疾患なども原因として挙げられています。
4~10歳の年齢に多くみられますが、若齢の犬や高齢の犬にも発症することがあり、雄に発症しやすいのが特徴です。
症状は、心室の収縮力や心室が薄くなる進行速度、不整脈や僧帽弁逆流などの合併症の有無などによって異なり、症状が進行すると失神するケースもあります。
初期症状はわかりにくく、咳をする、元気がない、呼吸が速いなどの症状が表れたときは、かなり病気が進行している可能性が高いでしょう。
拡張型心筋症の治療には、血管拡張剤やうっ血をとる利尿剤などを投薬する内科治療が行われます。
えんどう豆入りのドッグフードはあげないほうがよい?
実は、ペットフードやペットの栄養学の歴史はまだ浅く、わかっていないことが多くあります。
えんどう豆入りのドッグフードを与えてようかどうかの判断も、獣医師のなかで意見が分かれるところです。
FDAのホームページのQ&Aでも「食事を変えるべきか」という問いに対して「現時点では、これまでに収集した情報のみに基づいて食事の変更をアドバイスしているわけではありません」という回答がなされています。
詳細が不明な発表ではあるものの、飼い主さま自身が少しでも不安を感じるのであれば、えんどう豆入りのフードをわざわざ与える必要はありません。
反対に、飼い主さまが安心して愛犬に与えられるえんどう豆入りのフードやグレインフリーのフードによって、皮膚症状や消化器症状が改善するなど、愛犬の体調が良くなったのであればそのフードを続けてもよいでしょう。
わたしの個人的な考えですが、遺伝的に拡張型心筋症になりやすい犬種(グレートデーン、ボクサー、ニューファンドランド、アイリッシュウルフハウンド、セントバーナード、ドーベルマン・ピンシャー、アメリカン・コッカー・スパニエル、イングリッシュ・コッカー・スパニエル)の場合は、ほかにフードの選択肢があればわざわざ不安材料を増やす必要はないと思います。
愛犬の体調をよく観察し、不安があったらかかりつけの獣医師と相談して、納得したうえでフードを選ぶことをおすすめします。
愛犬に合ったドッグフードの選び方
ドッグフードは、フードのラベルを確認しながら、愛犬の身体に合ったもの、そして飼い主さま自身が安心して愛犬に与えられるものを選ぶことが大切です。
身体に合うドッグフードとは、その犬にとって消化や吸収が良いフードのことで、高価なドッグフードが必ずしも消化吸収が良いフードとは限りません。
また、手作り食100%にする場合は、亜鉛不足やリンの過剰摂取などが生じるおそれがあるため、動物栄養学を学んだ専門家より指導を受けてから行うことをおすすめします。
フードが愛犬の身体に合っているかどうかのチェックポイント
愛犬の身体に合ったフードか否かは便の状態で、栄養状態が充実しているかどうかは被毛や皮膚の状態でチェックします。
- ティッシュでつまんでも崩れず、地面もほとんど汚れない固さ
- 便の回数は食事の回数プラス1回くらいの回数で、量は少なめ
- 慢性的な下痢や軟便などの症状がない
- 被毛に艶があり、毛量が適切
- 痒みや赤み、湿疹、外耳炎などのトラブルが少ない
食物が原因の有害反応について
食物が原因の有害反応には、大きく分けて食物アレルギーと食物不耐性があります。
食物アレルギーは呼吸困難や顔の腫れといった急性の症状で、食物不耐性は慢性的な低グレードのダメージです。
食物不耐性は食物アレルギーの10~15倍の確率で発症しやすいといわれています。長い期間慣れ親しんだ食材が原因となるため、飼い主さまが気づきにくい点が特徴です。
皮膚の痒み、軟便や下痢などの消化器症状、皮膚炎、外耳炎など慢性的な症状や不調が続く場合、食物不耐性の問題が隠れている可能性があります。
普段から与えているフードやおやつを見直す必要があるでしょう。日頃から愛犬の便や皮膚・被毛の様子をよく観察し、気になる変化は記録しておくことが大切です。
【まとめ】えんどう豆入りのドッグフードは愛犬の身体に合っているかを確認しよう
えんどう豆は栄養価が高く、炭水化物源としてもたんぱく源としても優れている食材です。食物アレルギーや食物不耐性の予防、アレルギー反応の改善が期待できます。
しかし、えんどう豆入りのドッグフードが必ずしも愛犬の身体に合うとは限りません。
普段から愛犬の様子を観察したうえで、飼い主さま自身が安心して与えられるドッグフードを選ぶことがもっとも大切です。
おすすめのグレインフリードッグフード
参考文献
臨床のための小動物栄養学 新井敏郎監修 (株)ファームプレス
統合医療栄養学セミナー 2018年資料 講師 荒木幸子
写真で学ぶ犬と猫の心エコー図検査のABC 柴﨑 哲著 (株)インターズー
https://wayback.archive-it.org/7993/20201222194256/
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