ドッグフード

犬の食事療法食とは?種類や効果・手に入れ方について【獣医師が解説】

執筆者:大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経 ...プロフィールをもっと見る

ペットフードは、法律に基づいた規約・規則によって、利用目的別で4つに分類されています。
その4分類のうちのひとつが「食事療法食(療法食)」です。
さらに、療法食は定義や位置づけが細かく定められています。
この記事では、治療の一環として愛犬の健康をサポートする療法食についての情報をまとめました。

療法食とは?

ペットフードは「ペットフードの表示に関する公正競争規約・施行規則」において、利用目的別に総合栄養食・間食・療法食・その他の目的食の4つに分類されています。

療法食の利用目的は、「獣医師の指導のもとで特定の疾病や健康状態にあるペットのために使用する」ことです。

療法食に必要な条件は以下のとおりです。

  • 栄養成分の量・比率が調整されている
  • 特定の疾病または健康状態にあるペットの栄養学サポートを目的とする
  • 獣医師の指導のもとで食事管理に使用される
  • また、薬事表現に関するガイドラインのなかで定められている療法食の範囲は
  • 犬または猫用であること
  • 主食と主食以外(※)
  • とされています。

動物病院で診察を受けた結果、治療の一環として食事療法によるサポートが必要であると獣医師が判断した場合に使用する食事が療法食です。

※この場合の「主食以外」には、飲料水、肉・野菜乾燥品、味付け用製品、サプリメントなどは含まれません。

療法食の種類

療法食は、獣医師やドッグフードメーカーの独自の判断では作ることができません。
ヨーロッパの法規制を参考にして、獣医療法食評価センターにより「栄養特性に関する基準が定められた療法食リスト」が作成され、その定められた基準に基づいて作られています。

犬と猫が対象ですが、それぞれ内容が少し異なります。
犬用では、次の症状に対する療法食があります。

  • 泌尿器疾患(慢性腎機能低下・尿石症)
  • 食物アレルギーまたは食物不耐症
  • 消化器疾患(急性腸吸収障害・繊維反応性・消化不良)
  • 心疾患(慢性心機能低下)
  • 糖尿病
  • 肝疾患(慢性肝機能低下)
  • 高脂血症
  • 体重管理(肥満・栄養回復)
  • 皮膚疾患
  • 関節疾患
  • 口腔疾患

具体的な栄養特性については、以下のリストを参考にしてください。特定の疾病や健康状態に合わせて、栄養素やミネラルなどを制限、または増強するという内容や、使用する原材料がまとめられています。

<栄養特性に関する基準が定められた療法食リスト>

食事療法が適応となる
特定の疾病または健康状態
重要な栄養特性
慢性腎機能低下A:リンとタンパク質を制限、高品質なタンパク質を利用
B:窒素含有成分の吸収を低減
(少なくともAまたはBのいずれかを満たすこと)
ストルバイト結石(溶解時)尿を酸性化する特性、マグネシウムとタンパク質を制限、
高品質なタンパク質を使用
ストルバイト結石(再発防止時)尿を酸性化する特性、マグネシウムを中程度に制限
尿酸塩結石プリン体とタンパク質を制限、高品質なタンパク質を使用
シュウ酸塩結石カルシウムとビタミンDを制限、尿をアルカリ化する特性
シスチン結石タンパク質を制限、含硫アミノ酸を中程度に制限
尿をアルカリ化する特性
食物アレルギーまたは食物不耐症A:アレルギーまたは食物不耐症の原因として認識されにくい厳選した原材料を使用(加水分解タンパク質、新奇タンパク質、精製したアミノ酸類、等)
B:アレルギーまたは食物不耐症の原因となる特定の原材料の不使用および製造管理による混入防止
(少なくともAまたはBのいずれかを満たすこと)
消化器疾患:急性腸吸収障害
     :繊維反応性
     :消化不良
電解質を増強、高消化性の原材料を使用
食物繊維を増強
高消化性の原材料を使用、脂肪を制限
慢性心機能低下ナトリウムを制限
糖尿病急速にグルコースを遊離する炭水化物を制限
慢性肝機能低下高品質なタンパク質を使用、タンパク質を中程度に制限、
必須脂肪酸を増強、高消化性の炭水化物を増強、銅を制限
高脂血症脂肪を制限、必須脂肪酸を増強
肥満低エネルギー密度
栄養回復高エネルギー密度、高濃度の必須栄養成分を含有、
高消化性の原材料を使用
皮膚疾患必須脂肪酸を増強
関節疾患オメガ3脂肪酸とEPAを増強、適量のビタミンEを含有
口腔疾患噛むことで歯の表面に付着した歯垢を擦りとる食物繊維の層状構造を有する粒特性、カルシウムを制限

療法食の手に入れ方は?

療法食は、獣医師の指導のもとで健康管理に使用する目的の食事です。
そのため、動物病院や、動物病院が提携している動物医薬品販売会社が自宅に配送してくれるサービスで手に入れることができます。

しかし最近では、獣医師の指導なく、安価に療法食を販売する通販サイトが増えています。
このようなインターネット上での購入は、危険性が高く、動物病院や動物医薬品販売会社の間でも問題視されています。
飼い主さまの自己判断によって、本来の使用目的とは異なる療法食を与えてしまっているおそれがあり、健康上のトラブルが発生する危険性があるのです。
また、インターネットで販売されている療法食は、正規品ではない商品や、保管状態が悪いものもあります。

療法食は、治療の一環として使用されるものです。適切に治療を行い、愛犬の健康を守るためにも、獣医師の指導のもとで購入しましょう。

療法食を食べてくれない場合は?

療法食は、ペットの健康サポートを第一の目的として、さまざまな制限のなかで作られています。
最近は嗜好性が高い療法食も増えていますが、必ずしも愛犬の口に合うとは限らず、どうしても食べてくれないときもあります。
そのような場合は、少し工夫をして、愛犬の好みに合う方法を見つけてみましょう。
おすすめの方法は、以下の通りです。

●ふやかす(ささみのゆで汁などを利用してもよい)または温める
●同じ目的の療法食のウエットフードや、違うメーカーの療法食を与えてみる
●だしパックと一緒にタッパーに入れて保管し、風味をつける
→だしパックの中身がフードと混ざらない様に注意する
●ふやかして食べやすく小さく丸めてお団子状にして、手で与える

しかし、どんなに試行錯誤しても療法食をまったく食べない犬もいます。
無理強いをすると、飼い主さまにとっても愛犬にとってもストレスとなるため、一度かかりつけの動物病院に相談しましょう。
食事療法以外で治療する方法や、サプリメントなどで代用する方法などのアドバイスをもらえるはずです。

療法食を自己判断で与えても問題ない?

「腎臓が悪くなると困るから病気になる前に腎臓用の療法食を与えよう」
「病院で療法食を購入したけど、そろそろ普通の食事に戻しても問題ないだろう」などと、自己判断で食事を変更するのはおすすめできません。

繰り返しになりますが、療法食は、投薬や注射と同じように、治療の一環として獣医師の指導のもとで使用する食事です。

自己判断で療法食を与えたり辞めたりすると、療法食の効果がないばかりか、必要な栄養素が足りず、かえって体調が悪くなるおそれがあります。
また、療法食を与える必要がある犬は、血液検査や尿検査など、健康状態の定期的な確認が欠かせません。検査結果の内容によっては、食事の変更も必要です。

動物病院で把握していない自己判断による療法食の使用は、定期的な健康チェックも行えず、愛犬の健康を損ねる危険性があります。
必ず獣医師の判断に従って使用しましょう。

療法食を使ってどんな効果があったの?

すべてのケースで、療法食だけが劇的な効果を発揮するわけではありませんが、わたしが動物病院に勤務しているなかで、とくに療法食の効果があったと感じた3つのケースをお伝えします。

ケース1:トイプードル 3歳

子犬の頃から、お腹が弱くてちょっとしたことで下痢になり、その都度通院を繰り返していました。下痢止めや抗菌剤・整腸剤の投薬などですぐに治りますが、下痢の頻度が多いため、消化器疾患用の療法食に食事を変更しました。
その後はほとんど下痢をしなくなり、現在も療法食を続けています。

ケース2:ミニチュアシュナウザー 2歳

ミニチュアシュナウザーは高脂血症になりやすい犬種です。定期健診で中性脂肪とコレステロールが上昇しているのがわかり、低脂肪の療法食に変更しました。
その後のチェックでは正常値になりましたが、総合栄養食に戻すとまた同じように高脂血症になるため、現在も低脂肪の療法食を継続しています。

ケース3:ミニチュアダックスフント 15歳

膵炎を繰り返し、食欲がまったくなくなってしまいました。そこで、低脂肪の療法食リキッドやミルクの強制給餌を続け、徐々に自力で食べられるまでに回復しました。
点滴の効果もあると思いますが、低脂肪の療法食があって本当によかったと感じています。

これら以外にも、栄養状態が悪い子犬に回復食の療法食を与えたり、肥満で歩くのも大変だった犬にダイエット用の療法食を与えたりなど、数々のケースを見てきました。健康管理において、療法食がサポートしている部分は非常に大きいと日々感じています。
それと同時に、人間もペットも、食べたもので身体が作られていることを改めて実感しました。

まとめ

療法食は、特定の疾病や健康状態にある犬や猫に対して、治療の目的で獣医師が指導し、使用する食事です。
療法食による治療中は、定期的な検査を受け、健康状態を確認する必要があります。
自己判断での療法食の使用は、愛犬の健康を損ねるリスクがあることを理解し、信頼できる場所で購入しましょう。
また、工夫を凝らしても愛犬がどうしても療法食を食べてくれないときは、無理をせずに、かかりつけの動物病院に相談しましょう。

ABOUT ME
大熊 真穂
獣医師。現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら 専門知識や経験を活かして各種メディアや個人サイトでライターとして情報を発信している。
ライフワークは「ペットと飼い主様がより元気で幸せに過ごすお手伝いをする」こと。
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